池田
再発性アフタ性口内炎とはどのような疾患なのでしょうか。
安田
再発性アフタ性口内炎の定義は、2~10㎜の類円形で境界は明瞭で、周囲に紅暈という赤い縁取りがあることです。そして表面には白い偽膜、フィブリンの膜があり、接触痛がある。この接触痛の痛みはNRS(疼痛スケール)でいうと、私の経験ですと5未満のことが多くて、それほど強烈な痛みではないのですが、ずっと口の中にあるとちょっと痛いかなという感じですね。
池田
ずっと何かあって痛みがあると、歯ブラシなどうまくできない感じがありますけれど、口腔内でもいろいろな菌がいますよね。そこに二次感染が生じて悪化したり、遷延化することになるのでしょうか。
安田
はい、そのように考えています。先生のおっしゃるとおり、カンジダ菌や口腔常在菌も、その潰瘍の表面に居座って二次的な微小感染、治癒の遷延を引き起こしているような病態があると考えています。
池田
原因はわかっているのでしょうか。
安田
原因は不明です。
池田
教科書などではストレスと書いてあったりしますが、実際にはストレスが関係するのでしょうか。
安田
そこが臨床でのポイントだと、私も考えているのですが、原因は不明であれど、ストレスのような、複合的な修飾因子があります。私は歯科医師ですから、よく考えて診るのが患者さんの歯の配置ですね。それで、歯とその潰瘍(アフタ性口内炎)のある位置を考えてみると、噛みしめが原因ではないか、ほっぺたを吸引して歯に押し付けているのではないか、あとはアフタがある場合には舌の異常習癖や、唇にアフタがある場合は唇を無意識に吸っている人、擦過している人というのが非常に多いように感じています。
池田
では、八重歯の方では飛び出していたりするので、歯並びとか、あとよく唇を噛むとか、噛みしめるとか癖なのでしょうか。
安田
そうですね。
池田
無認識にやっていることが、ある程度、アフタの再発を誘導しているのでしょうか。
安田
はい。それは非常に強く考えられる因子だと思っています。
池田
でも、本人はあまり意識されていないですよね。
安田
そうですね。本人は無意識にしています。コロナ禍の前までは患者さんがマスクをしていない状態でこういった話をしているので、口をずっと見ながらお話しして患者さんの喋り方、口の力の入り方、あとは知らないうちに、舌を押し出していた、下唇や上唇を噛んでいた、と病態を見抜くといいますか、推測することをよく行っていたのですが、コロナ禍ではなかなか難しいです。
池田
マスクで隠れていますしね。鑑別疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。
安田
もちろん、癌などの悪性疾患ですね。それは最初に考えないといけなくて、まずよく触ってみて、先ほどの、類円形だったり、周囲に紅暈がある、表面に白い偽膜があるかないかというところで、最初のハードルといいますか、悪性腫瘍の鑑別をします。あとはもちろん細胞診もしますし、必要があれば生検もするのですが、それ以外の梅毒やHIVなどの性感染症、あとは口腔扁平苔癬などは、形態や見た目はびらん中心でちょっと違いますから、容易に鑑別がつくところです。天疱瘡などはニコルスキー現象のありなしで判断をしたり、同時に小さい口内炎が多数できて痛みが激し過ぎるものに関してはヘルペス性口内炎を疑ったり、電撃様の疼痛、「ピリピリする」といった症状を訴える方の場合には、片側の口蓋に多いのですが、帯状疱疹を疑ったり、あとはベーチェット病やクローン病など、消化器疾患を伴っている場合には疑ってかかります。
池田
多岐にわたりますし、どれも、何か繰り返し生じてしまいそうですね。
安田
そうですね。
池田
再発性アフタ性口内炎といっても、危ない病気も考えておかなければいけないのですね。
安田
おっしゃるとおりだと思います。
池田
特に先生の所に来られる方はいろいろな治療をされたり、あるいは再発を繰り返していると思いますが、治療はどのように対処されるのでしょうか。
安田
まずはどの教科書を見ても、アフタ性口内炎の治療法としてはステロイドの軟膏やステロイドの噴霧薬と書いてあるのですが、私としてはそこが落とし穴だと思っているところです。患者さんには口腔内、口腔清掃状態があまりよくない方がいらっしゃいます。そういった方の場合には先にステロイドをたくさん使うことによって、菌交代現象が起きてしまい、カンジダ菌が増えていたり、もちろん同時に常在菌も増えていたりすることから、治りづらくなっている患者さんが多くいます。そういった場合には、先に細菌検査をしつつ抗真菌薬などを使ったり、ペニシリン系の抗菌薬などを使ったりして、なんとなく露払いのような気持ちで考えているのですが、そういったところをケアしながら、ステロイドに移行することが多いです。
池田
では、やはりステロイド軟膏よりは噴霧のほうなのでしょうか。
安田
そうですね。当院(東京医科大学)の口腔外科に来院される前に、開業医もしくはご自身の判断で、すでにステロイド軟膏を使っている方が多いので、私が使うのは必然的に噴霧薬が多いです。
池田
二次感染を制御して、それからステロイド噴霧なのですね。
安田
はい。
池田
やはり患者さんたちが先生のところに行かれるのは、再発するからだと思います。その原因として、ストレスなどがあるということですが、再発というのがどのくらいなのか、あるいはどうやって再発を防いでいくのでしょうか。
安田
まず再発がどれぐらいの期間ごとに起こるのか、そのスパンとどれぐらい治らないのかはよく聞きます。それと生活習慣、ストレスのあるタイミングなどを聞くことによって、そのストレスによって引き起こされる口腔異常習癖を抑えるために、四逆散や抑肝散を使うことが多いのですが、そういった漢方薬で対処することもありますし、あと、私の臨床では胸やけなどの消化器症状がある場合には半夏瀉心湯を使ったりすることが多いです。
池田
そういった漢方薬によって効果があるとすれば、再発のサイクルが延びるということですか。
安田
そうですね、再発のサイクルが延びたり、あとは一個一個の治りが早かったりするので臨床上は評価をしています。
池田
我々もアトピー性皮膚炎の痒みのある時や、帯状疱疹の後で少し痛みがある時など、要するにどちらかというと神経のほうに左右するような感じで抑肝散を使っていますが、先生が抑肝散を使われるのも、そういった方向性でしょうか。
安田
はい。筋肉の異常興奮を抑えて、筋肉の力の入りを抑えるような目的で使っています。
池田
なるほど。
安田
筋の異常運動といいますか、異常習癖の解除というか、そういった意味合いで抑肝散を使うことが多いですが、もちろん末梢神経と中枢神経の興奮を抑えるというデータもありますので、先生がおっしゃられた背景もかなりあると思います。
池田
同じところに再発するのですか。それとも場所が違うところにできながら、再発するのでしょうか。
安田
患者さんによって、ここによくできるということはあります。ただ、そこをよく見てみると歯がよく当たる場所だったり、よく唇を噛みしめる場所だったり、上の歯と下の歯の少しスペースが空いている場所で無意識に唇を吸引していたり、無意識に舌を押し込んで話をしたり、ご飯を食べる癖があったりと、よくできる場所は、やはり人それぞれにあるように感じます。
池田
その場所プラス、ほかにも繰り返しやすいという考え方ですか。
安田
そうです。ちょっとでも当たりやすい場所に多発するような意味合いですね。代表的な場所とサブ的な場所があるような感じで、そのサブ的な場所でも、なかなか治りが悪い場合、汚くなってしまっている場合には、治癒が遷延して、そこがいつしかメインに置き換わり、そのメインが治りかけの時にまた別のところが出てくるようなイメージですね。後から後から再発が起こるので患者さんは本当につらいと思います。
池田
場合によっては、例えばその障害を起こしそうな歯と歯並びの矯正をしたりすることはあるのでしょうか。
安田
そこをどこまで介入するかが難しいところなので、歯(並び)の形を変えるよりも、そこに押し込んでしまう舌の習癖や唇の習癖をまずは患者さんに理解していただいて、修正できるのであれば、そこで修正していただくのが、現実的ではないかと臨床では思っています。
池田
どこまで介入するかという問題ですね。
安田
難しいですね。
池田
癖があるとこうなると言っても、なかなか患者さんもやめられませんよね。
安田
はい、そうですね。
池田
ありがとうございました。