ドクターサロン

 池田 AGA治療薬についての質問がきています。まず、このAGAというのは何なのでしょうか。
 原田 AGAはAndrogenetic Alopecia、男性型脱毛というもので、男性ホルモンによって起こる薄毛です。
 池田 若い人でもなりますが、中年になると、前頭部から脱毛層が広がって、頭頂部も丸く脱毛してくるものをAGAというのですか。
 原田 はい。そのとおりです。
 池田 病気といえるのかどうか、なかなか難しいところですね。
 原田 はい。基本的には毛は加齢とともにだんだん薄くなってきますが、若年者は20代、早い方は10代から始まるといわれているので、心理的にも社会的にも本人はすごくダメージを受けます。若い方に起こった場合には病気と捉えていいのではないかと、皮膚科医は考えています。
 池田 いろいろな薬が出ていますが、AGAに対してエビデンスがある治療にはどのようなものがあるのでしょうか。
 原田 内服薬と外用薬があるのですが、内服はフィナステリド、デュタステリドがエビデンスがある治療薬として、臨床試験およびその後のリアルワールドの症例を集積した研究でも効果がはっきり認められています。それから外用薬はミノキシジルが含まれたものが最近いろいろ売られています。それ以外に、アデノシンという物質が含まれたものも比較的エビデンスがあるというデータがあり、この辺りがしっかりした治療薬ではないかと思います。
 池田 この辺が標準的な治療のようですが、フィナステリドとデュタステリドはどのように違うのでしょうか。
 原田 我々は男性ホルモンをジヒドロテストステロン(DHT)という非常に強い男性ホルモンに変える酵素を持っていて、これらの薬剤はそれを止める、つまり男性ホルモンを強くするのを止めることで効果を発揮します。この酵素は幾つかのサブタイプに分かれていて2型を抑えるのがフィナステリド、1型と2型の両方を抑えるのがデュタステリドです。理論的にはデュタステリドのほうが男性ホルモンをDHTにするのを強く抑えるという理解でよいと思います。
 池田 基本的な質問ですが、男性型脱毛症は男性ホルモンが強く影響していることが多いのですね。
 原田 はい。これはよく知られています。
 池田 男性ホルモンの作用として2つ考えられるのですが、男性ホルモン自体の量的なものが多いのか、あるいはレセプターの反応性が良いのか。これはどちらが考えられているのでしょう。
 原田 ホルモン量に関してのデータはあまり出ていないと思いますが、受容体に関しては、男性ホルモンの遺伝子多型によってなりやすいというデータが出ているので、その辺は感受性のほうにあるのかもしれないですね。
 池田 では男性ホルモンの量が多いとか、少ないとか、そんなシンプルなかたちではないのですか。
 原田 そのとおりで、ホルモンの量のみではないです。さらに男性ホルモンが、DHTという強いものに変換されて、それが毛乳頭細胞に働いて、いろいろ悪さをするといわれています。男性ホルモンだけというわけではなく、もう少し複雑な機序があると考えられています。
 池田 一方、女性も休止期脱毛症あるいは女性の男性型脱毛症というのがあるとうかがいましたが、これはどのようなものでしょうか。
 原田 女性の男性型脱毛症は、メカニズムがまだよくわかっていないのですが、一つは老化があると思います。臨床症状はお辞儀をしたときに前頭部の地肌が見えるという症状を呈するものです。男性は前のほうとてっぺんのヘアラインが薄くなっていくのですが、女性は前頭部が均一に薄くなっていくという違いがあります。さらに、ホルモンに関してもよくわかっていなくて、例えば卵巣の病気で男性ホルモンが多い方が、皆さんそうなるわけではありません。さらに、例えば閉経したら、皆さん少しずつは薄くなっていくと思うのですが、閉経前の方も薄くなったりすることがあり、ホルモンとの関係は明確になっていません。
 池田 そういう考え方からすると、女性の男性型脱毛とされているものには、フィナステリドやデュタステリドは投与できないのでしょうか。
 原田 はい。実際、臨床試験を行っていてうまくいかないこともありますし、メカニズムを考えても先生のおっしゃるとおり効果がないと考えています。
 池田 では女性の男性型脱毛症の方には、どのような治療がされるのでしょうか。
 原田 なかなか良い治療がないのが困ったところです。基本的にミノキシジルは、毛を太く伸ばす作用があるので、ガイドライン上だとミノキシジルの外用薬が最も良い治療ということになっています。それから、先ほど申し上げたアデノシンが入ったものも少し効果があるので、それもいいかと考えられます。
 池田 一般の医師、あるいは一般の方だと、本当にこれがAGAなのかという疑問を持たれる方も多いと思いますが、AGAの鑑別診断としてはどのようなものが挙げられるでしょうか。
 原田 脱毛を起こす疾患がすべてといっていいと思うのですが、例えば一番多いのは円形脱毛症です。円形脱毛症は丸く毛が抜けるというのが典型的な症状ですが、いろいろバリエーションがあり、われわれ皮膚科医でもちょっと迷うような症例もあります。瘢痕性脱毛症という自己免疫によって毛穴がなくなってしまう脱毛症もあります。これも、AGA、そして女性型脱毛などでも鑑別しなければいけないものがあります。それから最近ではコロナ感染後にごっそり抜けるという方がいらっしゃいます。休止期脱毛と我々は呼んでいるのですが、休止期脱毛とAGA、そして女性型脱毛は本当に見分けるのが難しいので、何よりも、脱毛をみたらAGAだとすぐに診断しないで、わからないと思ったら、すぐに皮膚科の専門医を受診していただくのがいいと思います。
 池田 脱毛はそんなに単純ではないのですね。
 原田 はい。そうですね。
 池田 質問に戻りますが、ミノキシジル、フィナステリド、それからデュタステリドも入ると思うのですが、内服等の禁忌はあるのでしょうか。
 原田 まずフィナステリドとデュタステリドに関しては、併用禁忌はありません。そして併用注意ですが、フィナステリドに関しましては併用注意もありません。一方、デュタステリドは、肝臓でCYP3A4という、いろいろな薬剤を分解する酵素によって分解されるので、それに影響を与えるものですね。例えば、HIVの薬で強くCYPを止めるものに関しては、少しデュタステリドの濃度が上がるので、注意が必要です。
 池田 一方で、ミノキシジルの内服薬は、本当にエビデンスがあるのでしょうか。
 原田 こちらは今、欧米を中心に少しずつエビデンスが蓄積されてきて、効果がありそうです。ただ、もともと血圧を強力に下げる薬、血管拡張が強い薬として開発されているので、内服にはかなりの注意が必要だと思います。特に勃起EDの治療薬や片頭痛の治療薬のように血圧に変動を与えるような薬、さらに降圧剤などを飲んでいる方は注意をしないと、思わぬトラブルが出るかもしれません。それから日本のガイドラインによりますと、まだ安全性が担保されていないので、これは推奨度D、つまり行ってはいけないという治療になっています。
 池田 なるほど。やはり気をつけないといけませんね。それともう一つは、特にフィナステリド等ですね。男性ホルモンを左右するものですが、PSA(前立腺特異抗原)に関してはどのように解釈をすればいいでしょうか。
 原田 PSAはデュタステリドもフィナステリドも、値を半分にするといわれているので、検診でのPSA結果を先生方に持ってこられたときにこれらを飲んでいる方は、値を倍にするということです。2倍にして正常値よりも少なければ、大丈夫でしょうか。その辺を注意しておくことが大事だと思います。
 池田 では、検査を受けるときには、もうフィナステリドやデュタステリドを飲んでいることを泌尿器科医にお伝えしなければいけないということですね。
 原田 はい、そうですね。それをしっかり伝えておかないと、思わぬ見逃しが出てしまうと思います。
 池田 そしてやはり、もう一つ気になるところは、そういう男性ホルモンを抑えるような薬を飲んでいて妊娠希望の方には、どのようなアドバイスをされるのでしょうか。
 原田 基本的にフィナステリドは精子の数などに関しては問題ないとなっているのですが、デュタステリドは精子の数が減少するといわれています。ですので、子供を希望する方に関しては、デュタステリドはやめたほうがいいかもしれません。今、不妊治療をされる方がけっこう多いと思うのですが、何か生殖にトラブルのある方はフィナステリドやデュタステリドを飲むと精子の数や運動性などが下がるというエビデンスがあるので、そのようなトラブルのある方は、両剤とも控えたほうがいいと考えています。
 池田 ホルモンの作用の薬の適応年齢は何歳からなのでしょうか。
 原田 臨床試験は20歳以上といわれているので、やはり本当に若くて気になる方も、20歳まで待たれるほうがいいのではないかと思います。
 池田 なるほど。では10代でAGA症状があるから早く早くと思われる方がいると思うのですが、そこは安全性を担保して、やはり20歳を過ぎてからということですね。
 原田 そうですね。外用薬に関しては問題ないと思いますので、まずは、ミノキシジルを含めた外用薬を塗っていただいて、20歳になったら内服薬を飲むようにするのがよいと思います。
 池田 エビデンスがあるのがアデノシンやミノキシジルということですが、ほかのものはエビデンスがないのでしょうか。
 原田 はっきりしたエビデンスがあるものはあまりありません。最近はLED(発光ダイオード)を使った治療がある程度エビデンスがあるといわれています。そのほかではPRPなどいろいろな治療はされているのですが、安全性および治療については、しっかりしたエビデンスがないのが現状だと考えています。
 池田 よくネットでいろいろな情報が出ていますがそういったものに惑わされないで、エビデンスのあるものを年齢に応じて使っていくということですね。ありがとうございました。