ドクターサロン

 山内 竹下先生、チアマゾールとレボチロキシンの併用療法はときどき見かけますが、そもそもこの適応はどういったところにあるのでしょうか。
 竹下 そうですね。チアマゾールを使う場合に、通常はいわゆる高用量から下げていく漸減法、英語ではTitration Methodと言いますが、その場合のことをまずお話ししたいと思います。 通常は標準的治療としてfree T4が5(ng/dL)以下の比較的軽症の場合は、チアマゾール3錠15㎎を1日1回投与して、またfree T4が5以上の甲状腺機能亢進が強い場合はチアマゾール15㎎にヨウ化カリウム1錠50㎎を併用することが現在推奨されています。これはチアマゾールの副作用にはある程度、用量依存性があるため、30㎎など高用量の使用を避けるためです。それで治療開始後のfree T4が正常化してきたら1錠5㎎ずつ減量し、最終的には5㎎隔日などの維持量にまで減らして、そして1年ほど治療してTSH受容体抗体であるTRAbの陰性化と、甲状腺機能の正常化が続いていれば、治療を中止して経過観察を行うという流れが一般的です。
 山内 にもかかわらず、甲状腺ホルモン製剤を一緒に使うというケースには実際にどういったものがあるのでしょうか。
 竹下 まず併用療法のことですが、昔は30㎎など大量のチアマゾールを使って完全に甲状腺機能を抑えつつレボチロキシンを併用する、いわゆるBlock and Replace治療という治療法が行われていました。ところが最近は下火になってきてあまり行われなくなり、既存の治療ではうまくいかない場合や不安定な場合に、レボチロキシンを併用するというやり方のほうが一般的になっています。
 山内 そうしますと始めはかなり大量に使うので、極端な言い方をするとちょっと怖いから、サポートするために、少し甲状腺ホルモンも使おうか、と発想して、そういうことを行ったと考えてよいのですか。
 竹下 最初にチアマゾールが販売されたのが、もう70年ぐらい前の話で、日本でも1950年代に販売になった古い薬ですが、Block and Replaceを用いた最初の報告は、1966年にイギリスから、そしてBlock and Replaceという言葉が用いられた最初の報告が1973年にオーストラリアから発表されています。日本からも1979年に当時筑波大学の教授だった尾形悦郎先生のグループが報告しています。当時は今と違ってTSHの高感度アッセイや、TSH受容体抗体の測定が行われていなかった頃なので、現在のように甲状腺機能とTRAbを測定しつつ、抗甲状腺剤の用量を微妙に調節するようなことはできない時代でした。そのためBlock and Replaceというのは、抗甲状腺薬の細かい用量調整や頻回の通院検査が不要の、便利な投与法として紹介されていました。
 山内 ということは、現在はいろいろなアッセイができるように、しかも迅速にできるようになってきて微調節もできるので、こういった併用療法は少し下火になったと考えてよいのですね。
 竹下 はい。そのほか、TSHの高感度アッセイができるようになった、そしてTRAbも測定できるようになった1980年代に、チアマゾール治療を行うとTSH受容体抗体が次第に低下することから、チアマゾールは甲状腺ホルモンの合成を抑えるだけでなく、免疫抑制作用もあるのではないかと考えられるようになりました。そういう意味でも一時Block and Replace治療でバセドウ病のより高い寛解率が得られるのではという推測のもと、多くの臨床試験が行われましたが、メタアナリシスでは寛解率改善のエビデンスは得られず、むしろ無顆粒球症や肝障害などの副作用が増加することが判明したので、Block and Replace治療は標準治療として今は用いられていません。
 山内 そうしますと先生方は、このチアマゾールを使用する場合、だんだん甲状腺ホルモンが下がってきますが、そのときにTRAbの値というのも非常に参考にして見られているのですね。
 竹下 そうですね。やはりなかなかTRAbが下がってこない症例の方が甲状腺ホルモンの下がりが悪いので、それだけチアマゾールを減量しないで高用量で長く使うことが多いと思います。
 山内 そうすると、TRAbは予後を見る上でかなりいいマーカーになると考えてよいのですね。ホルモン値などが下がってきたときの微調整ですが、これはオーバーランしがちで、気がついたらけっこう下がりすぎてしまったというケースがありますが、特にこのチアマゾールの10㎎から5㎎に移行するタイミングについては何か特別な方法はあるのでしょうか。
 竹下 そうですね。特に治療開始時というのは、その患者さんによって、なかなか下がりにくい人、すぐ下がる人など様々で一定に治療はできません。症例によってはチアマゾールを使って思いのほかそれがよく効いて、すぐに甲状腺機能低下症になってしまうことがあります。そこで慌てて休薬してしまうと、TSH受容体抗体は、まだ早期で、高いままなので、すぐにまた再燃してしまうのです。そこでチアマゾールを若干減量することもありますが、レボチロキシンを、full doseではなくて例えば25μgや、50μgなど加えて極端な低下症を避け、それで安定させるような効果に使うと思います。
 山内 以前、チアマゾールを10㎎から5㎎に落として、もうちょっと減らしたいというときは、なかなか難しかったのですが、最近は2.5㎎錠も出てきたのですね。
 竹下 はい。数年前から2.5㎎錠が出てきたので、例えば高齢者になると隔日投与がなかなか難しいときもあることから5㎎を隔日でなく2.5㎎を連日、というやり方もあると思います。また10㎎から5㎎に減らすと再燃してしまう場合、10㎎から7.5㎎に減らすと良い場合がありますが、それはやはりケースバイケースなので、患者さんによると思います。
 山内 眼球突出があるケースがありますね。こういった場合の使い方といいますか、甲状腺ホルモンのコントロールの仕方ですが、これには特別なものはありますか。
 竹下 バセドウ病の眼球突出症を合併している場合、特に活動性のバセドウ病眼症の場合は、急に甲状腺ホルモンが低下してTSHが上昇してしまうような際、バセドウ病眼症がさらに悪化してしまうことがあります。その場合は、それを避けるためにレボチロキシンを併用しておくことが有効な場合があります。
 山内 なるほど。あとチアマゾールのほかにPTU(プロピルチオウラシル)がありますが、このPTUに関して、最近は血管炎のようなものの報告もあるようです。これはいかがでしょうか。
 竹下 そうですね。特に高用量のPTUは、例えば3カ月以上長期にわたって高用量を使うとチアマゾールに比べてANCA関連血管炎の発症頻度が著しく高くなることが知られています。ですので、Block and Replaceとして、例えばPTUを300㎎とレボチロキシンを100μgのような併用療法を長期間行うのは、ANCA関連血管炎を引き起こす可能性、リスクが高まるので、避けたほうがいいと思います。幸いチアマゾールのほうには、そういったリスクは少ないので、併用療法が安心して行えるという側面があります。
 山内 流れとして見ますと、現在ではPTUよりもチアマゾールを使ったほうがいいと考えてよいのでしょうか。
 竹下 そうですね。チアマゾールも顆粒球減少症も含めて無顆粒球症などの重篤な副作用がありますが、多くの場合は3カ月以上使用して問題なければ、かなり長期に使用してもほとんどの場合、重大な副作用がのちのち出てくることは非常に少ないので、長期の併用療法にも有効だと思います。
 山内 よく肝臓障害や、あるいは痒いなどといった訴えが出てきますが、これは長期的にはだんだん収まっていく、ないし対症療法でしのげばいいとお考えですか。
 竹下 もちろんできるだけ早くチアマゾールを減量したほうがよいのですが、花粉症などに用いる抗ヒスタミン剤を使うことによって消えるような蕁麻疹であれば多くの場合、やり過ごせることが多いものの、凄いラッシュが出てくる場合はやめざるを得ないということです。
 山内 肝臓障害の例では、一時的にややトランスアミナーゼが上がる場合、まだ様子を見ますか。
 竹下 そうですね。甲状腺機能亢進症では、治療前の初診時に軽度の肝機能異常、100以上になることは極めて少ないと思うのですが、AST、ALTの異常を呈していて、チアマゾール治療を開始するとやや高かった肝機能が改善することもあります。しかし、治療開始後に増加することもあるので、当初はだいたい2週間おきに、肝機能や白血球数のチェックをしますが、それでAST、ALTが100以内であれば、多くの場合、経過を見ていてかまわないと思います。
 山内 どうもありがとうございました。