ドクターサロン

 池脇 原発性アルドステロン症で片側性の腺腫の場合には、外科的治療が推奨されるのですか。
 下澤 そうですね。外科的治療が第一選択になるので、患者さんを説得していただくのがよいかと思います。
 池脇 もし、この腺腫で手術を提案された本人が嫌がって、内服治療をしているのであれば、まずは改めて手術をお勧めするのがよいのでしょうか。
 下澤 はい。それがよいのではないかと思います。
 池脇 手術をした上で原発性アルドステロン症の内服治療をするのですね。そもそも、治療抵抗性の高血圧の中に原発性アルドステロン症が多いというわけですから、基本的には、原発性アルドステロン症の降圧はなかなか難しいという理解でよいですか。
 下澤 そのとおりです。抗アルドステロン薬を適切に使わないと血圧が下がりませんので、レニン・アンジオテンシン系抑制薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬で治療していると、アルドステロンの抑制が少し弱いです。ですから、どうしても血圧のコントロールが悪く、3剤使っても、治療目標に達しない患者さんの中には相当数の原発性アルドステロン症の方がいるだろうということです。
 池脇 腺腫による原発性アルドステロン症といわゆる過形成では高血圧の程度も含めて差があるのでしょうか。
 下澤 ご存じのように過形成は両側の副腎からアルドステロンが過剰に分泌される状態で、腺腫は片側です。血圧値から差がつくということではないです。日本人には過形成が比較的多いといわれています。過形成の場合は両側の副腎機能異常ですから外科的に副腎摘出ができず、食事療法、内服治療による内科的治療になりますが、継続して安定したコントロールをすることが困難なこともあります。おそらく質問の症例は過形成で内科的治療をしているのだけれど、うまくいかないということだと思います。コントロールが難しい理由の一つは、原発性アルドステロン症は見逃されている症例も多く、診断される時にはすでに高血圧を発症してから時間が経っており、臓器障害が出てしまっていることがあります。以前は原発性アルドステロン症は、予後はよい高血圧といわれていましたが、決してそんなことはなくて、やはり血管障害が起きてきます。そのような例ではアルドステロンだけ抑えても、血圧のコントロールがつかない症例も多いです。ですから、我々は腺腫の患者さんでも、「手術すれば薬をやめられるよ」とは言えなくて、「薬を減らすことはできる、あるいは血圧のコントロールがしやすくなりますよ」という話をした上で手術をしています。一方、過形成の場合は多剤併用になります。かつ、抗アルドステロン薬も相当量、保険適用の上限ギリギリを超えるぐらい使用します。スピロノラクトンでは、女性化乳房の問題が出てきますので、男性には使いづらかったのですが、今はその女性化乳房が少なくなった特異性の高いエプレレノンやエサキセレノンが使われています。これらを最大用量使った上にさらにほかの降圧剤の追加が必要になってくる場合もあります。
 池脇 原発性アルドステロン症の場合、内服治療の中心は、MR(ミネラルコルチコイド受容体)拮抗薬ですか。
 下澤 そうですね。MR拮抗薬が中心になります。
 池脇 スピロノラクトンなど幾つかありますが、使い分けのようなものがあるのですか。
 下澤 やはりスピロノラクトンはエビデンスがたくさんあります。心不全などでも、循環器の医師が使われますが、MRだけではなくて、ほかの受容体に効いてしまうので、男性に使うと女性化乳房の問題が出てきます。女性でも、ちょっと乳房が張るとおっしゃる方もいるので、そこは気をつけていただきたいです。また力価が弱いことから、投与量が多くなります。100㎎、200㎎(承認外用量)と内服していただかなければならないです。これに対して後から出てきたエプレレノンは、かなり受容体に特異性が高くて、50㎎でも効きます。しかし、半減期が短いところがあり、原発性アルドステロン症の場合だと、ずっとアルドステロンが出ますから、2回に分けて服用いただくこともありますね。投与量を少し多めの100㎎にすることもあります。エサキセレノンというのは非ステロイドで、ステロイド骨格をもっていないことが特徴です。こちらは半減期が長いというのが一つの有用な点だと思います。ただ、まだ最近発売されたものなので、過形成に対する投与量が、最大用量の5㎎でいいのかは不明です。
 池脇 原発性アルドステロン症の場合には、いずれの薬でも、ある程度の量は使わないと難しいのですね。
 下澤 そうです。通常用量では、多くの例でコントロールがつきません。
 池脇 非ステロイド型のMR拮抗薬が最近また一つ出たと聞きました。
 下澤 フィネレノンですね。これは糖尿病性腎症に適用が通った薬で、治験のデータをよく見てみると、若干、血圧が下がっているのですが、それほど降圧効果が強くないということで、高血圧症には適応が通っていません。なので、お使いいただくには、少し気をつけていただかなければいけません。
 池脇 基本的な質問ですが、アルドステロンは遠位尿細管に効きますけれども、慢性炎症あるいは線維化を惹起するのは、MR受容体を介しているものであるので、こういった拮抗薬を使うことによって、そういったものも一応、打ち消すことができるという考えでよいですか。
 下澤 そうですね。それがまさに、エプレレノンとか、スピロノラクトンの研究成果です。その結果、MR拮抗薬は心不全治療薬のFantastic Fourに入りました。単に血圧を下げるだけではなくて、抗炎症作用や抗線維化作用が認められます。MRは、先生がおっしゃったように、もちろん遠位尿細管に多いですが、血管、心筋など体中、いろいろなところに分布しているので、そこに対して効くと、降圧を超えた作用があるといわれています。
 池脇 おそらく、質問の医師もそれを知ってMR拮抗薬を出しています。でも、なかなかだと。こういう場合は、どうしたらいいのでしょうか。
 下澤 先ほども言いましたように、少し時間が経ってから、原発性アルドステロン症ということがわかった症例だと、やはり血管抵抗が高くなっている可能性があるので、カルシウム拮抗薬を併用したり、ナトリウム再吸収は遠位尿細管でも、サイアザイド感受性の部分もあるので、サイアザイド系利尿薬を加えていただく。あるいは、レニン・アンジオテンシン系抑制薬もよく投与します。アンジオテンシンⅡそのものがアルドステロン分泌刺激作用を有しますが、過形成の場合は、アンジオテンシンⅡの作用などは関係なく、自律的に分泌されるのでレニン・アンジオテンシン系の抑制薬を追加してアルドステロンを抑制するよりは、カルシウム拮抗薬かサイアザイド系の利尿薬を併用していただくと、血圧が下がりやすいのではないかと思いますね。
 池脇 そこまでやってうまくいくかどうか、なかなか手強い高血圧ということなのですね。
 下澤 本当にそうです。
 池脇 最近、レニン、アルドステロンの測定系が変わったそうですね。
 下澤 はい。測定キットで、今までは放射性物質を使ったRIAという方法で測っていたのですが、その放射性物質の供給が止まってしまったのです。それで新しく、測定方法を考えなくてはいけないということで、発光法というRIAを使わずに測定ができる方法になりました。ですから、普通に検査室で測定でき、LC-MS質量分析と値が合うようになりました。従来、我々がやっていたアルドステロンの測定ですと、アルドステロン以外のものも測り込んでいたことがわかり、以前のカットオフ値は150pg/mLでしたが、現在は60pg/mLと約半分に下がっています。現在、アルドステロン/レニン比のカットオフ値を設定するために臨床研究が進んでいます。
 池脇 測定系は、発光法にほぼ移行しているのですか。
 下澤 完全移行しています。
 池脇 多少の移行期、混乱期があるにしても、より正確に測定できるという意味では、今後を考えると良くなったのですね。
 下澤 そうですね。良くなったのではないかと思います。
 池脇 ちなみに、特殊なケースで、ますます薬の選択の幅が減りますが、妊娠している女性の原発性アルドステロン症はどうでしょうか。
 下澤 これは難しいですね。でも、妊娠中もカルシウム拮抗薬は使えるので、やはりカルシウム拮抗薬を併用しながらしっかりコントロールしていただくことが重要だと思います。もちろん、レニン・アンジオテンシン系抑制薬は、妊娠初期には、催奇形性の報告がありますから、レニン・アンジオテンシン系抑制薬との併用はお勧めできないです。
 池脇 MR拮抗薬はどうですか。
 下澤 まだ、妊婦には安全性が完全には証明されておらず、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にお使いいただけます。
 池脇 最後に、手強い原発性アルドステロン症もありますが、比較的、通常治療でコントロールされている場合、もしそれがカルシウム拮抗薬でコントロールがいいなら、それでいいのではないかとも思うのですが、やはりコントロールの良し悪しにかかわらず、MR拮抗薬を使うべきなのでしょうか。
 下澤 病態生理から考えるとすると、アルドステロンには、炎症惹起や線維化などといった作用がありますから、そこはブロックしておいたほうがよいのではないかと思います。
 池脇 どうもありがとうございました。