患者さんが“Doctor, I think I might have pink eye.”と表現した場合、このpink eyeが何を意味するか、皆さんわかりますか? 実はこのpink eyeはconjunctivitis「結膜炎」を意味する慣用表現なのです。似たようなものとしてred eyeがありますが、こちらは「充血した眼」を表し、red-eyed flight(「夜に出発して翌朝に到着する飛行機便」の意味。乗客は寝不足で眼が充血していることが多いからこのように呼ばれます)のように使われます。
日本語では「黒目」や「白目」という表現を使いますが、これらは英語ではそれぞれirisとwhite part of the eyeと表現されます。英語にもblack eyeという表現があるのですが、これは日本語の「黒目」ではなく、「眼の周囲にできる黒いアザ」であるperiorbital hematoma「眼窩周囲血腫」を意味します。ちなみに日本人は自分たちのirisの色を「黒」と認識していますが、英語圏では東アジアの人たちのirisの色をdark brownのようにbrownとして認識しています。もちろんこのirisの色がgreenの人もいるのですが、英語のgreen-eyedという形容詞はWilliam Shakespeareが生み出した「嫉妬に狂った」を意味する慣用表現となりますので注意してください。
英語で「視力」visual acuityを説明する際にも注意が必要です。「あなたの視力は1.0です」という表現を“Your visual acuity is one point zero.”と表現しても、おそらく英語圏の方は全く理解できないことでしょう。と言うのも英語ではこれを“You have 20/20(twenty-twenty)vision.”と表現するからです。英語圏では視力1.0に相当する人が20 feet(約6m)離れて見える文字を20 feetで見ることができたら、その視力を20/20(twenty-twenty) visionや20/20 sightと呼びます。そして視力1.0の人が40 feet 離れても見えるものを20 feetでしか見られないとしたら、それを20/40(twenty-forty)visionと表現し、これが日本の視力0.5に相当します。勘の良い方はお気づきになったと思いますが、英語の表記を割り算したものが日本の視力表記となり、英語の20/200(twenty-two-hundred)は日本の視力0.1となるのです。
そして英語圏では20/20の視力があれば、被験者に“You have twentytwenty perfect vision/sight.”と伝えて、通常はそれ以上の視力を測定することはありません。つまり英語圏では制度上、2.0のような視力は存在しないというわけです。余談ではありますが、六本木の東京ミッドタウンに“21_21 design sight”というデザインミュージアムがありますが、その名称の語源はこの20-20 perfect sightであるため、siteではなくsightという単語が使われているのです。
このvisual acuityを調べるvisual acuity test「視力検査」の際にも注意が必要です。日本では「ランドルト環」Landolt Cと呼ばれる上下左右を向いたCの文字を用いて、穴の開いている方角を述べてもらいますが、英語圏ではアルファベットが無秩序に並んだSnellen Chartというものを使い、“Could you read this line for me?”と言って指定した列のアルファベットを読み上げてもらいます。ですからこのSnellen Chartを使った様式に慣れている英語圏の患者さんに対してvisual acuity testをする際には、“Could you tell me where the ring opens?”といった表現を使って説明する必要があるのです。
このvisual acuity testの結果、myopia「近視」、hyperopia「遠視」、astigmatism「乱視」などの有無がわかります。このうちmyopiaにはnearsightedness(米国)やshort-sightedness(英国)、そしてhyperopiaにはfarsightedness(米国)やlong-sightedness(英国)のような一般表現がありますが、astigmatismという医学英語はpresbyopia「老眼」と同様に一般の方にも使われます。ただ「老眼鏡」にはこのpresbyopiaという表現は使われず、reading glassesという表現が使われます。
このastigmatismなどがある場合、「ぼやけて見える」という症状が現れますが、英語ではそれをblurry/blurred visionのように表現します。また「ものが二重に見える」場合、一般的にはsee things doubleやdouble visionのように表現しますが、diplopia「複視」という医学英語も使われます。
retinal detachment「網膜剝離」やposterior vitreous detachment「後部硝子体剝離」などでは「飛蚊症」という症状が認められますが、英語ではこれをfloaters「浮かんでいるもの」のように表現します。日本語のようにflying mosquitosと表現しても、英語圏の患者さんには全く通じませんので気をつけてください。
スマホやパソコンなどの画面を長時間見ていると「疲れ目」が生じますが、これは英語ではeyestrainのように表現されます。ここで使われているstrainには「力を入れる」という意味があり、名詞としてmuscle strain「肉離れ= pulled muscle」のように使われたり、動詞として“Do you need to strain to urinate?”「排尿の際に力を入れる必要がありますか?(腹圧排尿の有無を尋ねる質問)」のように使われます。
目に砂などの異物が入ったり乾燥したりすると「目がゴロゴロする」と日本語では表現しますが、これは英語ではgritty eyesやeye grittinessなどと表現されます。このgritは「埃や砂のような小さな塊」という意味なのですが、そこから転じて「粘り強くやり抜く力」という意味も持ちます。
このようなgritty eyesがあると「涙目」「流涙症」にもなりますが、これらは医学英語ではlacrimationやepiphoraとなります。どちらもあまり区別されずに同じように使われますが、前者には「涙の分泌が増える」というイメージが、そして後者には「涙がこぼれ落ちる」というイメージがあります。そしてどちらも一般的にはwatery eyesと表現されます。
bacterial conjunctivitis「細菌性結膜炎」などでは「目やに」という症状が現れますが、これは英語ではどのように表現するのでしょう?目から分泌されるもの全般をeye dischargeと言いますが、その中でも特に膿性でsticky「ベタベタした」またはcrusty「カサカサした」ものをmatterやmatteringと言います。多くの方が「事柄」や「重要である」という意味で認識されているmatterという単語ですが、「排泄物」や「膿」としての意味でも使われ、患者さんは“I have mattering in my eyes. They’re sticking together when I try to open them.”のように表現します。
眼を覆っている「まぶた・眼瞼」はeyelidとなります。コーヒーショップで「蓋をください」と英語で言いたい場合、“Could you give me a coffee lid?”と言います。つまり「眼の蓋」という意味でeyelidとなるわけです。そしてこのeyelidが垂れ下がる「眼瞼下垂」には「垂れ下がる」を意味するptosisがそのまま使われます(このpは発音せず、「トォシィス」のような発音になるので注意してください)。そして「眼球突出」には「眼球が外に出ている」を意味するexophthalmosという医学英語のほか、ptosisを使って「前に垂れ下がる」を意味するproptosisという医学英語も使われます。
このeyelidに関連する「眼瞼炎」や「眼瞼形成術」などではblepharo-という医学英語が使われ、それぞれblepharitisやblepharoplastyと表現されます。特に「二重まぶた」double eyelidsにするblepharoplastyは、東アジアの方が施術を受けることが多いため、East Asian blepharoplastyという名称も使われています。
光の周囲に輪が見える「ハロー」ですが、英語のhaloの発音には注意が必要です。日本語のように「ハロー」と発音するとhelloのように聞こえてしまいます。英語のhaloは「ヘィロゥ」のような発音になるので注意してください。米国で大活躍している大谷翔平選手が所属するLos Angeles Angelsの選手やファンは、「天使の輪」にちなんでhalosとも呼ばれています。MLB中継の際によく使われているので、大谷選手の試合観戦の際にはぜひ注意して聞いてみてください。