ドクターサロン

槙田

坂本先生、内分泌緊急症についてお話しいただきますが、内分泌疾患というと、細かく採血したり、あるいは負荷試験で、ホルモンが高い・低いを判断したりして、じっくり考えるイメージがあります。内分泌と緊急症というのは、そのイメージに合わない感じがするのですが、どういった病態になるのでしょうか。

坂本

特に患者さんに大きなストレス、侵襲がかかったとき、どうしても体に必要なホルモン需要量が高まったときにそういった状況に陥ることがあります。代表的なのが副腎クリーゼです。副腎皮質ホルモンが生存に必須だということは皆さんご存じだと思うのですが、欠乏状態にある方でも、通常の状態で致命的な状況に陥ることは案外なく、感染症や突然ストレスがかかる状況に陥って需要量が高まったときに、生命の危機にさらされる場合がありますし、そういったときは早急にその対処を行わないと手遅れになってしまうことがあります。副腎クリーゼは、グルココルチコイドの圧倒的な欠乏によって起こるもので、非常に緊急性の高い状況として経験するのは、低血圧もしくは低血糖とそれによる意識障害です。これが非常に治療抵抗性であった場合、ただの昇圧剤ではなかなか血圧が上がってこない、グルコースをいくら入れても血糖が上がらないという状況になったときに、もしかしてこれは副腎クリーゼではないかということを疑って、グルココルチコイドの補充を行うと劇的にスッキリ治って診断に至ることがよくあると思います。

槙田

ホルモンの採血をして結果を待っている場合ではないと思うのですが、症状から診断するということでよいですか。

坂本

そうですね。もうその状況では治療的診断ですね。実際に治療抵抗性の低血圧ショックから低血糖のときにヒドロコルチゾンを静注で点滴投与して、それでスカッと良くなれば、臨床的にはそうだといえるでしょう。あとは処置をする前に採血をしてもらい、後で測って振り返っていただければと思います。

槙田

副腎不全・副腎クリーゼというと、低ナトリウム血症を合併します。副腎不全の治療をしたときにナトリウムが急に上がり過ぎてしまうことはないのかと思うのですが、どうでしょう。

坂本

実際、それはありますね。ナトリウムも本当に緊急の状況だったら結果が出る前に補充するケースもありますが、ナトリウムが例えば120程度まで下がっている人が補充だけで一気に正常領域まで戻ったりするので、いわゆる教科書的な患者さんは、ナトリウム補正とかけ離れたナトリウム正常化が起こります。ただ、このグルココルチコイドの補充でナトリウムの正常化が起こる場合に、いわゆる脱髄症候群が起こるかといわれると、私は経験がないですし、あまり起こったという話を聞きません。それはグルココルチコイド自体にそういう保護作用があるのではないかとかいわれていますが、理由はよくわかりません。

槙田

それは、副腎クリーゼでは副腎皮質ホルモンがとにかく足りないことを一番に考えて補うということですね。そのほか、クリーゼといわれるような内分泌緊急症はあるのでしょうか。

坂本

次にクリーゼで挙がるのは甲状腺のクリーゼだと思います。バセドウ病がベースにある方が多いですが、甲状腺中毒症つまり甲状腺ホルモンの過度な過剰状態、それの臓器に対する症状が非常にひどく出た場合に起こります。原因疾患としては、バセドウ病がほとんどなのですが、一部は下垂体のTSH産生腺腫による甲状腺機能亢進症や亜急性甲状腺炎、そういったものによる甲状腺中毒症でも起こることがあるといわれています。実際に問題になる、それによる中枢神経や循環器に対する作用とは、頻脈性のEFが保たれた心不全、重症心不全や中枢神経に対する作用による意識障害、消化器症状で重症の肝不全や急性肝不全の黄疸、それから高熱などが問題になる場合もあります。

槙田

甲状腺ホルモンがすごく高くならないと、このような緊急症にはならないのでしょうか。

坂本

ホルモンの多い少ないでは決まらないと思います。甲状腺ホルモンのFT3、FT4の値がひどく高いから起こるわけではなくて、実際その心臓あるいは中枢神経でそこに強く作用するかどうかという点と、あともう一つはストレスです。多いのは、感染症ですが、そういったものが重なった場合に起こりやすいとされています。ですから、FT3、FT4の値が基準値よりも高ければ起こりえます。やはりこれも臨床症状での判断になります。

槙田

甲状腺ホルモンを院内で測れない施設もたくさんあると思いますが、これもやはり疑ったら即治療になるのでしょうか。

坂本

そうですね。甲状腺クリーゼの治療の場合には、ステロイドの投与と甲状腺ホルモンを抑えるための抗甲状腺薬、大量のヨード投与という3つが柱になります。甲状腺ホルモンの結果が出る前に大量のヨード投与と抗甲状腺薬を投与するのは、やはり厳しいのですが、上述しているようにコントロールに難渋する頻脈、重症の心不全、意識障害を認めた場合には、鑑別に挙げて、先行してステロイドを投与するのはありだと思います。ステロイドはT4からT3への変換を抑えることでホルモン自体を減らすことはそんなにできないのですが、標的臓器での作用を抑えることができるので、これだけでも症状の軽減ができ、先行して処置することはできると思います。

槙田

副腎クリーゼと意外に似ているのですね。

坂本

そうですね。疑ったときにまず投与してみて、反応を見るというのは、こういう場合は許容されると思います。あとは疑うのは身体所見です。バセドウ病では、こういう症状を起こす方は、活動性が高いので、まず非常にびまん性甲状腺腫、goiterが強い方がいますが、ぱっと見てわかるぐらい、甲状腺の形がはっきりとわかるようなgoiterがあったり、眼球突出に該当するような甲状腺眼症の症状がはっきり出ている方は甲状腺ホルモンの測定がなくても、先ほどの心不全症状や意識障害や消化器症状が揃っていると抗甲状腺薬の投与に踏み切ったりする場合もあります。

槙田

副腎・甲状腺ときましたが、そのほかはどうでしょう。

坂本

あとは内分泌疾患が原因で起こる著明な電解質異常が緊急症として問題になる場合があります。今回お話ししておきたいものとしては高カルシウム血症性のクリーゼです。副甲状腺機能亢進症、あるいは悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症などで、著明な高カルシウム血症によって起こる意識障害や場合によっては痙攣を起こしたりしますし、尿細管障害による多尿に伴って起こる急性の腎不全です。こういったもので生命の危機にさらされますので、早急な対応が必要になります。

槙田

どのぐらいカルシウムが上がるとこういった症状になるのでしょうか。

坂本

カルシウムの値で言うと、14、15辺りまで上がってくると起こると思います。

槙田

そういった場合、どのようなカルシウムを下げる治療があるのでしょうか。

坂本

緊急に下げるために一番大事なことは、大量の外液の補液です。これによって腎前性の腎不全をしっかり防ぐこともできますし、腎機能がきちんとしている方であれば、この大量補液だけでもある程度カルシウムを排泄することでコントロールできます。まず、これをしっかりと行って、腎機能の悪化を防ぐことが大事だと思います。続いて、短期で効果が期待できるのは、カルシトニン製剤です。ただ、これを連日繰り返していると、だんだん効果が減弱していきますので、中長期的にコントロールが必要な場合には、ビスホスホネートの静注製剤が有効です。どうしても効果が出てくるのに1~2日かかるのですが、いったん効果が発現すると、ある程度長期間、その状態を維持できます。大量の外液の補液、そしてカルシトニン製剤、ビスホスホネートの静注製剤といった治療が必要だと思います。

槙田

そのほかで内分泌の緊急症はありますか。

坂本

あとは高血圧性クリーゼですね。原因として多いのは褐色細胞腫ですが、症状としては高血圧です。著明な高血圧に伴って起こる症状となります。具体的には頭痛や吐き気などの症状、ひどくなると循環動態の不安定化、そして生命の危機に移る、そういった疾患になります。

槙田

褐色細胞腫でなくても、血圧が高いことで緊急の病態は起こるのでしょうか。

坂本

褐色細胞腫以外の病態でも、悪性高血圧などでは、収縮期が180㎜Hg以上、拡張期が120㎜Hg以上ぐらいの高血圧になると、高血圧症でのクリーゼは起こりえますし、緊急の降圧が必要となります。カルシウム拮抗薬の静注製剤の持続投与などで、しっかりと血圧を下げることが必要になるのですが、頻度が高い褐色細胞腫によって起こる高血圧性クリーゼの場合は、一般的に緊急の降圧で使われるカルシウム拮抗薬の静注製剤での血圧のコントロールはなかなか難しいので、これに特化したα1・α2拮抗薬であるフェントラミンの持続静注が必要になることが多いです。それでもなかなかコントロールができない場合には、β遮断薬(プロプラノロール)の静注製剤の併用が有効だと思います。

槙田

お話をうかがって、意識障害の患者さんをみたときに、こういったホルモンの異常も考えていく必要があるなと思いました。ありがとうございました。