池脇
歯周病の最新治療についての質問をいただきました。おそらく歯周病の最新治療というと、外科的な治療の話になると思うのですが、歯周病は30歳以上の方の8割の方が持っている国民病で、患者さんのほとんどの方が持っています。それに対してどう対処するのか、歯科医師だけではなくて、他の先生方も何かしらできることがあるのではないかと思います。
先生がお書きになった総説によると歯周病を起こすリスクには細菌因子、環境因子、そして宿主因子の3つがあるとのことです。これについて教えてください。
齋藤
歯周病は、大きく分けると歯周炎と歯肉炎の2つになります。歯周炎は従来歯槽膿漏といわれていた骨まで溶けてしまう、すべての歯周組織に炎症が及んだものですが、一番の原因は歯と歯肉の間に溜まる従来は歯垢といわれていたデンタルプラークです。デンタルプラークの中には、歯周病に関連する細菌が入っていますので、そういう特定の細菌による細菌感染症と従来は考えられていて、今でもそれが一番の原因であることは変わらないのですが、先生がおっしゃったように、細菌だけが悪さをするのではありません。ディスバイオーシスといわれる細菌に対する宿主の免疫応答のバランスの乱れに、さらに喫煙やストレス、環境の因子も関与します。先生が今おっしゃった3つは、原因でもあるのですが、リスクファクターとして考えられています(図)。
池脇
一生懸命歯を磨いているつもりでも、歯垢や歯石というのは、やはり溜まっているような気がします。これを日常のブラッシングで防いでいくのは、本当にきちんとした指導がないと難しいような気がするのですが、どうでしょうか。
齋藤
そうですね。歯周病の予防と治療で一番難しいのは、患者さんに生懸命やっていただかなければいけないことが多いことです。薬をただ出したりするだけではダメなので、実際にブラッシングで結果を出していかなければいけないということがあります。たとえ細菌やプラークの量が同じであったとしても、免疫応答の状況によって、ある人は歯周炎になってひどくなってしまう、ある人は悪くならないということもありえます。基本はプラークコントロールをしっかり行い、定期的に歯科医院に足を運んで、歯科医師ないし歯科衛生士が主体になって、プラークコントロールを指導したり支援をしていますので、患者さんと一緒に治すというイメージです。
池脇
3つのうちの宿主因子に入るかもしれませんが、私が歯周病に関してすごく印象的だと思ったことがあります。例えば糖尿病の方が歯周病を治療したら、糖尿病の指標の一つであるヘモグロビンA1cが改善した、歯周病が動脈硬化を進めるなどいろいろな報告がされています。歯周病は歯だけの問題ではなくなってきていますね。
齋藤
そうですね。まさに先生がおっしゃるとおりで、今は全身状態ともすごく密接に関わっているといわれていまして、キイワードとしては「炎症」が挙げられます。微細な炎症かもしれませんが、歯周炎に限らず体のどこかに小さな炎症があると、それが最終的には他の部分にも影響を及ぼすことは、昔から知られていました。歯周炎は、糖尿病とは双方向性の関係性が明らかになっています。糖尿病の治療をすると歯周病も良くなる、歯周病の治療をすると、糖尿病の値も改善するというのは、医科と歯科の双方のガイドラインで明確に示されており、エビデンスは一番蓄積されています。
池脇
確かに動脈硬化は慢性炎症反応ともいわれて久しく、そういう炎症を介して、歯周病と繋がっているというところで、もちろん我々と歯科医がみる歯周病のレベルは違うとは思うのですが、歯周病の方が来られたらどのように評価をされるのでしょうか。
齋藤
一番は視診で歯肉をみることです。まず歯肉の色や、腫れたところがないかなどを確認します。一般的に行われているのは歯周組織検査であり、その中でもプロービングといって歯と歯肉の隙間にプローブという器具を入れて、何ミリぐらいポケットがあるかを測ることが基本になります。
池脇
いわゆる歯周ポケットが深ければ深いほど、歯周病が進行しているという理解でよいでしょうか。
齋藤
そういうことです。
池脇
プローブで測ったり、レントゲンや場合によってはCTも使われていますか。
齋藤
そうです。今、一般の開業医ではコーンビームCTという非常に精密に画像が得られる装置が普及しつつあります。基本はデンタルX線画像で10枚法か14枚法なのですが、それに加えて、必要に応じてパノラマX線を撮ったり、コーンビームCTも使用します。歯周炎は骨が溶ける病気でもあるということです。
池脇
歯周病の基本治療は、ブラッシングと聞きましたが、歯垢に対しては効果があるけれども歯石になってしまったらちょっと難しいですよね。
齋藤
プラークコントロールはブラッシングがメインですが、ポケットができてしまったり、歯石が沈着するなど、患者さんにはいろいろなタイプがあります。歯石の沈着した根面はスケーリング・ルートプレーニングが必要で、歯科医院で歯科医師、あるいは歯科衛生士にやっていただくことになります。
池脇
そんなに多くはない一部の患者さんだと思いますが、なかなかそういったものでは、進行が止められない、管理できないときの治療にはどういったものがあるのでしょうか。
齋藤
なるべく我々も外科はやりたくないとは思ってはいるのですが、基準を満たして必要な場合は躊躇なく外科治療を行います。歯科では歯周組織再生療法という再生治療が非常に普及して、今は新しい薬も使えるようになっています。
池脇
いわゆる骨も含めて組織が欠けたところに組織の再生を図るということですね。これは何か再生を促すようなものを合わせて使うという意味で、新しいということですか。
齋藤
そういうことです。基本は、切開を入れて、歯肉弁をあけて、中の歯周組織をきれいにするということが一番大切ですが、ただそのまま閉じてしまうと修復的な治癒になるのです。それを再生まで導くためには、歯根と歯槽骨という骨の間に存在する歯根膜の細胞を増殖・遊走させて、その中には幹細胞を含む未分化間葉系の細胞がいるので、その能力を引き出すことが必要です。それが今行われている塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)製剤を使用する方法です(表)。商品名は「リグロス」で、日本で保険治療で使用されています。
池脇
これは入院しての治療でしょうか。
齋藤
外来で局所麻酔でできる治療ですので、そんなに特別な治療ではありません。
池脇
そういう治療を受けて、食事ができないとか患者さんの利便性の負担はどうなのでしょうか。
齋藤
それはたいへん重要なことですね。歯周組織の治癒には臨床的な治癒と、病理組織学的な治癒があって、おそらく先生がおっしゃったのは臨床的な治癒だと思います。外科治療をやると、1~2週間ぐらいは、違和感があったりという状況はありますが、その段階ごとのプラークコントロールをきちんとやって、抜糸をしたり、経過を見ていくと、だんだんと落ち着いてきます。鎮痛薬も出しますので、あまり不自由はかけないと思います。
池脇
そういうひどい状況でも今新しい治療があるというのは、すごく安心する情報をいただきました。最後に我々医師が、目の前の患者さんに対してできることはありますか。
齋藤
そうですね。一番は例えば、歯周病や口の状態はどうですかということをお声がけいただくのがよいと思います。あと、すぐわかるものとして口臭があるとか、他には歯にちょっと隙間が多いとか、歯肉が少し腫れているなとか、そういうことがあったら、歯科の受診をお勧めいただくといいと思います。
池脇
どうもありがとうございました。