ドクターサロン

池脇

ベンゾジアゼピン系睡眠薬からオレキシン受容体拮抗薬に変更して不眠の管理をしたいという質問です。そう考えている医師はけっこう多いと思うのですが、非専門医と先生のような睡眠の専門医では多少処方の内容は違うかもしれません。やはり従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬からオレキシン受容体拮抗薬をより使っていくという流れなのでしょうか。

稲田

はい、そのとおりだと思います。今まではベンゾジアゼピン系睡眠薬が中心だったのですが、そのベンゾジアゼピン系睡眠薬の問題点が様々指摘されるようになってきました。そこに出てきたオレキシン受容体拮抗薬というのは、問題点をだいぶ少なくしてくれた薬だと思います。ですから、今後はそちらにシフトしていくのは自然な流れだと思います。

池脇

ベンゾジアゼピン系の問題点はなんといっても依存性ですが、そうなのでしょうか。

稲田

はい。ベンゾジアゼピン系薬について、依存性はあるといってよいと思います。実際にPMDAからも注意喚起がなされていますし、あるものと考えたほうがいいと思います。

池脇

細かいことになりますが、従来のベンゾジアゼピン系に比べて、非ベンゾジアゼピン系は、依存性がなくはないけれど、前に比べたら少ないです、といったことを聞くことがありますが、やはり非ベンゾジアゼピン系にも依存性はあって注意しないといけないのですか。

稲田

そうですね。少ないとはいえますが、やはり依存性がありますね。ただ、その依存の特徴を知っていただけると、扱いやすくなると思います。

池脇

具体的にはどういう特徴なのですか。

稲田

ベンゾジアゼピン系薬の依存の特徴というのは、もっと飲みたいと思うような「渇望感」、もっとたくさん飲みたいと思うような「耐性形成」はあまりありません。でも、なかなかやめられず、いざやめようと思うと、「離脱症状」によってやめられなくなります。だらだらと続いてしまうのがこのベンゾジアゼピン系依存の特徴だと思います。

池脇

本当にその方が不眠で苦しんでいるときに使って眠れるようになったから、では、だんだんとやめていきましょうかというときに、この依存性が問題になってくるという理解でしょうか。

稲田

そうですね、いざやめようと思ったときには離脱症状が出るので、やめにくいということですね。もう一つのポイントは不眠の患者さんは眠れないことに対してとても不安を感じることです。薬をやめることに対しての不安で心理的な依存といっていいと思うのですが、そういう部分と離脱症状とをケアするとうまくいくと思います。

池脇

患者さん自身が抱く不安というのは、ベンゾジアゼピン系を飲んでいても、新規のオレキシン受容体拮抗薬を飲んでいても、おそらく同じようにあると思うのですが、ベンゾジアゼピン系で強く出てくるのでしょうか。

稲田

そうですね。患者さんにとってはベンゾジアゼピン系と、その他の薬との違いはあまりわからないかと思います。ただベンゾジアゼピン系は不安に対して抗不安作用も持ち合わせているので、ベンゾジアゼピン系をやめていくときには、やはり不安など、そういった離脱症状を生じることがあるので、これをやめるのがちょっと困難なことがありえます。

池脇

わかりました。ベンゾジアゼピン系を使っている患者さんが、依存性が心配で変えてほしいとのこと。オレキシン受容体拮抗薬を使ったほうがいいのでしょうか、という今回の質問ですが、いかがでしょう。

稲田

今のまま少しずつ減薬していって、やめられるのであればそれでいいと思います。ゆっくりやめていくことで、患者さんがやめることが怖いという不安に対処できているのでしたら、主治医との関係がとてもうまくいっているのだと思います。ただ、やめていくときにちょっとずつ眠れなくなって眠れないことがまた不安、となるようでしたら、オレキシン受容体拮抗薬に切り替えるか、オレキシン受容体拮抗薬を上乗せするかしてきっちり落ち着いて眠れるように、眠れない不安を取り除いてあげた上で、ベンゾジアゼピン系を抜いていくのがいいかと思います。

池脇

確かに依存性のある薬ではなくて、これはこういう薬だから、ちょっと使いましょうか、というと、患者さんもそれほど不安を抱かない可能性はありますね。

稲田

はい、そうですね。

池脇

この患者さんの今後の状況によっては、オレキシン受容体拮抗薬が使えるという状況だということですね。基本に返るようですが、不眠は入眠障害や、中途覚醒あるいは早朝覚醒など、いろいろなタイプがあります。そういったものに合わせて選んで使う必要はないのでしょうか。

稲田

以前は入眠困難や早朝覚醒などいろいろ使い分けていた頃があったのですが、今はもう、それらをあまり区分けしなくなっていますね。

それよりも夜、眠れなくて日中に影響があるのか、そういったところを確認していったほうがいいように思います。

池脇

もう一つ確認です。この質問の最後のところに出てきましたが、状況によってベンゾジアゼピン系以外の薬を使う場合、その一つがオレキシン受容体拮抗薬でした。これに関しては先生も使うときは使っていいのではというご意見でしたが、メラトニン受容体作動薬について、こういうときにいいというのはありますか。

稲田

メラトニン受容体作動薬は、眠らせるという作用はあまり期待できないのですが、その代わりに副作用がほとんどないのが特徴です。そうしますと、中学生や高校生など若年者や高齢の方に対しては、有用な選択肢の一つだと思います。

池脇

そうですね。副作用はそんなに心配しなくてよくて、特に若い患者さんの場合には使いやすい。ただ、このメラトニン受容体作動薬というのは飲んですぐ効くわけではなくて、少し時間がかかると聞きましたが、どうでしょう。

稲田

そのとおりです。メラトニン受容体作動薬は、体内の睡眠のリズムを作り出してくれる。それを作り出すことによって、眠りを促していく薬ですから、1回2回飲んだだけでは、ほとんど効果が得られません。しばらく飲み続けてくださいとお話しするのが正解だと思います。

池脇

最後に、ベンゾジアゼピン系よりも新しいオレキシン受容体拮抗薬が良い、という大きな流れはあるかもしれませんが、やはり専門医から見ると、やはりベンゾジアゼピン系がいいから、こういう人には無理して新しい薬にシフトするよりも、こういった薬で慎重に使うほうが良いという患者さんもいるような気がします。一般の医師に向けてこういうときは気をつけたいというような患者さんはいますか。

稲田

ベンゾジアゼピン系薬をこれから新たに、最初から使うということは少なくなってきます。オレキシン受容体拮抗薬を使ってもうまくいかない、どうしても必要な方がいらっしゃると思います。どんな方が多いのかと考えると、やはり不安を伴っている方です。それから体のご病気など合併症を持っているとか、一人で抱えきれないような心理的なストレスを持っているとか、そういう方に対してやはり必要かと思います。でも、そのときにはどのような困り事があるのかをちょっとだけ時間をかけて聞いてあげる、そうするとうまくいくのではないかとも思います。

池脇

確かに薬を頻繁に変えるよりも、患者さんに寄り添って、どこが心配ですか、というその一言が結果的にうまくいく秘訣なのかもしれませんね。ありがとうございました。