ドクターサロン

山内

高尾先生は、5年前に重症のギランバレー症候群を発症されて、現在リハビリ回復中という中、解説をお受けいただきました。よろしくお願いいたします。

質問について、硬膜外や硬膜下血腫に関してはよく知られていますが、高齢者の転倒、打撲時、外傷性の脳内出血というのは起こりうるのでしょうか。

高尾

脳内出血というよりは、脳の表面に血腫が溜まる、急性硬膜下血腫や急性硬膜外血腫が多いと思います。

山内

脳の中の出血は、さすがに先生方も見ないということですね。

高尾

細胞が傷ついて脳挫傷等はあるのですが、大きな血腫になることは少ないです。

山内

転んだ場合、やられやすい血管の部位については何か知られているのでしょうか。

高尾

たぶん、脳の表面にある静脈などが回転で引っ張られて切れるのだと思います。

山内

例えば特に前頭部に多い、後頭部に多い、そういったデータはありますか。

高尾

ぶつけた場所によると思います。右側をぶつけたら右側になることもあるし、脳が揺れて反対側に起こることもあると思います。

山内

いずれにしても深い場所の出血はあまりないと考えてよいですね。

高尾

はい。

山内

もう一つは、ぶつけたときにあちこち一斉に出血するようなことがあるのでしょうか。

高尾

両側性も片側性もあると思います。ぶつけた衝撃の度合いと場所によると思います。

山内

単に転倒した程度では、多発出血はないと考えてよいのですね。

高尾

ないです。でも両側はあります。脳が揺れると反対側も傷つけることがあります。脳は頭蓋骨の閉鎖空間にあるので反対側に寄ると反対側も傷つくことがあるのです。

山内

作用・反作用じゃないですけど、どんどんとくるのですね。

高尾

そうです。

山内

初期に小さな出血があったとして、これが後々血腫に進展する確率はわかっているのでしょうか。

高尾

確率はわからないのですが、高齢者など脳が委縮していて、もともと血管などが張っているような人は起こりやすいと思います。

山内

あと高齢者ですと血液をサラサラにする薬を飲んでいるケースもあると思いますので、こういったケースではもちろん出てくるのですよね。

高尾

普通の人より確率は高いと思います。

山内

急性期に血腫のほうに行かないように予防する治療といったものは特に何かあるのでしょうか。

高尾

予防する方法はないですが、血液をサラサラにする薬を服用している人がいたら元の疾患を見て可能ならばやめたほうがいいと思います。しかし、やめられないなら、経過観察の回数を慎重にするといいと思います。

山内

経過観察は、一般的にどの程度の期間なされるものでしょうか。

高尾

一般的には2カ月と3カ月が多いと思いますが、高齢者は数カ月以内にさらにもう1度やったほうがいいと思います。

山内

転倒して頭の表面が血だらけになったような方が来た場合、念のために経過で入院させる際にはどのくらい経過観察したらよいでしょうか。

高尾

私は1日でいいと思います。急性血腫になる場合は1日見ればだいたい大丈夫です。しかし慢性血腫になる可能性もあるので、受傷後1カ月と3カ月での経過観察は必要です。

山内

救急の病院に来て、CTスキャンにしても症状も特にこれといったものはない。だけどその後遅れて血腫が出てくることもあるのでしょうか。

高尾

たまにあるので気をつけたほうがいいと思います。特に頭痛や片麻痺などの症状があったら早めに病院に行くべきだと思います。

山内

後からいろいろな症状が出てくるケースで、例えば年齢やお酒を飲んでいる方などで何か特別なポイントはありますか。

高尾

高齢の男性は飲酒をする方が多いですが、その際に頭をぶつけることがあります。

山内

頭をぶつけることの関連で、例えばボクサーなどは、こういった例での脳内出血や血腫はいかがなのでしょうか。

高尾

起こすこともあります。プロボクサーは1年に2、3回、急性硬膜下血腫になっています。

山内

プロボクサーの方は、時々CTなどを撮っているのでしょうか。

高尾

血腫があると、もうボクシングができなくなるのでなかなか撮らないです。

山内

そうですか。さて、基本的な治療法は急性期は安静にするということでよいですね。

高尾

血腫が少なければ普通はそのまま自然に吸収が期待できます。でも血腫が大きくて脳に障害を起こしているときは、命に関わることが考えられるので緊急手術で血腫を除去します。

山内

予後は明らかになっているのでしょうか。

高尾

急性血腫の予後は良くなくて、死亡だけでなく障害が残るという意味も含むと命に関わる確率は50%前後だと思います。

山内

急性期からしばらくの間フォローアップするときの注意点ですが、まず特にこういった状態に対して使われる薬剤はないのですか。

高尾

残念ながらないのです。

山内

高齢者の場合、血液をサラサラにする薬や降圧薬などを飲んでいる方もいると思いますが、こういった薬への対応はいかがでしょうか。

高尾

基本的に薬は続けていいと思います。血液をサラサラにする薬だけは、病気によっては1カ月ぐらいやめるのがいいと思いますが、やめられない人は経過観察を慎重にするといいと思います。

山内

逆に言いますと、血液をサラサラにする薬は必ずしも中止するわけではないのですね。

高尾

他の病気になってしまう可能性があり、絶対ではないと思います。

山内

血圧の管理・維持ですが、やはりやや低め維持でよいでしょうか。

高尾

若くなければいいと思います。

山内

では、それに応じて降圧薬も調節するということでよいですね。

高尾

はい。普段どおりに飲んで調整しておけばいいと思います。

山内

最後に高齢者を前提とした、退院後の生活指導、運動時の注意点といったことを簡単にまとめていただけますか。

高尾

例えば家に段差があるならバリアフリーにするなど、再び頭部外傷を起こさないようにすることだと思います。あと血腫によって後遺症が残ってしまったときは、その症状によって気をつける必要があります。例えば、片麻痺が残ると普段より転びやすいと思うので、気をつけたほうがいいと思います。

山内

ありがとうございました。