ドクターサロン

山内

原則的にサブクリニカルクッシング症候群は、下垂体腫瘍または副腎の腫瘍があるケースが大前提でよいのでしょうか。

曽根

はい。特に副腎では必ずしも腫瘍とは限らないですが、腫瘍または過形成などで下垂体ならACTH、副腎ならコルチゾールが分泌されているケースになります。

山内

下垂体の場合は、サブクリニカルクッシング病になりますか。

曽根

そうですね。実際には副腎性のクッシング症候群のほうが偶発腫などで遭遇されるケースが多いのではないかと思います。

山内

一つは偶発腫瘍や過形成があるということ、もう一つはクッシング様の症状がないというのも条件にあるようですが、この意味するところとは何なのでしょうか。

曽根

コルチゾールが明らかに過剰になっているとわかりやすく、いわゆる満月様顔貌や赤色皮膚線条など誰が見てもわかるクッシング特異的な症状が出てくるのですが、そういうのがないような状態ですね。パッと見てわからない状態でも高血圧や脂質異常、糖尿病などの代謝異常や骨粗鬆症、血管合併症の原因になることがあって、そういうコルチゾールは一見正常な範囲に入っているけれども、自律的に分泌されていることで、外見上パッと見てわからないような様々な患者さんに障害をもたらしていることがあるという概念です。

山内

体形などはクッシング様ではないといっても肥満はあってもいいのですか。

曽根

そうですね。この辺の身体所見の捉え方は、なかなか難しくて、どれ以上が必ずいわゆる特異的所見かというと難しいですが、当然肥満や内臓肥満が増える方が多いといわれています。

山内

副腎の偶発腫瘍は画像診断が出てきてからずいぶんおなじみで、ホルモン値に異常がなかったら放っておいていいと言っていたのが、必ずしもそうでもないということがわかってきたことは、この概念の一つの意義と考えてよいのですね。

曽根

そのとおりだと思います。数値では正常でも、先ほど言ったように、高血圧や脂質異常、骨粗鬆症、糖尿病などの原因になっていることがあって、一見、コルチゾールの数値は正常でも勝手に副腎から作られたりすることが、そういう患者さんにとって健康障害をもたらしていることはある、ということがわかってきました。

山内

あと、我々はクッシング症候群自体についても昔から疑う症例は随分あったのですが、なかなかクッシング症候群との診断に至らないケースが多かったのです。このサブクリニカルという概念が出てきたことで、診断が中途半端だった患者さんがかなり具体的な治療方向に進むことができるようになったことも、大きな意義と考えてよいのですね。

曽根

はい、そうだと思います。手術をしたら患者さんにとってプラスになるのか、ならないのか、という判断をきっちりしてあげることが重要かと思います。

山内

詳しい診断基準はネットを参照していただくということにして、必ずしも専門医ではない、大学病院のように24時間蓄尿でのコルチゾールの測定も実際にはなかなか実施が難しい非専門医でもある程度スクリーニングができるということについて少しお話をうかがいたいです。スクリーニングとしてどういったものが妥当と考えられるでしょうか。

曽根

まず一般の採血で考えた場合、時間帯の差というのはけっこう大事で、普通の人は朝はACTH・コルチゾールが高くて、夜はほとんど出ないのですが、副腎性であれ下垂体性であれ、夜にコルチゾールがある程度、正常値の高い方の数値があったりすると、やはりおかしいと思ってもらったほうがいいかと思います。あと、早朝の採血でも副腎性の場合は、コルチゾールとACTHがアンバランスになって、コルチゾールが正常でもACTHが完全に抑制されていると、ネガティブフィードバックといって、コルチゾールが自律分泌されていることで上流が抑えられているので、アンバランスなコルチゾール正常・ACTH低値を見たときも、副腎性のサブクリニカルクッシング症候群が疑われるかと思います。ただ、そういう一般採血でちょっと悩んだときに一番簡単なのは、デキサメタゾン抑制試験というデキサメタゾンを1㎎か0.5㎎を23時に飲ませて(私は1㎎でいいと思います)、翌朝に採血をすることで簡便にスクリーニングができると思います。

山内

先ほどの夜の採血とは18時以降ということになりますか。

曽根

そうですね。だから現実的には夜間診療をしている病院でないと難しいので、海外では唾液のコルチゾールを測ったりするのが診断基準です。

山内

もう一つコルチゾールの基本的な動態に関して、日内変動はむろんありますが、日差変動はいかがでしょう。

曽根

おっしゃるように下垂体の場合は、サイクリックといわれるクッシング病の中でも、かなり周期をもってACTHが分泌されるという病態があるのですが、サブクリニカルに関しては、あまり神経質に考える必要はないかと思います。それは明らかなクッシング兆候が周期的に出てくる人で考えたらいいかと思います。

山内

原則的には24時間ほとんど抑制も受けずに出てきている状態が想定されているのですね。

曽根

そうですね。サブクリニカルクッシング症候群に関しては、副腎性が多くて、その場合はそういうケースが多いと考えられます。

山内

糖尿病などでも境界型という概念がありますが、先生方はこのサブクリニカルクッシング症候群に関して、クッシングの未病の状態と考えているのか、それとも別の疾患概念だと考えているのでしょうか。

曽根

とても重要なところで、未病の状態というよりは、別の疾患概念と考えられると思います。というのは、サブクリニカルクッシング症候群の人のほうが、普通のはっきりしたクッシング症候群の方よりも、平均年齢が高いことが知られていますし、またサブクリニカルクッシング症候群の人を観察していても、ごく一部を除いて、overtというか、はっきりしたクッシング症候群にならない方が多く、昔はプレクリニカルクッシングと呼んでいたのですが、プレは間違っているのではないかということから、サブクリニカルと名前が変わったという経緯があります。前駆症状ではなくて別の病態と考えられています。

山内

新しい疾患概念と考えたほうがいいということでしょうか。

曽根

疾患概念というより、サブクリニカルクッシング症候群が悪化して普通のクッシング症候群になるのではなくて、サブクリニカルクッシング症候群の人はサブクリニカルクッシング症候群のままなことが多いので、症状が完成したクッシング症候群の人とは違う患者さんで起こる状態だということです。

山内

糖尿病の境界型では、いつの間にかまた正常に戻ることがありますが、これもあるのですか。

曽根

戻ることはないと思います。先ほど言ったように腫瘍か過形成が原因なので、あまり生活習慣などは関係ないといわれていることから、やはり放っておいて良くなることは事実上あまりないかと思います。

山内

そうですか。最後に治療ですが、これはそもそも治療の必要性があるのでしょうか。

曽根

おっしゃるとおりで、サブクリニカルクッシング症候群の治療の必要があるかどうかは、まだコンセンサスが得られておらず、患者さんごとに判断することになっています。

具体的には、コルチゾールがわずかにその腫瘍などから作られていることが患者さんにとって健康障害をもたらしているのであれば、取ってあげる必要があるので、高血圧や脂質異常症や糖尿病や骨粗鬆症などの合併症が多くあったり、心血管合併症のリスクになっていると思われるものは取ってあげたら大きなメリットがあります。あまり合併症がないような方では、取る必要があるかどうかは議論が分かれると思いますし、結局それを取ることで患者さんにどれぐらいメリットがあるのかということを個々の症例で判断して手術するかどうかの判断になると思います。

山内

言い換えますと、手術をしてその腫瘍を取った場合、特に副腎偶発腫瘍とされているものは摘出すると、例えば糖尿病、場合によって高血圧が良くなることがあるのですね。

曽根

はい、もちろんサブクリニカルではない本当のクッシング症候群だと良くなることが多いですが、サブクリニカルクッシング症候群でも経験上、糖尿病や高血圧が非常に良くなる方もいらっしゃいます。結局、どれくらい寄与しているかを判断するのも、医師の役目なのかなと思っています。

山内

それは非常に画期的なところもあるような気がします。例えば、肥満も治るのでしょうか。

曽根

肥満に関しては難しいところで、実はそうやって手術してもあまり良くならなかったという方もいるし、良くなったという方もいます。結局その人の生活習慣がどれぐらい関与していたのかにもよると思うので、やはりどれくらい合併症が重複しているかを見ていく必要があるのか、肥満だけの人が果たして良くなるのかは、サブクリニカルクッシング症候群の場合、実は難しいかもしれません。

山内

基本的には患者さんの同意が得られると、一度専門医を紹介することもありと考えていらっしゃるのですね。

曽根

あとは、簡便にスクリーニングするのであれば、腫瘍が見つかった症例では、全例1㎎デキサメタゾン抑制試験を行ったほうがいいとヨーロッパのENSATという会などでは推奨されています。

山内

ありがとうございました。