ドクターサロン

 池脇 ピロリ菌の除菌に関してエキスパートの河合先生に解説をしていただきたいと思います。質問文の前半、ピロリ菌除菌後の除菌判定を尿素呼気試験で行われていますが、これは一般的な手順なのでしょうか。
 河合 今はピロリ菌の除菌判定は除菌の薬を飲んでから1カ月前後でやっていただくのですが、尿素呼気試験が一番精度、感度ともに高く診断できることから世界的にも認められている方法です。
 池脇 話が前後しますが、ピロリ菌の検査表を見ますと、侵襲的といった、胃カメラのときに合わせたリアルの検査と非侵襲的検査の中に尿素呼気試験や抗体を血清、尿で測る抗体法や便中の抗原を測る便中抗原法などいろいろあるのですね。
 河合 先生がおっしゃったとおり、内視鏡、いわゆる胃カメラの際に組織を採ることが侵襲に値しますので、組織を採ってウレアーゼという作用を利用するウレアーゼ検査、培養検査、あるいは顕微鏡でピロリ菌を調べる鏡検検査があります。一方、非侵襲的検査としては血液検査でもわかりますし、尿素呼気試験、そしてピロリ菌は胃を出た後は腸に感染せず便に出てきますので、便の中を調べる便中抗原法があり、全部で6つの検査があるといわれています。
 池脇 原理が違えば、いわゆる感度や特異度もおそらく違うでしょうし、こういう時には、こういう検査が適しているというものもあると思うのですが、除菌後の除菌判定は尿素呼気試験が一番適していると考えてよいですか。
 河合 そうですね。やはり一番正確に診断できる方法としては、尿素呼気試験が最も有用だといわれています。便の検査も抗原検査なので感度が高いのですが、持って来ていただく間の便の温度管理が必要で、ある程度温度が高くなってしまうと、変化が生じて感度等が下がるともいわれていますので、やはり一番間違いないのは、この尿素呼気試験だと思います。
 池脇 わかりました。それで陰性ということでしたが、質問文には人間ドック、検診でピロリ菌陽性が持続しているとあります。除菌を確認したはずなのに抗体検査で陽性ということをどう考えたらいいのか、この抗体検査はおそらく血清の抗体検査ではないかと思うのですが、こういう状況での抗体検査の信憑性は、どうなのでしょうか。
 河合 やはり抗体検査も先ほどの6つの検査のうちの一つでして、初回の診断方法としては、かなり感度・特異度の高いピロリ菌の診断をできるといわれております。やはり抗体ですので、抗原自体のcheckではなくピロリ菌がいなくなったあとでも抗体は同じように持続して高い値が続きますので、除菌後に抗体で感染判定したり、経過を見るのは困難です。以前に私が除菌を担当した患者さんが健診センターで抗体検査を受け、健診でピロリ菌が陽性と言われたと、私の外来に来られました。「いや、大丈夫です」という話をしたのですが、やはり除菌後の抗体検査によるピロリ菌感染診断が、まだまだ問題になっているのかと思います。
 池脇 除菌していつぐらいに抗体検査をされたのか、ここには書いてありませんが、あまり時間的に離れていない場合には、抗体が下がるにはちょっと時間がかかるので、その間、陽性は十分ありうるということですね。
 河合 そうですね。2年ぐらいですとやはり30~50%、まだまだ陽性で、陰性化する、いわゆるカットオフ値に下がるのは10年かかるといわれています。そのぐらいのスパンで見ていただくのがよいかと思っています。
 池脇 抗体検査は抗体検査の良さ、どういうタイミングと目的でやるのかというのはあるにしても、少なくとも除菌して尿素呼気試験で陰性のあと、抗体検査というのは、あまり参考にすべきではないと考えてよいのですか。
 河合 そうですね。抗体検査のその数値が示す意味自体がまだ確立していませんので、除菌後の経過観察中には、抗体検査をしないほうがいいというのは、学会の意見でもあります。
 池脇 感染はないけれども、抗体検査で陽性というのを偽陽性だとすると、この質問では偽陽性はどのくらいなのでしょうかと聞かれています。それは除菌のあとの期間によってパーセンテージも大きく変わりますね。
 河合 おっしゃるとおりですね。やはり除菌後の期間が短いと30~50%、5年経ってもまだ10%前後です。やはり期間によるばらつきもあるので、まだまだ抗体でのピロリ菌の除菌後の経過観察は、行わないでいただいたほうがよいかと思っています。
 池脇 この質問の医師は、陰性だったのがまた陽性になったことを再感染ではないかと考えているのですが、基本的にピロリ菌の再感染というのは極めてパーセンテージが低いと聞いていますけれど、どうなのでしょうか。
 河合 そうですね。論文ですと高くても数パーセントあるかないかですね。私自身も1,000人以上除菌していると思いますが、自分で明らかに再感染がわかったのは2人でした。除菌して1年に1回内視鏡にて経過観察をしていたのですが、粘膜の炎症が治ってきていたのに、5年後に突然粘膜全体にむくみが出現して、あれっと思って検査したところやはりピロリ菌陽性(再感染)だった患者さんを経験しています。再感染はゼロではないのですが、あまり心配しなくてもよいかと思っています。
 池脇 わかりました。とはいえ、現実として人間ドックやら検診で受けた方が希望して、ピロリ菌も一緒に調べてくださいと申し出ての抗体検査だと思うのです。ですから、これまでピロリ菌の検査をしていない方であれば、人間ドックで陽性と言われたときの意味合いは十分あるのでしょうか。
 河合 はい、先生のおっしゃるとおりで、今までピロリ菌の感染の検査もしていない、そして除菌治療も受けていないという方でしたら、抗体検査でまずチェックいただく意味は非常に高いと思います。検査自体の感度・特異度も両方とも90%以上ありますので、まずは抗体検査でピロリ菌がいるかいないかの判定自体は間違っていないと思います。ただ、やはり検査自体、どうしても偽陽性や偽陰性があるので、そのあたりは十分注意してやっていただきたいと思っています。
 池脇 最後に細かいことですが、この抗体検査も以前はEIAという方法が主流だったのが、最近はラテックスでの抗体検査が普及しつつあるということです。こういった測定の手技の違いがその結果にも多少影響を及ぼすのでしょうか。
 河合 ラテックスのほうがより早く結果が出るということで、多くの検査法(生化学検査)がラテックスに変わってきています。それに伴いピロリ菌の検査も先生がおっしゃられたEIAからラテックスに変わっているのですが、ラテックスは早いというメリットがある半面、測定がIgG抗体だけでなくて、IgA、IgMもチェックしてしまうようです。EIA法よりも偽陽性率が高いということが今、学会でも問題として上がっています。日本ヘリコバクター学会という学会のホームページにも少し注意喚起の文章が掲載されていますので、ご興味がある方はぜひそちらも閲覧していただければと思います。ただ、最後に一つお話ししたいのは、ピロリ菌は胃の中で感染しているので、検査等で偽陽性、偽陰性の可能性があれば、年に1回は胃カメラで中の状態を見ていただく。感染の状況もはっきりわかりますし、本当に心配な胃がんも発見できます。ぜひとも定期的な内視鏡の検査を経過時に特にやっていただきたいと思っています。
 池脇 どうもありがとうございました。