ドクターサロン

大西

不妊症に隠れた内分泌疾患というテーマで、お話をうかがいます。 不妊症の方は、多いような印象を持っていますが、現状はどのような感じでしょうか。

原田

妊娠を望む女性の年齢が高くなっていることもあり、5人に1人とか、6人に1人という割合で不妊症の方がいるといわれています。

大西

原因はいろいろあると思いますが、主なものはどういったものですか。

原田

不妊の因子としては、女性側の排卵の因子、あとは卵管の因子、子宮の経管の因子。あとは男性側の因子もかなり大きなウエートを占めています。ただ、なかなかその範疇に入ってこない、原因不明不妊というものもあり、加齢、女性の年齢が上がることは、そこに入ってくるのではないかと考えられています。

大西

今回のテーマである内分泌系と不妊症の関わりはどのようになっているのでしょうか。

原田

疾患としては幾つか挙げられますが、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)というものが排卵障害の原因としては一番多いといわれています。

大西

不妊症の方が来た場合に検査をするかと思いますが、内分泌系の検査はどのように進めていますか。

原田

まず、卵巣は下垂体、視床下部からレギュレーションを受けますが、月経期の脳下垂体のホルモンの検査、FSH、LH、プロラクチンなどを測っていきます。

あと、今度は排卵をした後の黄体期、高温期に当たる妊娠を維持するホルモンであるエストラジオールやプロゲステロンを測ります。先ほど申し上げたPCOSの場合は、ベースに耐糖能異常が隠れている方がけっこういることが知られています。これは一定のガイドラインがあるわけではないですが、私は空腹時血糖やインスリンを測り、HOMAIRを出してみることもしています。

あと、今は潜在性甲状腺機能低下症の割合が不妊・不育の方に多いと話題になっているので、スクリーニングとしてTSHとFT4などを測っています。

大西

主な内分泌異常の疾患との関係について教えていただきたいのですが、甲状腺機能の異常と不妊症との関係、低下と亢進の場合について教えていただけますか。

原田

亢進も低下も、妊娠成立に関して不利に当たるのはもちろんなので、基本的にはそういうものがベースにある方はきちんと治してから不妊治療をしています。不妊治療中もそうですし、妊娠をしてから、児のほうの甲状腺機能もありますので、そこをきちんと治療してから不妊治療に入ります。

あと、症状が出ていなくても、先ほど申し上げた潜在性甲状腺機能低下症という状況もありますので、TSHが2.5ないしは3を超えている方の場合には、それを是正しながら、不妊治療を進めていくかたちにしています。

大西

TSHが10を超えると治療をしようかと思います。潜在性の場合はなかなか治療をしませんが、積極的にやったほうがいいのでしょうか。

原田

不妊症の方の場合には、そのようにしています。あとは不妊症のスクリーニングの一環で行われる子宮卵管造影があります。

ヨード製剤を使うので、潜在性甲状腺機能低下症をあまり認識しないまま使うと、増悪することもあるので、早い段階で診て是正をしています。

大西

バセドウ病などがある場合の対応はどのようにされていますか。

原田

基本的には、甲状腺内科医とよく連携を取りながら、バセドウ病のコントロールをよくした状況で、いま妊娠をしても大丈夫という許可をいただき、不妊治療を進めるかたちにしています。

大西

次に高プロラクチン血症について教えていただけますか。

原田

こちらも乳汁分泌まであるような方は普通はいらっしゃらないので、検査をしてみると引っかかる方がいるのが実際かと思います。プロラクチンが高い場合は、卵巣ステロイドとの関連でいくと、黄体機能不全と関連するといわれています。高温期が短くなって妊娠を維持するホルモンがうまく出ない状況になるので、そちらは併せて是正をすることになります。あとはプロラクチンが50を超えてくるようなものであれば、もちろん頭部のMRIを撮ることもします。

大西

プロラクチノーマということですか。

原田

そうですね。そういうものがないかをルールアウトする必要があると思います。

大西

ときどき薬剤性もありますね。そのあたりを教えていただけますか。

原田

うつ病の薬とか精神疾患の薬を飲んでいる方で不妊治療中の方もいらっしゃるので、その薬をやめられるかどうかはなかなか難しいところもあります。原疾患の医師とよく相談をしながらになると思います。

大西

胃薬などのよく使われる薬でも、ときどき起きるような気がします。どのように気をつけたらよいですか。

原田

プロラクチンが高いだけというのは決定的な不妊症の原因にはならないので、例えば先ほどの黄体機能不全などでも、黄体ホルモンを補うなどの対処はできます。その薬自体が妊娠成立のために禁忌でなければ、ある程度、横に置いておきながら進めることが可能かと思います。

大西

以前はポピュラーな胃薬でも、乳汁分泌が起きるのを経験したことがありますが、気をつけたほうがいいということですね。

それでは、次にPCOSですが、これはどういった疾患でしょうか。

原田

こちらは基本的に排卵障害が表に出てきます。特に日本の場合だと、排卵障害で婦人科に来て診察をされることが多いですが、実際はインスリン抵抗性と、あとは(少なくとも)卵巣局所の高アンドロゲン状態の相互作用により起きる疾患とされています。ですから、生殖系の疾患として捉えるよりは、生殖と代謝疾患、両方の異常をきたす疾患と捉えるべきものだと考えています。

日本の診断基準では、ホルモン検査と月経不順と、あとは超音波で見て、卵巣に囊胞状の形態の卵胞がたくさん見えている、この3点で診断します。

大西

大きさや個数に何か基準はありますか。

原田

何個というのもありますが、実際は超音波のヘルツによっても違うので、そこはたぶんあいまいに診断されていることも多いと思います。あとは先ほど申し上げたFSH、LHでLHが高値になっている、ないしは血中の男性ホルモンが高値で診断されている疾患です。

大西

この疾患はメタボリックシンドロームと関係あるのですか。

原田

かなり関係が強いといわれています。まだなかなか認識は広がってはいませんが、肥満とは独立した因子として耐糖能異常のリスクを上げることが知られてきています。 ですから、PCOSの患者さんだと、例えば排卵誘発薬を使い、うまく排卵をして、妊娠をしてよかったね、さようならではなく、その後、妊娠中も妊娠糖尿病のリスクも高いといわれています。妊娠糖尿病にならないか、出産後に生涯のメタボリックシンドロームのリスクもあることを認識しながら、フォローをしていくことが必要だろうと思います。

大西

メタボリックシンドロームの人はけっこう多いですが、そういう方の中に、そういう疾患が含まれているということですよね。

原田

一定数いるかと思います。

大西

どういうことに気をつけたらいいですか。

原田

特に若い方はメタボリックシンドロームを主訴に内科に行くことは少ないかもしれませんが、そういう方の月経の状況などもお聞きいただき、例えば月経異常があるという場合には、いま挙児希望があってもなくても、婦人科にお声がけいただくといいかと思います。

大西

代表的な3つの疾患をうかがったのですが、それ以外に何か気をつけるようなことはありますか。

原田

内分泌疾患で、主だったものをほとんど挙げてしまったので、まれなものを除けばほとんどないかと思います。

大西

先ほどお話が出ました潜在性甲状腺機能低下症は積極的に介入することで、出産後、どれぐらい診ていらっしゃるのでしょうか。

原田

正直なところ、出産後にきちんとフォローしていく体制は、日本では婦人科のかかりつけ医制度がなかなか広がっていないこともあり、今後の課題かと思います。

大西

そのあたりのコントロールが妊娠後の予後にも関わってくるのですね。

原田

ですから、内科医とよく連携をしながら診ていくことが必要だと思います。

大西

いま不妊症の治療は相当多いと思いますが、そのあたりの現状はどんな感じですか。一部、保険適用にもなりましたが、なかなかうまくいかないケースもけっこう多いと聞いています。

原田

今のサイエンスの状況だと、女性の年齢による、加齢による卵巣機能が落ちてくるところを埋め合わせするものがまだないので、ライフプランニングなどをできるだけ早く立てて介入していただく。1歳でも2歳でも早いと、体外受精の成績も全く違い、特に38歳を超えてくると急に成績も落ちてくるので、早めに治療に入ることがいいかと思います。

大西

43歳前後ぐらいに壁があるという話を聞きますがどうですか。

原田

今回、保険適用が拡大したといっても、43歳以上の方には保険が利かないことになっています。これまでの成績を踏まえたものにもなっているので、ぜひとも早めの介入をというところかと思います。

大西

ありがとうございました。