ドクターサロン

 齊藤 骨粗鬆症に隠れた内分泌疾患についてうかがいます。まず骨粗鬆症ですが、どういうものでしょうか。
 鈴木 骨もほかの身体の臓器と同じように作って壊してという、いわゆる新陳代謝で作り替えを行っています。この作り替えのバランスが年齢とともに悪くなってきて、だんだん骨が減ってきてしまう。そしてそれが直接骨折につながる状態を骨粗鬆症と呼んでいます。そのために骨粗鬆症は年齢が高くなればなるほど、一般的には発症率が高くなる、あとは性ホルモン、特に女性ホルモンの影響を強く受けるので、閉経後の女性に多いという特徴があります。
 齊藤 一般の骨粗鬆症の患者さんの中に、内分泌疾患が隠れているということでしょうか。
 鈴木 はい。原発性と続発性の区別は時々難しいことがあります。特に栄養状態や、身体の動きが悪いといった状態については両者の線引きが難しい。ただし明らかに若いのに骨折がやたら多い方、あるいは一般的には骨折は少ない男性なのに比較的若年で骨折するような方、こういった方の中に内分泌疾患が隠れている場合が多くあります。
 齊藤 まずはカルシウムと関係するとなると副甲状腺でしょうか。
 鈴木 はい。副甲状腺機能亢進症につきましては、副甲状腺ホルモンが直接骨からカルシウムを削りだしているので、それによって骨折の確率が非常に高くなることがわかっています。また、頻度的にも意外と副甲状腺機能亢進症は多いこともわかっていますので、この場合は、骨折が原因となって見つかる場合もあります。
 齊藤 副甲状腺機能亢進症の診断の進め方はどうなりますか。
 鈴木 一般的にはカルシウム値が高いことによって骨折前に見つかる場合も多いことが知られています。カルシウムが高く、リンが下がってくる、ここから副甲状腺ホルモンを測るケースが多いと思います。
 齊藤 そして診断に至った場合、まずは現病の治療になりますか。
 鈴木 特に副甲状腺の場合には、腺腫を摘除すれば、それによって病気が治ることが多いので手術が第一選択となります。ただし、化学型と呼ばれるあまり症状がはっきりしない状態で見つかったときには、腫瘍そのものが小さいために局在診断が難しい場合もあります。このようなときには、副甲状腺ホルモンを抑えるようなカルシミメティクスや、あるいは骨を折れにくくするためのビスホスホネートといった骨粗鬆症の治療薬を使いながら局在診断を続ける場合もあります。
 齊藤 骨粗鬆症、骨折を見つける努力をするということですね。
 鈴木 はい。あと副甲状腺機能亢進症の特徴として、尿中のカルシウムが多くなるので、繰り返す尿路結石も見つかる一つのきっかけとなります。
 齊藤 次は、ステロイドホルモン関係になりますか。
 鈴木 はい。糖質ステロイドは骨の代謝に対して悪影響が非常に強いために内因性に上がってくるクッシング症候群、あるいは外因性にステロイド経口薬を長期に使われる方では、非常に骨折のリスクが高いことが知られています。
 齊藤 クッシング症候群は副腎由来と下垂体由来の鑑別診断をして、治療でしょうか。
 鈴木 はい。クッシング症候群の場合は、特に副腎性のものが非常に骨折リスクが高くなります。下垂体性のほうが小さいものが多いので、なかなか診断が難しい場合もありますが、骨折を繰り返すようなクッシング症候群の場合には、一般的に局在診断が行いやすいものが多いように思います。ですから、腺腫を取りに行くのが第一選択になります。
 齊藤 骨粗鬆症が起こってしまった場合、こちらの対処はどうしますか。
 鈴木 ステロイドに対してはビスホスホネート薬が非常に有効であることがわかっています。そのために第一選択は経口のビスホスホネート薬を使用することになりますが、これが使用できないような場合には、抗RANKL抗体と呼ばれる破骨細胞の誘導因子の中和抗体、あるいはテリパラチドと呼ばれる骨形成促進薬が使われる場合もあります。
 齊藤 ステロイドをかなり長期に多めの量を使う患者さんもいますね。これに関してどうでしょうか。
 鈴木 これにつきましては、経口薬で3カ月以上連続してステロイドを使う場合、骨に対する悪影響が臨床的なリスクとなってきます。その方の年齢、骨密度、ステロイドの量等を鑑みて、リスクが高ければ早めに骨粗鬆症の治療を併用することになります。
 齊藤 膠原病、腎疾患、それから皮膚科でもそういうことがあるようですね。
 鈴木 はい。たくさんの経口ステロイドを連続して使わざるをえない患者さんがいらっしゃいますので、そういう方について、最近では皮膚科医も比較的早めに骨粗鬆症の治療をしてくださることが増えてきています。
 齊藤 ビスホスホネート薬は、どのくらいの期間飲むことになるのでしょうか。
 鈴木 基本的には経口ステロイドが一定量以上続く場合、併用していくのが大前提になっています。ビスホスホネート薬は、原発性の場合には、投与開始後8~10年間ぐらいで一度治療の見直しをするのが原則になっていますが、ステロイドを使っている方の場合には、どれぐらいの期間使うのがいいのかについての意見はまだ固まっていません。
 齊藤 それから、甲状腺機能亢進症もカルシウム代謝と関係するのでしょうか。
 鈴木 はい、おっしゃるとおりです。甲状腺機能亢進症の場合、ちょっと難しいのは、甲状腺ホルモンが骨を削りだしていくフェーズと治療により骨代謝全体を活性化していくフェーズとが比較的区別しにくいという問題があります。ただ、バセドウ病を起こした、特に女性の場合は、バセドウ病の既往歴だけでも閉経後の骨粗鬆症のリスクが上がるという報告もあります。それぐらい骨の代謝に対して強い影響を与えていることは事実です。ですので、バセドウ病が閉経後の女性に起きた場合には、直接的に骨折のリスクが上がっていきますので、治療を併用しなければならない場合もあります。
 齊藤 バセドウ病の治療と並行して、ビスホスホネート薬なのでしょうか。
 鈴木 一般的にはビスホスホネート薬が一番エビデンスが多いと思います。ただバセドウ病を治療した後に通常アルカリホスファターゼが上がってくるフェーズが治療開始後3カ月後から半年後ぐらいの間にあります。この時には、言ってみれば骨の作り直しをしているようなフェーズといわれていますので、この期間には、できればあまり骨の代謝を抑えるような薬を直接使いたくはないという意見もあります。よほど、もともと骨密度が低い、あるいは治療が一段落して半年、1年経ってアルカリホスファターゼも下がってきた、でも、やはり骨量が低いという方に対して、それからどう上げようかというような判断をする場合もあります。
 齊藤 性腺も関係するのでしょうか。
 鈴木 はい。冒頭で閉経によって女性ホルモンが減ることが非常に骨にとって悪影響があるということは申し上げました。これはある意味、自然現象ですので、続発性の中には入れていません。しかし、最近は特に抗がん剤として男性女性ともに性腺抑制療法が用いられることがありますが、このような時には非常に骨代謝が悪くなるので、骨折リスクが高くなってきます。
 齊藤 具体的には、例えば男性でいうと前立腺がんや女性の乳がんになりますか。
 鈴木 はい。アロマターゼ阻害薬にしても、LH-RHアナログにしても、強力に性腺を抑制するので、それによって骨代謝が悪化します。
 齊藤 そうすると、骨粗鬆症リスクがあがるということで、これも場合によっては、ビスホスホネート薬の使用が必要になるのでしょうか。
 鈴木 はい。こちらにつきましても、やはり骨が一定以上減っていかないようにビスホスホネート薬、あるいは抗RANKL抗体のような骨吸収抑制薬が使われる場合が多いかと思います。
 齊藤 そういった疾患が出てきましたが、実は生活習慣病にもあるということですよね。
 鈴木 はい。糖尿病あるいは慢性腎臓病といった非常に多い病気で、骨折リスクを上げる場合があるといわれています。慢性腎臓病の場合には直接ビタミンD代謝、カルシウム代謝が悪くなるので、それによって骨が弱りやすくなるという一面があります。糖尿病の場合には酸化ストレス、糖化ストレスといった一般的な糖尿病の合併症を推し進めるような身体に対するストレスが、骨折のリスクをあげるということも知られています。
 齊藤 患者さんの数は非常に多いですから、その中に骨粗鬆症が隠れているということですね。
 鈴木 先ほど申し上げたような内分泌疾患の場合には、その病気があることで、直接骨折リスクが上がるので、続発性といっていますが、生活習慣病の場合にはどちらかというと環境を悪くすることで、おおむね3割以上、骨折のリスクが上がるために、関連骨折リスクという言い方をしています。ですから合併症としては捉えていないのが現状だと思います。
 齊藤 そういった患者さんでも、骨粗鬆症のことを念頭に置いてみていくということでしょうか。
 鈴木 よく、「では具体的にどうしましょう」という相談を受けるのですが、私が臨床的に行っているのは、糖尿病の患者さんで、ある程度合併症がある、あるいは腎臓の機能が落ちている方については、通常の骨粗鬆症よりも5歳早く診断しましょう。そして、骨密度に関しても5%ぐらい厳しくみたらどうでしょう、というお話をしています。
 齊藤 そういうことを考えながら治療していくということですね。
 鈴木 はい。
 齊藤 ありがとうございました。