ドクターサロン

 池田 粘膜疹の局所療法についての質問の前に整理しておきたいことがあります。例えば口腔粘膜の治療でまずよく使われるのが含嗽薬ですね。いわゆるうがい薬が、市販薬も含めて何種類も出ています。これはどのように使い分けをされているのでしょうか。
 野村 うがい薬に関しては、いろいろな薬品や製品が販売されていると思いますが、一般的に私たち歯科医師は大きく殺菌性のうがい薬と抗炎症作用のうがい薬に分けて考えています。例えば市販で売られているリステリンやモンダミン、あるいはポビドンヨードや塩化ベンザルコニウムといった一般的なうがい薬は、殺菌性と呼ばれているもので、いわゆるウイルスや細菌を殺菌する目的で使っているうがい薬です。もう一つがアズレンスルホン酸という抗炎症作用を期待して使われるうがい薬です。
 池田 逆にいうと、例えば口内炎のようなステロイドを使うようなものは、あまり殺菌する必要はないということなのでしょうか。
 野村 そうですね。いわゆる口腔内に粘膜疹のような症状を起こしている場合は、急性症状のために、強い接触痛を伴うことが多いので殺菌性のうがい薬を使うとかえって刺激で痛みが出ます。やはりそのときは抗炎症作用を期待して、アズレンスルホン酸を処方されたほうがいいと思います。
 池田 そういう意味では、慢性の粘膜疾患でもアズレン系を使用することがあるのですね。
 野村 はい。
 池田 もう一つ、口内炎で使用する軟膏がありますね。
 野村 はい。
 池田 ザラザラしたり、ベタベタしたり、サラッとしていたり、いろいろなものがありますが、どういう使い分けをするのでしょうか。
 野村 そうですね。いわゆるアフタ性口内炎に使われる軟膏は幾つか販売されており、トリアムシノロンとデキサメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンがありますが、一般的にはトリアムシノロンを使うことが多いと思います。これは、軟膏や貼付薬、最近では付着フィルム型のものがあって、いわゆる患者さんがザラザラしてちょっと使いづらいとおっしゃっているのはトリアムシノロン軟膏のことだと思います。ただ、それ以外の軟膏も多く販売されていますので、患者さんの使用感によって使い分けるのがよいと考えています。
 池田 私もトリアムシノロンを処方したとき、患者さんが「なんかざらついて気持ち悪いんだよね」とおっしゃっていたので、じゃあほかに変えましょうかと言ったのですが、ザラザラすることによってどういう効果があるのでしょうか。
 野村 トリアムシノロンの軟膏は、局所の停滞性を良くするために工夫されていて、なるべく停滞性を良くするためにあのような使用感になっています。口腔内はとにかく唾液で湿潤されているので、よく唾液を乾かしてから局所に塗布するのですが、患者さんによっては、使用感が良くないとおっしゃる方がいるのは事実です。
 池田 なるほど。では、そこに留まるようにするために、患者さんはそう感じているわけですね。場合によっては、それでもそこに留まって効いてくれそうだからちょっと頑張ってという話になるのですね。それから、口腔内に貼り付けるタイプがありますね。
 野村 トリアムシノロンの外用薬があり、それもよく使われます。
 池田 あれもタブレット錠で厚みがありますよね。
 野村 そうですね。それも剝がれやすいとか、違和感があるとかおっしゃる患者さんもいますので、人によって使い分けるのが現状かと思います。
 池田 患者さんによっては、これは飲み込んでも大丈夫なのかとか、いろいろなことをおっしゃるのですが、基本的には、自然に溶けている以外に誤って飲んでも特に問題はないということでしょうか。
 野村 基本的には心配ないかと思います。
 池田 フィルムタイプもあるのですか。
 野村 これは最近よく薬局などで、口内炎の製品として販売されているようで、薄いフィルム型で使用感を良くしているのではと思います。
 池田 イメージとしてはフィルムの台紙を取って、ペタッと貼るような感じでしょうか。
 野村 そうですね。薄いセロハンのようなイメージかと思います。
 池田 それはあとで溶けるのでしょうか。
 野村 はい、そのとおりです。
 池田 しばらく張り付いていると自然に溶けてなくなっていくのですか。
 野村 そうですね。
 池田 ところで、最近口の中に塗ると表面がコートされる保護材のようなものがあると聞いていますがいかがですか。
 野村 最近歯科の領域ではよく使われるものなのですが、抗がん剤を服用している患者さんに起こる粘膜炎に対して創傷被覆材と呼ばれているものがあります。口腔粘膜の傷の上に塗りますと唾液と反応してコーティングされて固まるのです。潰瘍面がコーティングされるので刺激による痛みが軽減し、抗がん剤による粘膜炎に対して保険適用になっています。また、現在口の中に起こる様々な傷に対して表面をコーティングする、いわゆる液体包帯と呼ばれるものが開発されています。今後はそのような薬理作用をもたない保護材も治療の選択肢に入るのではないかと思っています。
 池田 やはり潰瘍面が露出していると、いろいろな原因で刺激を受けて痛みが出ますよね。そこにそれを塗ると唾液と一緒に固まるのですね。
 野村 そうです。
 池田 それは、何日かすると剝がれてくるのでしょうか。
 野村 これは自然に水で溶けてしまいます。数時間ずっと粘膜の上にコーティングされた状態なので、傷が治るまで使用を続けます。適応としては、矯正歯科でよく使うワイヤーやブラケットで生じる傷や、褥瘡と言いまして、入れ歯の傷などに対して一時的に痛みを取る目的で商品開発されています。
 池田 そういった異物と擦れて粘膜に障害が起こった時に使うわけですね。
 野村 はい。
 池田 コーティングしておいて、その間に粘膜障害を起こす原因を治療していくのですか。
 野村 そうです。口腔用の液体包帯は、新しい治療の選択肢になると思います。原因のわからない様々な口内炎に対しても使えると思います。
 池田 なるほど。では逆に言うと、原因を問わず使えるのですね。
 野村 はい、そうです。
 池田 質問の内容に戻りますが、アフタ性口内炎、手足口病の粘膜疹の局所療法についてですが、この2つは全く原因が違いますよね。
 野村 そうですね。
 池田 まず、アフタ性口内炎というのは、どのように診断されるのでしょうか。
 野村 アフタ性口内炎は完全に臨床診断になりますので、視診が重要になります。アフタの定義は、類円形の浅い潰瘍であるということ。それから表面が白い偽膜で覆われていて周囲が発赤している。これを紅暈と呼びますが、これらの所見を総合してアフタと呼んでいます。原因は様々で、外傷や心理的なストレス、栄養不足、あるいはビタミン不足などによるといわれています。アフタと診断しますと、先ほど話にありましたようにステロイドの外用薬が治療の基本になります。
 池田 一方、手足口病のようなウイルス性疾患の治療はいかがでしょうか。
 野村 アフタ性口内炎が口腔内で一番頻度が高いのですが、子どもに多い手足口病のような水疱性疾患が口の中にできて破れたときはアフタとの鑑別が難しいです。ご承知のように、手足口病はコクサッキーウイルスが原因で、これに対する抗ウイルス薬はないので、基本的に口腔に対しては対症療法になると思います。その時にアフタ性口内炎と間違えてステロイド外用薬を塗布するとかえって症状が悪化するので、手足口病に対する口腔の粘膜疹に対しては、違う治療戦略が必要になるかと思います。
 池田 たぶんお子さんの口の中でアフタがたくさんできるとまず痛がりますよね。
 野村 そうですね。
 池田 痛くて食べられないということもありますが、どのように対処されるのでしょうか。
 野村 基本的には手足口病は、5歳以下の小児に発症するといわれ、季節性があって、だいたい5~6月ぐらいに多いといわれています。そのあたりの情報と手足と口腔に症状が出れば、診断は容易かと思います。ただ、今おっしゃいましたように接触痛が強いと食事が取れず脱水にもなりますので、痛みを取ることが治療の主眼になると思います。
 池田 何か特殊なレジュメがあるのでしょうか。
 野村 そうですね。なかなか難しいのですが、まずは消炎鎮痛薬を処方することになると思います。また、痛みが強い時には、表面麻酔薬、例えばリドカインゼリーやペースト状のリドカインを局所に塗布して一時的に痛みを取るという治療法が考えられます。また、先ほどの消炎効果のあるアズレンにリドカインを混ぜて精製水で希釈する表面麻酔入りのうがい薬を調合して、食事前にうがいしてもらうのも有効だと思います。我々はこれをツンゲンワッサーと呼んでいます。
 池田 一定期間痛みを取って食事ができるようにするわけですね。
 野村 手足口病などのウイルス性口内炎は、だいたい1週間ぐらいで治癒するといわれているので、その間の痛みを取って栄養をしっかりとっていただくことが大切かと思います。
 池田 1週間経って病勢が落ち着くまでが肝心ということですね。
 野村 はい。そのとおりです。あと、最初にお話しした口腔用の液体包帯が今後使えるのではと期待しています。
 池田 どうもありがとうございました。