ドクターサロン

 池脇 ほとんどの先生方はポルフィリン症を診た経験はないのではないかと思います。今回はご専門の堀江先生に来ていただきましたのでポルフィリン症を疑うときについてお話しいただき、一人でも多くのポルフィリン症を診断・治療へと結び付けたいと思っていますので、よろしくお願いします。 幾つか具体的な質問をいただいていますが、まずはポルフィリン症に関して基本的なところから教えてください。
 堀江 ポルフィリン症というのは、胃や肝臓、あるいは消化器の病気ということとは離れまして、非常に多くの臓器にまたがる遺伝性の代謝疾患であることが特徴です。ヘモグロビン、チトクロム、カタラーゼ、ミオグロビンなど人間のからだには呼吸酵素がいろいろあるのですが、8つある代謝酵素に対応して病気が存在するということが基本です(表1)。ポルフィリン症は肝性のポルフィリン症と骨髄性のポルフィリン症に大きく分かれますが、この2つのポルフィリン症は非常に病像が異なっていまして、なかなか理解しにくい病気だと思います。肝性のポルフィリン症というのは腹痛、背中の痛みや便秘など消化器症状が主に起こってきて、痛みを繰り返して救急病院受診を繰り返しますが、これはお腹の病気じゃないなどと言われて、精神科に行ってみたり、婦人科に行ってみたりと診断が難しいのです。もう一つは、骨髄性のポルフィリン症という日光過敏症があって、海水浴も山にも行けない、そういう患者さんが小学生、中学生頃から出てきます。日光過敏症が酷くなりますと肝機能異常をきたし肝臓にポルフィリン症が溜まり、急性の肝臓病を起こして亡くなるということがあります。この2つが非常に理解を妨げていて、なかなかとっつきにくい疾患ではないかと思います。
 池脇 確かに腹痛といったら非常に一般的な訴えですし、日光過敏症も比較的よくみられて、非特異的な症状からポルフィリン症に持っていくというのは難しそうな気がします。
 堀江 そうですね。
 池脇 肝性と骨髄性のほかにも急性と皮膚型という分け方があるのですか(表2)。
 堀江 はい。さっき話したのは、大きく臓器的には肝臓と骨髄だというのと、もう一つは、肝性ポルフィリン症でも異型ポルフィリン症や遺伝性コプロポルフィリン症など日光過敏症を一緒に伴っている病気もあるので、それは大きく肝性ポルフィリン症に入ります。それから今、日本で一番多い骨髄性のプロトポルフィリン症と、全く急性症状がなくて遺伝性がない晩発性皮膚ポルフィリン症、中年の男性に起こってくるアルコールやC型肝炎が合併するような病気もあるので、そういう分類の仕方が理解をしやすいように思います。
 池脇 晩発性皮膚ポルフィリン症は、遺伝性がないとのことですが、私がみた範囲では、ポルフィリン症というのは、常染色体優性だったり、劣性だったり基本的には遺伝性疾患で誰か一人見つけると、それがきっかけで家系内で見つかる、診断に関しては優位な点もありますが、そうではないのもあるのですね。遺伝だけではなくてプラスアルファで発症するかどうかという要因もあるのでしょうか。
 堀江 そうですね。ですが、単発のポルフィリン症というのもありますし、特に骨髄性の場合は、まだ診断の範疇がはっきりしない骨髄性プロトポルフィリン症というのが外来では多く、日本では7~8割は骨髄性プロトポルフィリン症です。それから晩発性皮膚(表2)ポルフィリン症は7~8割がC型肝炎を合併していますが、ご存じのようにC型肝炎はいい治療法ができたので最近は減少し、外来で診ることは少ないですね。ですから、そういう病気の変遷というのもありますね。
 池脇 質問に行く前に、確認ですが、ポルフィリン症には9種類あるといっても、全部頭に入れるのはたいへんだと思います。骨髄性プロトポルフィリン症と、急性の間欠性ポルフィリン症がいわゆる代表的なポルフィリン症なのですか。
 堀江 はい、それが代表です。
 池脇 ポルフィリン症の頻度はどのくらいなのでしょうか。
 堀江 私は肝臓学会にこの演題を出したことがありますが、日本ではキャリアも含めると骨髄性と肝性ポルフィリン症を合わせておよそ数千人であると考えています。10万人にだいたい1家系から数家系といわれますが、日本でだいたい数千人から1万人前後だと思います。ただ、症状を発症しない無症候性は、まだ隠れていると思います。私は東京の芝浦スリーワンクリニックで毎月1回(第4金曜日)外来診察していますが、どんどん来られますね。
 池脇 いわゆる難病指定されている方の数字に比べると、今先生がおっしゃった数千人というのは圧倒的に多いですね。ですから、隠れている診断されていないポルフィリン症がけっこう多いということなのですね。一般の医師がポルフィリン症を疑うべき、自覚症状、他覚症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
 堀江 救急外来などで何回も繰り返す腹痛、特に若年の20~30代の女性で、これは病的興奮じゃないか、精神科の病気じゃないかと疑うような痛みの人が繰り返して受診されます。家族歴が非常に大事で、よく聞いてみると「私のお母さんも」とかいわれます。それから急性の肝性ポルフィリン症というのは、女性ホルモンと非常に関係するといわれていて、50歳を過ぎるとほとんど症状がなくなってしまいます。ですから、母親や祖母が若いときに同じような症状を持っていれば、ポルフィリン症を疑うことになります。50代を過ぎて生理が終わってからはほとんど症状から消えてしまうという、そういう病気ですね。
 池脇 腹痛をきっかけにした疑い方のほかに、もう一つの日光過敏症はどのように疑うのですか。
 堀江 日光過敏症の場合は、小学生ぐらいから発症します。日光過敏症は、正常値が非常に幅広くて、普通の正常値はだいたい100以下ぐらいですが、200とか300、あるいは3,000とか4,000、5,000など、初めて疑った初診時でも、そのぐらい幅が広いのです。ですから日光過敏症で海や山に行くときや学校の体育についていけない、そういう患者さんは、ポルフィリン症を疑って検査することが大事だと思います。
 池脇 そうすると腹痛にしても日光過敏症にしても比較的若く、最初にみるのは小児科医が多いですね。
 堀江 そうですね。 診断について一つ大事なことは、肝性ポルフィリン症は、尿検査で、だいたい診断がつきます。骨髄性のプロトポルフィリン症の場合は尿に溶けず、便か赤血球でしか測れませんので、肝性と骨髄性では測定する対象が違います。肝性ポルフィリン症は尿を、骨髄性プロトポルフィリン症は赤血球を測ると十分です。それがダブっている症例はほとんどありませんので、そのように分けて診断をすれば非常に簡単だと思います。
 池脇 2番目の質問にも関連して具体的には赤血球と尿に蓄積しているポルフィリンは、いろいろな種類があって、それを測定するということですね。
 堀江 はい。非常に残念なことに、コマーシャル・ベースでは、ポルフィリン症の尿や便や赤血球を測定する機関がどんどんなくなっています。なぜかというと、そういう患者さんの頻度が少ないものですから採算がとれないということで、どんどん打ち切られています。実際コロナ禍で、ポルフィリノーゲンやデルタアミノレブリン酸という一番大事な部分の測定が検査会社では測定不可能であるという時代になっています。非常に憂うる事態で、ポルフィリン症を疑って検査に出す人がいないと、だんだん淘汰されて検査ができなくなります。実際に便ではなかなか測りにくいという時代です。
 池脇 検査しないことには、なかなか確定までいかないですよね。
 堀江 今は尿を検査室に持っていくので医師が見る機会がないのです。私は研修医のときに畜尿してある黒褐色の尿を見てポルフィリン症を疑って、第一例を見つけたのですが、今は畜尿もほとんど看護師さんなどで検査をまとめていて、医師がそれを疑う機会が失われています。検査は非常に進歩しましたが、そういう抜け穴といいますか、隘路があると思います。
 池脇 尿に関して具体的な質問なのですが、これは肉眼で色調がおかしいとわかるのか、あるいは紫外線のランプを当てることよってわかるのか、どちらなのでしょうか。
 堀江 先天性のポルフィリン症という尿がたくさん出るのは紫外線やLEDランプですぐわかりますが、普通は肝臓のビリルビン尿と似たような濃い尿ですから有機溶媒で抽出して紫外線を当てないとわかりません。ですから、このポルフィリン症の尿は前駆体のポルフィリノーゲンやデルタアミノレブリン酸を置いておくと酸化されてポルフィリン体に変わり色が出てきます。尿を採って1~2時間くらい冷蔵庫に置いておくと色が濃くなってくるという特徴があります。ですから出たばかりの尿は無色透明の尿が出ることもあるので、畜尿をして置いておいた尿を見るというのが大事です。
 池脇 最後にちょっとこれはおかしいなと思って、でもご自身で診断は難しく、堀江先生のような専門医に紹介をする場合、東京の芝浦スリーワンクリニックと島根県済生会江津総合病院にいらっしゃるので、東京、島根はカバーできるのですが、全国はどうやってカバーするのでしょう。
 堀江 済生会病院は、全国に病院があり、東京、大阪、広島、新潟など全国の何カ所かで数年間研究費をもらって、平成25年頃からポルフィリン症を診られる医師の育成を図ってきました。それともう一つは、患者さんのポルフィリン症「友の会」というのがあり、それを調べていただくと、皮膚も肝臓も診ていただける医師のリストアップがあるので、友の会というのを活用していただくと診断が早くつくのではないかと思っています。
 池脇 潜在しているポルフィリン症の患者さんが一人でも多く診断されるといいですね。
 堀江 そうですね。今日のお話が少しでもお役に立つといいと思います。
 池脇 ありがとうございました。
文献
堀江裕、近藤雅雄:日本臨床:ポルフィリン代謝異常・骨髄性ポルフィリン症:461-465:2015(3)