「喫煙」というのはtobacco「葉タバコ」から作ったcombustible tobacco products「燃焼式タバコ」を燃焼させ、そこから生まれるsmoke「煙」を吸い込む行為のことで、英語ではsmokingと呼ばれます。
ですから患者さんに「タバコを吸いますか?」と英語で尋ねる場合には、“Do you smoke?”という表現を使います。日本語で一般的に使われている「タバコ」という表現は「葉タバコ」tobaccoから作られた「紙巻きタバコ」のことであり、英語ではcigaretteと言います。ですから「1日に何本のタバコを吸いますか?」は“How many cigarettes do you smoke a day?”のようにtobaccoではなくcigarettesを使って表現します。
英語にはblow smokeという表現があり、これは一見すると「煙を吹きかける=喫煙する」という意味になるように感じますが、それは違います。これは「煙に巻く・大口を叩く」という意味の慣用表現なのです。このように英語のsmokeには「人を惑わせるもの」というイメージもあるので、smoke and mirrorsという英語表現には「人を欺くもの=巧妙に仕組まれた罠」という意味があります。
海外では“I’m going to smoke up.”のような表現を耳にすることもあるかもしれませんが、これはタバコの喫煙ではなく、“I’m going to smoke marijuana/cannabis.”という意味になるので注意してください。またbody gestureもsmoking tobaccoとsmoking marijuanaでは異なります。人差し指と中指をくっつけて口に当てるbody gestureはsmoking a cigarette=smoking tobaccoを意味します。marijuanaを紙で包んでcigarette状にしたものを英語でjointと呼びますが、OKサインを作るように人差し指と親指をくっつけて口に当てる body gestureは、このjointを口に当てる動作になるのでsmoking ajoint=smoking marijuanaを意味します。この人差し指と親指をくっつけて口に当てるbody gestureも「タバコの喫煙」を意味していると誤解している日本人が多いので注意してくださいね。
そしてcombustible tobacco productsにはcigarette以外にもcigar「葉巻」や、葉巻ほど温度や湿度の管理が不要なcigarilloと呼ばれる「細い葉巻」、そして刻みたばこを入れて喫煙するpipe「パイプ」などがあります。そしてこれらcombustible tobacco productsの代表であるcigaretteは、combustible cigaretteやclassic cigarette、そして後述する「電子タバコ」との比較からanalog cigaretteなどと呼ばれています。
気温が高い中東では清涼感が高い「水タバコ」が普及していますが、その際に使われる特殊に加工されたタバコをshisha「シーシャ」と言い、その喫煙に使用される特殊な水キセルのことをhookah「フーカ」と呼びます。この「水タバコ」は英語ではwater pipeと呼ばれますが、状況によってはwater pipeという英語はmarijuanaの吸引に使用されるbongという器具の意味にもなるので気をつけましょう。
葉タバコを使った製品には、上記のようなsmokeを伴わないsmokeless tobacco productsも存在します。最近では少なくなりましたが、「噛みタバコ」chewing tobaccoや「嗅ぎタバコ」 snuffがこれに相当します。
こういった葉タバコの成分を燃焼させずに「加熱」して使用する「加熱式タバコ」を英語ではheat-not-burn(HNB) tobacco productsもしくはheated tobacco productsと呼びます。この代表的な商品が米国製のIQOSやglo、そして日本製のPloomなどです。読者の方の中にもこれらのHNB tobacco productsのことを「電子タバコ」と誤解されている方もいらっしゃると思いますが、これらはtobaccoの成分を加熱してその蒸気を吸うという製品であり、「電子タバコ」には該当しませんので注意してください。
最近普及が進んできた「電子タバコ」は、英語ではelectronic cigaretteやこれを省略したe-cigaretteやe-cigと呼ばれています。そしてこのe-cigaretteはtobaccoの成分を一切含みませんので、厳密にはcigaretteと呼ぶべきではないのかもしれません。
これらe-cigaretteでは、e-liquidと呼ばれる香料やニコチンを含んだ液体をatomizerという部品でvaporに変換して吸い込みます。このatomizeという動詞は「これ以上切れないくらい細かくする」という意味で、「原子化する」や「液体を霧状にする」というイメージで使われます。そしてこのe-liquidはe-juiceとも呼ばれ、フルーツやスイーツ系の様々なフレーバーがあり、海外ではこのe-liquidにニコチンを含んだelectronic nicotine delivery systems(ENDS)の販売が許可されています。しかし日本ではニコチンを含まないelectronic non-nicotine delivery systems(ENNDS)のみが販売を許可されています。
このe-cigaretteは燃焼によるsmokeを発生させるわけではないので、その使用はsmokingとは表現されず、vapor「蒸気」を吸い込むことからvapingと表現され、一般的にはこのvapingという表現がそのままe-cigaretteの意味としても使われています。ですから「電子タバコを使用していますか?」と尋ねたい場合には、“Do you vape?”という表現を使います。またvaporを使用する際に生じる「モクモクした蒸気」はcloudsと呼ばれます。これもsmokeとは異なりますので注意してください。
米国ではニコチンの濃度が高いJUUL(「ジュール」のように発音)というvapingの製品が若者を中心に人気となり、動詞としてjuulingという表現が普及しました。従来のcombustible cigaretteに比較して健康被害が少ないと言われていたこのvapingですが、E-cigarette or Vaping Product Use-Associated Lung Injury(EVALI)(「イヴァリ」のように発音)などが報告され、また長期での健康への影響が懸念されています。そのため米国では現在JUULの販売は禁止されています。
いずれにしてもnicotineを含む製品の使用で重要になるのがwithdrawal「離脱症状」です。そこではintense cravings for nicotineなどの様々な症状が現れます。このcravingとは「強く欲する」という意味で、妊婦さんが妊娠初期に特定の食べ物を強く欲することはfood cravingsと呼ばれます。この反対の「強く拒絶する」を意味するaversionsという表現と同時に覚えておくといいでしょう。
このようなwithdrawalがあるために、“Quitting smoking cold turkey is not a practical option.”と言えます。このcold turkeyとは「(タバコや麻薬など)中毒症状のある悪い習慣をきっぱりとやめる」と言う際によく使われる表現です。その由来には諸説ありますが、一般的には「麻薬などの離脱症状でgoose bumps「鳥肌」が出るから」と考えられているようです。
したがってwithdrawalの対策としてsmoking cessation outpatient services「禁煙外来」はとても重要な役割を持ちます。このcessationはcease「やめる」の動詞で、cease-fire agreement「停戦協定」のようにも使われます。
このように「喫煙」には様々な英語表現が使われます。もし英語で社会歴を尋ねる場面があれば、今回ご紹介した英語表現に注意してみてください。