齊藤
電解質異常と内分泌疾患についてうかがいます。これは非常に幅広いのですが、数が多いのはナトリウム関係ですか。
石川
低ナトリウム血症は病棟でも外来でもよく遭遇すると思います。
齊藤
どのような疾患が多いですか。
石川
皆さん、低ナトリウム血症というとSIADHの診断に飛びついてしまうかもしれませんが、実際にはほかの低ナトリウム血症の原因、例えば脱水や副腎不全や甲状腺機能低下などを除外した末にSIADHといえそうだというのが見えてきます。その際に、副腎不全を見逃すととても怖いです。
齊藤
副腎不全の診断法はどうなりますか。
石川
厳密には、ACTH負荷試験などが必要かもしれませんが、ACTHとコルチゾールをペアで測るとか、あるいはそこまでする余裕がなければ、低ナトリウム血症だとわかって、血清が余っていたら、その余っている保存血清からコルチゾールを測定するだけでも、かなり見当がつきます。
齊藤
ACTHは特殊な採血になりますか。
石川
これは血漿で測定するので、採血してすぐに遠心して凍結しないと壊れてしまいます。
齊藤
保存血清があればコルチゾールを測ることで診断に迫るということですね。
石川
そうです。
齊藤
副腎機能不全になる原因は何がありますか。
石川
もちろん古典的にはアジソン病などですが、最近現場で増えているのは、一つは経口であれ、全身的な塗布であれ、副腎皮質ステロイドを長期にわたって使われていた人が内因性の副腎皮質ホルモンを分泌するACTH・コルチゾール系が抑制されてしまっていて、結局その系が萎縮してしまい、外から投与されたステロイドを外されたときに起こるステロイド離脱症候群です。もう一つは、最近悪性腫瘍の治療で使われる免疫チェックポイント阻害薬、特にPD-1、PDL-1の阻害薬がなぜかACTH単独欠損症を起こすというのがわりと広く認知されてきています。もちろん下垂体全体に炎症を起こすとか、副腎皮質に直接炎症を起こすパターンもありますが、ACTH単独欠損症が免疫チェックポイント阻害薬で起こることがあります。
齊藤
ステロイド離脱症候群が起こりうるのは、例えば喘息や膠原病などの治療中ということになりますか。
石川
はい。
齊藤
それから皮膚科で多いですね。
石川
皮膚科で塗られるステロイドや、呼吸器内科で処方される吸入ステロイドなど、非経口ステロイド剤であっても、量が多く長期に投与されると全身に入り込んで内因性の副腎皮質ホルモンの分泌を抑え込んでしまうことがあります。
齊藤
免疫チェックポイント阻害薬は今、かなり幅広く使われるようになってきているのですね。
石川
はい。ただ、それに伴って腫瘍内科でもこの薬による副腎不全については最近よくわかっている方も多いので、低ナトリウム血症を見たときにコルチゾールやACTHを測っていることもあります。
齊藤
腫瘍内科の医師もこの辺の内分泌的なところをあらかじめ押さえて経過観察していくことが本当は期待されるのですね。
石川
そうですね。実際、そうされている方がけっこうおられると思います。
齊藤
次にナトリウムが高い場合はどうでしょう。
石川
ナトリウムが高いというと、国家試験とかで思い浮かべるのは尿崩症や原発性アルドステロン症かもしれませんが、実はこれらを持っているだけでは露骨な高ナトリウム血症にはあまりならないのです。なぜかというと、ナトリウムが上がってしまって浸透圧がある程度上がると、人間は口渇を感じて水を飲んで血清ナトリウムは薄まってしまうからです。原発性アルドステロン症や尿崩症があると、確かにナトリウムは高めにはなるかもしれないけれども、水をきちんと飲めているかぎり露骨な高ナトリウム血症にはなりません。そうなってしまうのは水が飲めなくなってしまったときです。これは基に原発性アルドステロン症や尿崩症がなくても、意識がない、水道まで行く元気がない、そういう方で起こりえます。
齊藤
高ナトリウム血症は、一種の糖尿病状態でも起こりますか。
石川
高浸透圧性の糖尿病の昏睡ですね。あれも高ナトリウム血症になり、もちろん糖尿病に基づく場合にはインスリンの作用不足もあるのですが、やはり基本に脱水があります。
齊藤
それから、カリウムはどうでしょうか。まず低カリウム血症ですか。
石川
低カリウム血症というと、これも国家試験的には原発性アルドステロン症を連想されるかもしれません。ただ、最近は一般の医師も原発性アルドステロン症は必ずしも低カリウム血症を伴うとは限らないとわかってきています。原発性アルドステロン症を疑ったらレニン・アルドステロンを測ることが周知されてきています。
齊藤
高カリウム血症はどうでしょう。
石川
もちろんいろいろ原因はありますが、我々が見逃してはいけないのは医原性の高カリウム血症です。最近、心不全や高血圧の治療で、ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬といったレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系のブロッカーが汎用されていますが、患者さんの腎機能が少し悪いのにカリウムを測定していないと、気がついたときにけっこうな高カリウム血症になっていて焦ることがあります。
齊藤
心不全の患者さんが増えていて、そういった薬を使うことがガイドラインでも勧められていますから、セットで使いますね。そこに高齢あるいはCKDが加わっていると、高カリウム血症になりがちですね。
石川
そうですね。
齊藤
今度は高カルシウム血症はどうでしょうか。
石川
まずカルシウムは測定するときに必ずアルブミンを一緒に測定していただきたいです。アルブミン補正して高カルシウム血症が判明したら、原発性副甲状腺機能亢進症と、がんに伴う高カルシウム血症が真っ先に頭に浮かぶことになります。
齊藤
PTHの測定になりますか。
石川
はい。原発性副甲状腺機能亢進症の場合には、高カルシウム血症があってPTHが高い、あるいは本来だったら抑制されていなければいけないのに、適切に抑制されていないという所見が重要ですが、内分泌内科医はそれに加えて尿中のカルシウム排泄量を見るために、スポット尿でもよいので、クレアチニンとカルシウムを必ず調べます。もしも低カルシウム尿症があることが明らかになると、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症といって、原発性副甲状腺機能亢進症とは違って手術の対象などにならないような体質があることになります。もしもそれを原発性副甲状腺機能亢進症と間違えてしまうと後々面倒なことになりうるので、必ず低カルシウム尿症がないというのを一緒に見ます。
齊藤
尿中のカルシウム/クレアチニン比をしっかり見ていくということですね。
石川
そうですね。
齊藤
薬剤性のものもありますか。
石川
薬剤性というとやはり問題になるのが活性型ビタミンD製剤の副作用です。長いことカルシウムを測定されていなくて、気がついたらこの薬のために高カルシウム血症になってしまっていたという、医原性のものはいまだにあります。
齊藤
骨粗鬆症の患者さんの数も増えていますから、幅広くこういう薬が使われているということですね。
石川
そうですね。もちろん注意して測ってくださる方もおられますが、時々、整形外科医などであまりカルシウムの血中濃度に関心を持ってなくて、何かの拍子に内科で測ったときに著明な高カルシウム血症が判明し、原因を調べると活性型ビタミンD製剤だとわかることがあります。
齊藤
低カルシウム血症はどうでしょうか。
石川
多いのは腎不全などに伴うものです。でも、これもアルブミン補正して、正常か否かを、まず調べていただきたいです。
齊藤
最後にマグネシウムはどうでしょうか。
石川
マグネシウムは上がるほうに関してけっこう問題になると思います。下がるほうはもちろん利尿薬などが原因となります。上がるほうは、先ほど申し上げたレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系をブロックする薬も原因になりますが、もっと困ることがあります。やはりこれも医原性なのですが、酸化マグネシウムを便秘に対して投与されているときに、腎機能が少し悪かったりすると血中にたまってしまいます。これはマグネシウムを測定しないとわからないので、気がついたときに重度の高マグネシウム血症になっていて焦ることがあります。
齊藤
そういう場合にはマグネシウムを時々測るということでしょうか。
石川
そうですね。測ったほうがいいですね。
齊藤
ありがとうございました。