池脇
質問の冒頭に70~80代高齢男性に尿失禁が多い印象があるとのことですが、高齢者の尿失禁は、女性で30%、男性で15%ということで、むしろ女性の方に多いという理解でよいでしょうか。
福原
池脇先生のおっしゃるとおり、女性の方が多いです。ただ、男性は尿失禁がないと思われていたのですが、調べると意外といるのが現状です。ただ、パーセンテージは先生がおっしゃったように女性の方が圧倒的に多いです。
池脇
医師が加齢で失禁することもあると思っているのか、あるいは、失禁をしている高齢の方が歳だからしょうがない、失禁があるからといって主治医に相談するのも恥ずかしいし、それだけのために泌尿器科を受診するのもどうかなと、なかなか医療機関に足が向かないのも事実なのでしょうか。
福原
そうですね。正直な話、加齢と病気を分けるのは、ちょっと難しくて、薬があれば病気として認識し、なければ歳のせいです、と言って帰ってもらうのは日常の外来ではよくあるパターンです。以前からある病気でも薬がない場合は、歳のせいです、治療法はないです、とお話ししているのが現状です。
池脇
尿失禁も程度があると思いますが、やはりある一定以上ですと日常生活に支障をきたすことになりかねませんね。
福原
そうですね。やはり尿漏れで困っていて、それが自分の尊厳というものに関わってきて悩んでいる方もいらっしゃいます。
池脇
まず、失禁の種類から教えてください。
福原
一番大きなものは、過活動膀胱という病気によるものです。これは年齢によって、膀胱の神経が損傷されてきて、自由に膀胱が伸び縮みできなくなってくる。症状症候群といって「トイレまで間に合わない」という尿意切迫感自体が病気の定義になっています。もう一つは腹圧性尿失禁といってお腹に力を加えることによって耐えられずに漏れてしまうものです。男性は前立腺がありますが、女性は前立腺がなく、尿道括約筋と呼ばれているものしか尿失禁を止める手立てがないため、女性に多いという現状です。ただ、男性の場合も前立腺がんで前立腺を取ってしまった場合は、腹圧性尿失禁が起こりやすくなります。
池脇
ほかにはどうでしょうか。
福原
最近は前立腺肥大症のいい薬が出てきたので、そんなに数はいないのですが、前立腺肥大症で溢流性尿失禁といって尿がパンパンに膀胱にたまって、少しずつちょろちょろ漏れてきてしまうような方が実際にいらっしゃいます。あとは尿漏れとは少し違うのですが、排尿後滴下といって排尿が終わった後にポタポタと垂れてしまうような感じで尿が漏れるかたちもあります。これはいわゆる尿失禁とは違うのですが、やっぱり尿がポタポタと漏れてしまって困っている方がいらっしゃいます。
池脇
直接的な膀胱の障害ではないけれども、例えば認知症がある方で、なかなかトイレまでたどり着けずに漏らしてしまうという失禁もあるのですね。
福原
おっしゃるとおりです。特に尿意切迫感で早くトイレまで行けない場合は、その間に漏れてしまうことはよくあります。
池脇
尿失禁を大きく分けると、蓄尿の障害と、尿を排泄する障害のどちらか、あるいは両方が重なって起こるという理解でよいでしょうか。
福原
そうですね。重なって起こる、まさにおっしゃるとおりです。ただ多いのは、過活動膀胱によるものと、あとは腹圧性尿失禁と呼ばれているものだと思います。
池脇
腹圧性尿失禁は女性に多いとおっしゃっていましたが、過活動膀胱による切迫性尿失禁というのは性差があるのでしょうか。
福原
過活動膀胱の切迫性尿失禁は、基本的に性差はないとされています。
池脇
尿失禁に種類があって、当然その対処も種類ごとに合わせるのだと思いますが、質問に骨盤底筋訓練というのが出てきました。これは基本的に女性向けのもので、行動療法といわれているようですが、効果や種類はどうなのでしょうか。
福原
質問された方は、実臨床で困っていて、いろいろな本を読まれて質問されてきた方だと思います。と言いますのは、男性の尿失禁の行動療法がどうなのか、実はガイドラインなどでも、ちょっと奥歯にものが挟まったようなことが書かれていて、クリアカットになっていないのが現状です。過活動膀胱のガイドラインには行動療法がまず推奨されています。ただ、実はその元になっている論文をみると全部女性のデータなのです。ですから、学会やガイドラインではこういう行動療法を推奨していますが、実臨床では、泌尿器科の医師はあまりお勧めしていないのが現状なので、こういった質問が挙がってくるのだと思います。
池脇
これは考え方ですが、骨盤底筋を訓練するということは、尿を排泄したくない時に筋肉が少し不全で出てしまうのをいわゆる筋肉を鍛えることによって、そこで止めるというイメージでしょうか。
福原
おっしゃるとおりです。
池脇
そうなると、確かに女性でそういったものが必要な方は多いような気がします。
福原
そうですね。女性ではよく効く方がいらっしゃいます。男性でも効く方はいらっしゃいますが、ただ泌尿器科の医師、あるいはα1ブロッカーなどを出されている一般の開業医で一番困るのは、尿が逆に出なくなることです。頻尿や尿失禁で患者さんが来られて、行動療法をしたり、薬を出したりして突然尿が出なくなったと、ちょっと不満をもらす患者さんをたぶん何回か経験しているので、ちょっと勧めづらくなっているのが現状です。
池脇
例えば、担当医がこの人に骨盤底筋訓練が合っているのではないかと思ったときに、そのパンフレットを見せて、指示するようなレベルなのか、あるいはきちんと訓練された方が実地でやり方を教えるようなものなのか、具体的にはどのようにして進められるのでしょうか。
福原
パンフレットを渡して看護師が説明している施設が多いと思います。
池脇
では比較的取り組みやすいのですね。
福原
はい。
池脇
その効果というのも、担当した看護師が評価していくという流れですか。
福原
はい。特に女性で良くなる方ももちろんたくさんいらっしゃいます。
池脇
薬でしたら副作用を念頭に置いて使わないといけませんが、行動療法は基本的には効果があるかないかで、副作用というのはそんなに気にしなくていいようなものですか。
福原
そうですね。副作用は少ないと思います。
池脇
骨盤底筋の訓練、リハビリというのは基本的には女性が対象のことが多くて、腹圧性と切迫性の尿失禁にもいいのですね。
福原
腹圧性と切迫性が混じっていることが多いので、基本的には腹圧性のほうがよく効きますが、尿失禁の方全般に効く印象があります。
池脇
そういった行動療法で、その方に合っているものを試してもまだ、というときに薬物を使うのでしょうか。
福原
はい。
池脇
薬物はどうやって使い分けているのでしょうか。
福原
β3刺激薬と抗コリン薬がありますが、抗コリン薬は喉が渇いたりする副作用がありますので、そういったことが嫌な方はβ3刺激薬を出したりしています。どちらが効くかは患者さんによって違うので、出して効かなければ薬を変えたり増量したり、投与前に明確に分けてはいないです。
池脇
抗コリン薬というのは、よりたくさん尿が膀胱にたまるようにする薬ですよね。
福原
そうですね。
池脇
治療を始めて、一定の期間で効果があるかどうかを判定されるのですね。
福原
はい。
池脇
最後に確認ですが、高齢者の場合、例えば利尿薬を飲んでいる方など、いろいろな薬や、アルコールや糖尿病があるかどうかなどの背景もやはり重要ですか。
福原
そうですね。ガイドラインでは問診が一番重要となっています。
池脇
どうもありがとうございました。