山内
佐藤先生、まず抗MDA5抗体が、まだ聞きなじみのないところもあるので、少し説明いただきたいのですが、基本的には皮膚筋炎の抗体と考えてよいでしょうか。
佐藤
はい。この抗体は当初は皮膚筋炎の患者さんの中で、特に筋症状に乏しい皮膚症状のみの、いわゆる無筋症性皮膚筋炎と呼ばれるサブタイプで、そのような患者さんの血清中に見出された抗体でした。その後、症例の集積が続いて、いわゆる古典的な皮膚筋炎、つまり筋症状と皮膚症状が両方出ているような皮膚筋炎にも陽性になることがわかりました。ただ、非常に興味深いことに、この抗体は皮膚筋炎以外の患者さん、あるいは健康な人では、ほとんど見出されていないことが一つの特徴です。ですから、この抗体が陽性であるということは、皮膚筋炎のサブタイプである無筋症性皮膚筋炎を含めた皮膚筋炎であることがかなり疑わしくなります。
山内
そのあたりに関して特異性が非常に高いと考えてよいのですね。
佐藤
そうなります。
山内
従来の抗Jo-1抗体との使い分けはいかがですか。
佐藤
抗Jo-1抗体は、いわゆる抗ARS抗体という抗体の一つになるのですが、この抗Jo-1抗体ももともとは皮膚筋炎・多発性筋炎に見出された抗体としてその診断などに使われていました。近年この抗ARS抗体、抗Jo-1抗体に関しては筋炎だけではなくて、間質性肺疾患のみの患者さんにも見出されることが明らかになっています。この抗ARS抗体と抗MDA5抗体、どちらも筋炎で見出されるもので、抗ARS抗体は皮膚筋炎だけではなく、いわゆる多発性筋炎でも見出されていますが、抗MDA5抗体は皮膚筋炎に特異的とされています。さらに、両抗体とも間質性肺疾患を併発している患者さんに多く見出されるということが一つの特徴で、特に抗MDA5抗体の方は急速に進行して治療抵抗性予後不良の間質性肺疾患を持つ患者さんに多く見出されることが明らかになっています。
山内
無筋症性皮膚筋炎はサブタイプということですが、私も前からこの皮膚筋炎の皮膚と筋肉は基本的にかなり違う組織だと思い、このどちらもがやられる、あるいは片方だけがやられることで少し不思議な感じがしていました。このあたり、抗体を含めて何か関連は見出されているのでしょうか。
佐藤
先生のおっしゃる通り、この皮膚筋炎・多発性筋炎は、筋肉あるいは皮膚に障害が出てきます。間質性肺疾患や関節炎という症状も出てきますが、どうしてこの皮膚あるいは筋だけが障害されるのかは、まだ解明まで至っていません。また、非常に興味深いことに、皮膚筋炎・多発性筋炎は、腎障害がほとんどないといわれています。この疾患に基づく腎障害は認めず、その理由もまだわかっていないというところです。
山内
関節に関してはリウマチと似ているのか、違うのか、いかがでしょうか。
佐藤
関節リウマチと同様に、手指の関節を含めた多くの関節が障害され、多関節痛、多関節炎をきたすことが多いとされているので、臨床的に区別をつけるのは難しいと思います。ただし、関節リウマチの関節炎は骨あるいは軟骨の破壊を伴うのが特徴ですが、この抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎の関節症状はそのような骨破壊を伴わない関節の炎症であるとされています。
山内
無筋症性皮膚筋炎という用語ですが、筋肉は障害されていないけれど、筋炎という言葉がついてしまう、このあたりは当面用語を拝借していると考えてよいのですね。
佐藤
そうですね。
山内
抗MDA5抗体は無筋症性皮膚筋炎を含めた皮膚筋炎に非常に特異的な抗体であるということで、逆にそれ以外の疾患との鑑別はあまり考えなくていいのですね。
佐藤
そうですね。
山内
次に、皮膚筋炎に関して少しお話をうかがいます。皮膚筋炎は教科書的には膠原病の代表的な疾患の一つなのに、そのわりには日常診療であまり見かけないような気がするのですが、何か見落としがあると考えてよいのでしょうか。
佐藤
それは大事なポイントだと思います。実際の臨床では皮膚筋炎といっても、先ほどお話にあったように筋症状のない患者さんもいますし、肺がきれいな患者さんもいますし、すべての方が筋肉、肺あるいは皮膚の症状をきたすわけではありませんので、一つの症状がすごく目立ってほかの症状が目立たないような場合は見逃されてしまうことが多いかもしれません。例えば、皮膚症状がそんなに目立たないような場合で筋症状もない、ただ空咳があって苦しいというような患者さんは、おそらく呼吸器内科医、開業医に咳が出るというような話をされてレントゲンを撮ることになっていくと思います。そのときに筋症状や皮膚症状が目立たなかったりすると、それらの症状が見落とされてしまうことがあって、そういう点でやはり実臨床の中ではすり抜けてしまうような症例があってもおかしくないと感じています。
山内
ヘリオトロープのような症状が出ると、さすがになんだろうという話になるかもしれませんし、関節のところだけが赤くなるのも独特の症状ですね。こういったものがあればわかりやすいのですが、当然ちょっと紛らわしい、軽い症状のものもあると考えてよいのですね。
佐藤
そうですね。なかなか私どもも診断に迷う患者さんがけっこういらっしゃるので、開業医の診察力を持ってしても、なかなか診断が難しい患者さんがいらっしゃるかと思います。
山内
間質性肺炎に高率に合併するようですので、タバコなどのはっきりとした要因がないケースで間質性肺炎がある患者さんに、こういった抗体をスクリーニング的に測ることに関してはいかがでしょうか。
佐藤
とてもよい考えだと思います。というのは、若い方など明らかな原因がなくて間質性肺疾患を併発している場合、膠原病の可能性がありますから、やはり間質性肺疾患があった場合に皮膚は大丈夫か、筋肉痛はないか、階段を上るときに辛くないか、そういうことを聞いていただき、それで、そういえば最近、階段を上るのが辛い、みたいなお話があったときは、ともに保険収載されていますので、抗ARS抗体あるいは抗MDA5抗体を測定していただくと、それが診断に結びつく可能性があると思います。
山内
症状でリウマチ様のものがあるということでしたら、この疾患でのリウマチ関連抗体の出現率はいかがでしょうか。
佐藤
やはり膠原病ですので、いろいろなリウマチ関連の抗体を併存することがあって、中には関節症状が主症状で当初は関節リウマチと診断されてしまうような患者さんもいます。関節リウマチを積極的に疑ったときは関節リウマチ関連の抗体も測ってみたほうがよいと思います。
山内
抗核抗体はいかがでしょうか。
佐藤
抗核抗体に関しては、抗ARS抗体も抗MDA5抗体もその対応抗原が細胞質に局在しています。そのため、この抗体陽性の患者さんが抗核抗体陽性になるとは限りませんので、抗核抗体を測っていただいて陰性であっても、症状があったときはぜひ抗MDA5抗体と抗ARS抗体あるいは筋炎に関連する抗体を測っていただくのがよいと思います。
山内
最後に予後と治療ですが、これは難病なのですね。
佐藤
はい。特に抗MDA5抗体陽性の間質性肺疾患は、非常に予後不良といわれていまして、早期診断、早期から強力な治療を行うことが重要といわれています。そういう面で今苦労しているのですが、これまで多くの研究がなされて、その臨床研究からは、早期からステロイドパルス療法を含む大量ステロイドに免疫抑制剤2剤(シクロホスファミドとカルシニューリン阻害薬)を併用するのが有効であると考えられています。ただし、それでもなかなか救命できないような患者さんがいて、そういう方にはほかの免疫抑制剤やJAK阻害薬あるいは血漿交換療法あるいはリツキシマブなど、そういう治療は保険適用外ですが試されています。
山内
ありがとうございました。