大西 高血圧に隠れた内分泌疾患として、どんなものがありますか。
柴田 高血圧に隠れた二次性の高血圧という点では、アルドステロンが関わる原発性アルドステロン症(以下、PA)、呼吸器疾患ともいえる睡眠時無呼吸症候群、コルチゾールが自律的に分泌されるクッシング、あるいはサブクリニカルクッシング症候群、それからカテコールアミンなどが過剰に分泌される褐色細胞腫、これらの疾患が代表的なものかと思います。
大西 PAについて詳しくうかがいたいのですが、高血圧全体のどれくらいの割合を占めるのでしょうか。
柴田 PAは一般の内科の外来ですと、おそらく高血圧患者全体の3~5%ぐらいかと思います。専門外来ではおそらく10~15%と少し多くなってくると思います。
大西 この病気を見つけるのはなかなかたいへんかと思いますが、どのようにされていますか。
柴田 おっしゃるとおりで、身体所見ではまず見つけられないと思います。ですので、できるだけ午前中のレニン・アルドステロンの2項目の血液検査を積極的に行うと、通常の本態性高血圧と思われるような方の中からでも比較的多く見つかってきます。
大西 高血圧の方は一度は測定しておいたほうがいいのでしょうか。
柴田 そうですね。多くの場合、降圧薬を内服されていると思いますので、薬剤の影響で検査をスキップされる場合が多いかもしれませんが、薬剤を内服されていても、PAの患者さんではスクリーニング検査で見つかりますので、一度も測ったことがない方はぜひ測っていただきたいと思います。
大西 副腎の腺腫や過形成が知られていますが、そのあたりについて教えていただけますか。
柴田 PAにはサブタイプが2つあります。1つは一般に片側性が多いとされているアルドステロン産生腺腫、小さな腺腫ですね。腫瘍の大きさが5㎜以下の場合は小さいので、CTに写らないこともあります。もう1つは両側の副腎からアルドステロンが多く分泌される両側性の副腎過形成、特発性アルドステロン症ともいわれているタイプで、こちらのサブタイプが最近多く見つかってきていると思います。
大西 カリウムが低いと疑えといわれるのですが、正常な場合も多いのでしょうか。
柴田 おっしゃるとおりです。先に申し上げた腺腫は高血圧も一般的に重症で、ほとんどの症例で低カリウム血症を認めます。一方、両側性のアルドステロン症は臨床的な表現型は非常に軽症で、カリウムもほとんどの方が正常のためレニン・アルドステロンを測らなければ本態性高血圧とみなしてしまうような臨床の病態だと思います。
大西 次に、PAの患者さんは心血管疾患が多いのでしょうか。
柴田 二次性の高血圧という点でも代表的ですが、臨床的に見つける意義としては、同じように血圧を下げても、アルドステロンが高いことで、脳卒中をはじめとして、心房細動、心肥大などの心血管合併症が非常に多いということが、日本人でもちょうど4年前に多施設研究で示されました。やはり一度検査して見つける意義は非常に大きいと思います。
大西 副腎のアルドステロン産生腺腫は片側性が多いのですね。その場合は手術すれば良くなるのでしょうか。
柴田 片側性の場合は正しい診断をして手術に持ち込めると、通常、術後はアルドステロンは正常になります。また、高血圧の治癒や改善する人も含めると、おそらく8~9割になります。しかし、降圧薬を完全に中止できる例は片側性の方の1/3ぐらいで、それまでの罹病期間が長かったり、すでに動脈硬化の合併症が起きている方はなかなか高血圧の治癒までは望めないですが、薬を1~2剤ぐらい減らすことができるので、手術できるメリットはかなり大きいと思います。
大西 両側の副腎過形成の場合は生涯薬物療法が必要なのでしょうか。
柴田 両側性の場合は手術の対象になりませんので、両側性の方や手術を希望されない方は、皆さん薬物治療になります。その場合は、対症療法として、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬をファーストチョイスで投与する薬物治療になると思います。
大西 MR拮抗薬について教えていただけますか。
柴田 もともとスピロノラクトン、エプレレノンといったステロイド構造を持ったMR拮抗薬が中心でした。近年、エサキセレノンや、最近はフィネレノンというステロイド構造を持たない非ステロイド型といわれているMR拮抗薬が上市されて、日本では現在、4種類のMR拮抗薬が使えます。これはおのおの添付文書の禁忌の情報の違いに基づいて使い分けていきます。
大西 その使い分けが難しい場合は専門医に紹介したほうがよいですか。
柴田 スピロノラクトンは50~60年の歴史がありますし、心不全に関してはかなりエビデンスがあります。一方でMR以外の受容体にも結合してしまうために、女性化乳房や月経異常などの内分泌的な副作用があります。それらの副作用が出なければ、薬価も安いですし、今でも非常に使いやすい薬ですが、用量を増やすとどうしても内分泌副作用が出てきます。その点では非ステロイド構造を持つ、最近出てきたエサキセレノン、フィネレノンの2剤はだいぶ改良されています。薬価はその分、少し高くなっていると思いますが、一生涯使っていただくことを考えると、持続可能な治療という点では最近の2剤は使いやすいと思います。
大西 それは素晴らしいですね。
柴田 ただし、フィネレノンは臨床試験では設定された用量では血圧があまり下がらず、収縮期血圧が2~3㎜Hgぐらいの降圧作用でした。そのため、保険適用に高血圧症は含まれず、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病となっています。したがって、PAの治療薬として使いたい場合は、糖尿病があったり、少し腎臓が悪くなっている場合は使えると思うのですが、まだそういう合併がない場合は、エサキセレノン、あるいはスピロノラクトン、フィネレノン、この3つの薬剤から選択します。
大西 睡眠時無呼吸症候群との関連では、血圧が高い場合が多いですか。
柴田 二次性の高血圧の中では頻度としてはおそらく睡眠時無呼吸が一番多いのではないかというレポートが最近増えています。この疾患自体は昔から認識されていますが、先ほど申し上げたPAの方との合併が多いというのが最近の話題になっています。理由はわかっていませんが、肥満体型の方に睡眠時無呼吸が多くて、PAも少し肥満傾向の方に最近多く見つかっています。おそらく睡眠時無呼吸症候群の方の中にPAの方がたくさん見つかるのではないかと考えられています。全く違う疾患ですが、2つの疾患を重複して持つ患者さんも多く見つかっています。
大西 驚きました。気をつけないといけないですね。
柴田 そういう点からも、レニン・アルドステロンと睡眠時無呼吸のスクリーニングを高血圧の方は一度は考えていただくべきだと思います。
大西 次に、クッシング、サブクリニカルクッシング、褐色細胞腫、パラガングリオーマ、この辺に関してお話しいただけますか。
柴田 クッシング、あるいはサブクリニカルクッシング症候群や褐色細胞腫の2つの疾患は、発見の契機として、人間ドックなどで行う画像検査により見つかる場合が一般的に多いと思います。副腎腫瘍の鑑別診断を調べる中でアルドステロン症と、コルチゾールやカテコールアミンなどの検査をして診断される場合が多いです。副腎で偶然見つかる副腎偶発腫瘍という言葉がよくいわれますが、日本の統計でも、世界の統計でも、原疾患の内訳を見ると、一番多いのはクッシング、サブクリニカルクッシング症候群で2番目に多いのが褐色細胞腫といわれています。ですので、症状があって見つかる場合もありますが、無症状で副腎に偶然腫瘍があって鑑別診断している中で見つかる疾患としては、クッシング、サブクリニカルクッシング症候群、あるいは褐色細胞腫、パラガングリオーマの2疾患の頻度が高いです。
大西 CTの画像診断で特徴的な点はありますか。
柴田 どちらもおそらくエコーよりCTで見つかる場合が多いと思うのですが、CTの所見はこの2疾患は非常に対照的で、クッシングやサブクリニカルクッシング症候群は副腎皮質由来の腫瘍のためにCT値が低く、肝臓とか脾臓より非常に低吸収像として写ります。一方、褐色細胞腫は非常に脂肪が少ない腫瘍で、あまり黒く写ることはなくて、画像ではしばしば中に液体がたまった囊胞の所見があったり、石灰化を認める場合が多いです。ただ、非常に早期に見つかった場合はあまりそういう画像の特徴がなくて、どちらかともなかなか見分けがつきにくい場合があるので、やはり副腎や後腹膜に腫瘤を見つけた場合、特に血圧が高かった場合などは、ぜひこの2疾患を念頭に置いて鑑別診断をする。専門医に紹介されてから調べる場合が多いかとは思いますが、念頭に置くべき頻度の高い疾患の2つだと思います。
大西 腎血管性高圧血やメタボリックシンドロームに関係した高血圧に関して教えていただけますか。
柴田 メタボリック症候群は、内臓脂肪の過剰を基盤として高血圧、脂質異常、肥満の軽度の異常の集積した病態です。その観点では、冒頭に申し上げたPAもそうですし、睡眠時無呼吸症候群も合併するかもしれません。それからクッシング、特にサブクリニカルクッシング症候群というのは分泌されるコルチゾールの絶対量は正常範囲で、コルチゾールが夜間も高値を示すのが異常なので、そういう意味ではメタボという表現型で見つかってくる例もあるかと思います。健康診断で初めて血圧が高いといわれたり、メタボという指摘があったときは、生活習慣の是正も重要ですが、原因を一度探ってみることが大切だと思います。
大西 ありがとうございました。
日常臨床にひそむ内分泌疾患と最近の話題(Ⅶ)
隠れた内分泌疾患② 高血圧に隠れた内分泌疾患
大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座教授
柴田 洋孝 先生
(聞き手大西 真先生)