ドクターサロン

山内

持続性知覚性姿勢誘発めまい、これは英語の頭文字を取ってPPPDと、お話の中では略称で出てくることがあるかと思います。まずこの疾患は最近注目されている疾患概念のようですが、いかがでしょうか。

五島

これは比較的新しい疾患概念で、4~5年前に国際平衡学会でもあるバラニー学会から診断基準(表・文献1)が発表されて、広く知られるようになったものです。

山内

いわゆるめまいを少し細分化して分類していくという、そういった過程にあると考えてよいのでしょうか。

五島

そうですね。この病態自体は古くからあるもので、従来、めまい症といわれていたかなり多くの患者さんが含まれるものだと思いますが、そのめまい症の中にPPPDといわれる人たちがいることがわかってきました。

山内

普通、めまいといいますと、メニエール病のようなものは別にして、慢性のものはなかなか扱うのが難しかったですね。そういった辺りで少し新しい疾患概念が出てきたことで、医療的にもいろいろと役立っているのでしょうか。

五島

そうですね。メニエール病や良性発作性頭位めまい症など、有名なめまい疾患がありますが、それらは発作的に起きる回転性のめまいが特徴で、その発作が起きていないときは、ほとんどめまい症状がありません。しかし、PPPDは浮動性のめまいを特徴としていて、しかもほぼ一日中、ほぼ毎日、3カ月以上にわたって浮動性のめまいがあるということで、日常生活に影響がすごく大きいものです。

山内

PPPDは浮遊感ということでいいのでしょうか。フワッフワッとした感じで、回転性のめまいではない。これがかなり長く続くということですね。頻度としてはどの程度でしょうか。

五島

いわゆるめまい症の中の4割ぐらいで、かなり多いと思います(文献2)。

山内

良性発作性頭位めまい症との違いをもう少しお話しいただきましょう。まず、われわれはよく良性発作性頭位めまい症のほうでは耳石と関連づけているような印象がありますが、それでいいのでしょうか。

五島

そうですね。良性発作性頭位めまい症は三半規管の中に浮遊耳石といわれる耳石がフワフワ浮遊して、特定の頭位で短時間の回転性のめまいが誘発されます。特定の頭位というのは、寝たり起きたり、あるいは寝返りで起きる2つのタイプがありますが、患者さんはその頭位を取らなければめまいは起きません。耳石が動いたときだけめまいが起きます。 一方、PPPDは頭位にかかわらず、特徴的なものは立っているときに知覚刺激、目の前を動くものを見たり、エレベーターに乗ったり、歩いたりしているときにフワフワフワフワするめまいがずっと続いていることでめまいを避けることができない。ほとんど一日中、症状が出ています。

山内

めまいは、このように分類され、相互に合併することはないと考えてよいのでしょうか。

五島

いいえ、それがこの疾患概念のすごく新しいところで、良性発作性頭位めまい症、あるいはメニエール病といったような病気がいったん診断されますと、多くの場合、この患者さんはメニエール病、この患者さんは良性発作性頭位めまい症として、ずっと見られていくのです。

しかし、そのメニエール病あるいは良性発作性頭位めまい症の病気の途中でPPPDが起きることがあります。PPPDが単独で起きる場合もありますが、多くの場合はメニエール病にPPPDを併発したり、あるいは良性発作性頭位めまい症にPPPDを合併したりするので、治りにくいめまいを診たときには、このPPPDが合併していないかどうかを常に注意して診ていかなければならないのです。

山内

これは両方あるいは極端な場合は3つが合併することもありうることを、臨床医の方に注意を促していると考えてよいのですね。

五島

そうですね。私自身もメニエール病の患者さんが違うめまいを訴えても、昔はそれをメニエール病の発作として扱っていましたが、メニエール病に良性発作性頭位めまい症を合併して、また良性発作性頭位めまい症が治りにくいためにPPPDも合併するということで、時期によって訴えるめまいが様々です。メニエール病であれば、回転性のめまい発作が10分以上続いて、何もしていなくても何もできない。良性発作性頭位めまい症の場合は、寝たり起きたりするとクルクル回る。PPPDになると歩いているときにめまいがするので、外出ができないような症状になっていくのです。

山内

もう1回まとめますと、こちらのPPPDは名前からしても、持続性ということでずっと一日中フラフラした感じ。一方の良性発作性頭位めまい症は発作性ですので、いきなり出てくるのですね。ただし、発作性といってもめまいが起きたら、その後は少し症状は長引くのですね。

五島

良性発作性頭位めまい症の場合は寝たり起きたり、寝返りをしたときに15~30秒、あるいは長くて1分ぐらいめまいが起きますが、日常、歩いているときには症状が出ませんから、ほとんど日常生活には支障がありません。

山内

なるほど。発作は一過性といってもいいような短さですか。

五島

そうですね。一過性です。

山内

もう一つは姿勢誘発という言葉が付いていますので、姿勢で誘発されるとのことですが、もう一度まとめますと、良性発作性頭位めまい症は、急に起き上がったり、寝たりすると誘発されることから、夜間に多いと考えてよいのですね。

五島

そうですね。多くの患者さんが夜、寝ようとしたときにめまいが起きたり、あるいは寝て枕に頭をつけて寝返りをしたときに起きる。あるいは朝、パッと起きたらグルグル回ってしまったとか、朝、寝返りをしたらめまいが起きたという、主に就寝時に起きることがほとんどです。

山内

一方でPPPDはどちらかというと、日中に動いている時に症状が出るのですね。

五島

PPPDのP(姿勢)はpositional(頭位)ではなくpostural(姿勢)ということになっていますが、臥位とか寝ているときには起きなくて、立っているときに起きるのが特徴です。

山内

日中に起きるのが一つの特徴と考えてもいいのですね。

五島

はい。良性発作性頭位めまい症の場合、日中、立っているとき、歩いているときには症状がほとんど起きませんから、買い物に行ったり、家事をしたりは、ほぼ正常にできます。しかし、PPPDの場合は日中に起きるがためにほぼ一日中ですから、怖くて買い物に行けなくなってしまうとか、社会生活に障害がかなり大きいのが特徴です。

山内

姿勢というところですが、例えば急に振り向いたときなど、そういった行為、行動に伴うと考えてよいのでしょうか。

五島

振り向くことでも誘発されます。特徴として能動的、受動的な頭の動き、つまり振り向いても起きますし、エスカレーターのように周りの景色が流れるような受動運動となる車の窓から外を見る、電車の窓から外を見る、そういうビジュアルの刺激でも起きます。

山内

外界が動いて見えることでも、めまいが来てしまうのですか。

五島

そうですね。

山内

なかなか厄介ですね。診断ですが、これは画像や特別な検査といったものはないのでしょうか。

五島

はい。この病気の難しいところは、何か検査をしてこの所見があればPPPDだと診断をするのではなく、あくまでも丁寧に問診をして、診断基準に該当すること。つまり3カ月以上、ほぼ毎日の浮動感があり、立っている姿勢や視覚刺激で誘発されることを聞いてしか診断ができないのが特徴です。

山内

眼振はいかがですか。

五島

PPPD自体では眼振は出ませんが、先行する病気として良性発作性頭位めまい症やメニエール病のような病気を合併している場合には、もともとあるめまい疾患による眼振が出ている。これは出ていても構いません。ただし、PPPDだけでは眼振は出ませんので、所見が何もないめまいで、長く訴えが続く患者さんを診たときには、PPPDを疑って問診をすることが必要になります。

山内

最後に治療ですが、これはいかがでしょうか。

五島

やはり、治療がこの病気のポイントで、この病気の診断基準ができたことの意味としては、きちんと治療をすることでかなりの患者さんが改善することにあります。

治療としては三本柱があり、リハビリテーションと抗うつ薬、それから認知行動療法があります。

山内

まず、リハビリですが、どういったものでしょうか。

五島

一般的な前庭リハビリテーションといわれるものを行いますが、良性発作性頭位めまい症の場合には寝たり起きたりで誘発されますから、寝たり起きたり、あるいは寝返りをするような体操をします。しかし、PPPDの場合は寝たり起きたりで誘発されることは少なく、立位の姿勢で誘発されますから、立った姿勢で首を振ったり、目を動かしたり、簡単に言えば、患者さんがめまいを感じる動作を反復させ、慣れを生じさせることで、めまいに治療的効果を期待するものです。

山内

抗うつ薬などは有効なのでしょうか。

五島

この病気の非常に不思議なところは、SSRIという抗うつ薬の効果があることです。もともと抗うつ薬はうつ病の患者さんに使われる薬ですが、一部の患者さんはうつ病のような気分の落ち込みの代わりにめまいのような身体症状を呈している。昔で言う仮面うつ病、身体化したうつ病のようなものが、一部PPPDに含まれているのではないかと考えられています。

山内

認知行動療法はかなり専門的な治療法になりますか。

五島

はい。これは一般の耳鼻科ではかなり難しく、行っている施設は全国でも限られますが、大学等で認定心理士、臨床心理士と協働して行う、あるいは精神科とコラボして行うようなかたちで、医師がしっかりとした枠組みでやっているケースがほとんどです。

山内

予防的といっても難しいのですが、こういっためまいは初期診療、初期治療が非常に大事と考えていいのでしょうね。

五島

はい。PPPDにならないように最初のめまいをきちんと治すことが大事で、最初のめまい、何らかのめまいが誘引となることが多いですが、それをしっかり治療しないと慢性化してこの病気になってしまうことがわかっています。何とか最初のめまいを適切に診断、治療することがPPPDの予防という意味でも大事だと思います。

山内

ありがとうございました。

文献
1.堀井新:めまい疾患の診断基準 日本めまい平衡医学会の新診断基準とBarany Societyの新診断基準Barany Societyによる心因性めまいの新分類と持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断基準。Equilibrium Research 76:316-322、2017
2. 五島史行:持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural perceptual dizziness;PPPD)。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 124:1467-1471、2021