ドクターサロン

池田

認知症サポート医という制度はいつ頃から、どのような目的のために行われているのでしょうか。

井藤

認知症サポート医の養成というのは2005年に始まった事業です。養成が始まった背景としては、認知症のある方が今後ますます増えていき、かかりつけ医が認知症の患者さんに対応することが地域では求められていきます。一方で、これまで認知症医療は一般的にどちらかといえば医師から敬遠されてきた領域でした。なので、まずはかかりつけ医の認知症対応力を向上させることが課題になりました。そこで、かかりつけ医の認知症対応力向上を目的とした講習を行うというのが、認知症サポート医の位置づけでした。2005年にこの養成研修が始まり、2022年末の時点で認知症サポート医養成研修の受講者が1万2,000人を超えました。国の目標は2025年までに1万6,000人の認知症サポート医を養成するということなので、現在までのところ、認知症サポート医の養成は順調に進捗しているところです。

池田

認知症サポート医はどのように指定されるのでしょうか。

井藤

認知症サポート医になるためには、例えば学会の専門医が必要ということはないのです。認知症サポート医養成研修事業の実施主体は都道府県と指定都市です。都道府県と指定都市が、国立長寿医療研究センターに研修を委託しています。なので、これを受講する方たちは、都道府県・指定都市の長が、都道府県・指定都市の医師会と相談し、認知症サポート医の役割を適切に担ってくれるだろうという医師に、国立長寿医療研究センターが行っている研修を推薦します。

池田

その研修はどのくらいの期間必要なのでしょうか。

井藤

もともとは2泊3日の会場型研修でしたが、コロナ禍になってから、eラーニングとオンラインでのグループワークになっています。

池田

逆に受けやすくなったということですね。

井藤

そのように思います。

池田

受講して、修了証をもらって、認知症サポート医になりますが、実際、かかりつけ医と認知症サポート医はどのようにつながっていくのでしょうか。

井藤

例えば東京都は認知症サポート医の名簿をホームページで公表しています。そのような自治体がほかにもあると思います。それから、多くの市区町村で役所の高齢担当課や地域包括支援センターが認知症サポート医の名簿を持っていて、自分たちも活用するし、窓口に相談にみえた方に近くの認知症サポート医を紹介することもできます。もちろんかかりつけ医から患者様のご住所に近い認知症サポート医のご紹介を望まれれば、そのように案内されていると思います。

池田

かかりつけ医が相談されるということですが、実際に認知症サポート医の活動内容はどのようなものなのでしょうか。

井藤

先ほどお話ししましたように、もともとはかかりつけ医の認知症対応力向上を目的とした講習を企画・運営していくのが認知症サポート医の役割でした。なので、認知症サポート医の養成が始まった翌年の2006年からかかりつけ医認知症対応力向上研修が始まりました。この講師をしているのは今でも認知症サポート医という自治体が多くあります。

かかりつけ医は認知症医療にどのような役割を求められているのかというと、一つは日常の医学的管理です。もう一つが認知症を早期に発見して早期に対応していくこと、それから本人や家族を支援すること、そして地域の中の多職種連携です。これに対して認知症サポート医は、かかりつけ医をサポートして、診療のアドバイスを行うことが期待されています。

池田

かかりつけ医はそういう経験があまりないと思うのです。そういう意味では、ハードルを下げておいて、気楽に認知症サポート医とコミュニケーションを取らなければいけないと思いますが、実際にそういう感じになっているのでしょうか。

井藤

医師会に入っている診療所の医師が多いと思いますが、同じ医師会の中の認知症サポート医と連絡を取りやすいとか、あるいはかかりつけ医認知症対応力向上研修の講師だった認知症サポート医と面識があるということがあります。病診連携といわれていますが、例えば大学病院と診療所の医師が、親しい場合ももちろんありますが、多くは顔の見えない関係です。認知症サポート医制度はもう少し地域性があるので、お互いを知っている医師がもう少し気軽に相談できればというような構想があるのだと思います。

池田

ずっと診ている患者さんが認知症になってきているのではないかと思ったとき、認知症サポート医にちょっと診てもらえないかなという相談もできるのでしょうか。

井藤

はい。実際されているようなので、できると思います。

池田

認知症サポート医もご自身の診療を持っていらして、認知症サポート医としてかかりつけ医のサポートもするのはたいへんな仕事だと思いますが、ちょっと失礼な話ですけれども、報酬はどうなっているのでしょうか。

井藤

一つは認知症サポート指導料というものがあります。これは認知症サポート医がかかりつけ医に対して指導や助言を行うことに対する評価で、2018年に創設されました。もう一つは認知症初期集中支援推進事業という都道府県の事業があり、こちらは制度の中に位置づけられています。制度の中に位置づけられて十分に診療報酬がついているかというと、おそらくそこはまだまだ今後の課題です。どちらかというと地域のリーダーになってくださって、その地域の認知症支援体制を一緒に作っていこう、それを引っ張っていこうという心意気で引き受けてくださっているというのが、身近な認知症サポート医を見ていて感じることです。

池田

地域医療に貢献する、その心でやられているのですね。

井藤

そうですね。認知症サポート医の大きな役割として、かかりつけ医のサポートもそうなのですが、地域のリーダーになるということがあります。地域のリーダーになって、認知症の医療、介護に関わる専門職の支援をしたり、住民に対する普及・啓発活動をしたり、あるいは地域包括支援センターなどを中心にした多職種の地域連携を推進していく役割が期待され、ご活躍中です。

池田

一方、コロナ禍ではいろいろな活動が制約されていると思いますが、その中の問題点と、それを克服するべく認知症サポート医はどのような活動をされているのでしょうか。

井藤

認知症サポート医が地域づくりに関わっていくにあたり、例えば認知症カフェに関わることが期待されているのですが、ご存じのとおり、たくさんの認知症カフェがコロナ禍で休止と再開を繰り返しています。会場型の研修、あるいは市民向けの講演もとてもやりにくくなっているので、その点では少し活動がしにくくなっているかもしれないと思います。あとは、地域ケア会議など、専門職が集まるケースカンファレンスや勉強会も開催しにくくなっています。ですが、コロナ禍になって3年経過して、皆さんがオンラインで参加できるようになってきています。いつまでも休会というわけにもいきませんので、新しい方法でどのようにやっていくのかということが考えられ、始まっていると思います。

池田

先日も車いすに乗った高齢女性を港から海に落としたという悲惨な報道がありましたが、このコロナ禍で患者さんとその家族が孤立していることが危惧されます。その辺は認知症サポート医はどのように対応されているのでしょうか。

井藤

診療所にいらっしゃらなくなってしまって、社会的に孤立しているのではないかと危惧される方がいるのではないかと思うのですが、例えば認知症初期集中支援推進事業の対象になれば、チームで訪問して、どのような解決策があるのか、多職種チームで探っていくことになります。

池田

コロナ禍におけるチーム医療のリーダーは本当に難しい局面にあるかと思いますが、ぜひ地域のために頑張っていただければと思います。ありがとうございました。