ドクターサロン

山内

B型肝炎ウイルスの再活性化についてご教示くださいということです。 まずB型肝炎ですが、C型肝炎に比べてかなり治療法が複雑な印象があるので、解説をお願いします。そもそも現時点でB型肝炎ウイルス駆除は困難と考えてよいのですね。そうなりますと、治療目標はどうなるでしょうか。

木村

先生がおっしゃったように、B型肝炎というのは非常に複雑で、病態がいろいろあります。まず一番問題になるのはB型肝炎による慢性肝炎といいまして、AST、ALTが高くて、HBV-DNAが高値な患者さん、具体的には3.3logIU/mL以上の方々に関しては、エンテカビル、あるいはテノホビルアラフェナミドといった抗ウイルス治療薬を投与して、肝機能、AST、ALTを下げ、HBV-DNAを検出以下にすることが目標になります。また、慢性肝炎より進んだ肝硬変の患者さんに関しては、ウイルス量にかかわらず、こういった抗ウイルス治療薬を投与することがガイドラインで推奨されています。

山内

肝硬変以降になるとかなり特殊なものも増えてくると思いますので、慢性肝炎レベルでのお話をうかがいますが、これはウイルス駆除が困難ということで、目標としては活動性を非活動性にすると考えてよいでしょうか。

木村

おっしゃるとおりです。実際、ALTを正常化することが非常に重要になると思います。

山内

非活動性にすることによって、肝硬変、肝臓がんが将来惹起される率が減るというエビデンスはあるのでしょうか。

木村

これは多数の報告がありまして、ALTというよりは、実はHBVDNA量を下げると肝硬変や肝臓がんの発症が抑制されるというエビデンスがあります。

山内

実際に活動性、非活動性を見分けるのはトランスアミナーゼよりもウイルス量と考えてもよいのでしょうか。

木村

ここは2つ一緒に見るべきで、ウイルス量が多くても肝機能、ALTがマイルドな方もいますので、通常、私たちは2つ見ています。

山内

質問に戻りますが、この症例はどういったニュアンスと考えたらよいでしょうか。

木村

今回の質問は非常に重要な示唆に富む症例です。いわゆるB型肝炎既往感染とは、具体的にウイルスマーカーでHBs抗体が陽性、あるいはHBc抗体陽性の患者さんをHBVの既往感染と定義しています。そして、この方々はだいたい昔、ワクチンあるいは輸血を行っています。このように自分の力で治してしまう方々を既往感染というのですが、ある統計によりますと日本では1,000万人以上といわれていますので、我々の診療で非常に遭遇する機会が多いのです。

ここで問題になっているのは、こういった既往感染例、現在B型肝炎ではない方が免疫抑制剤であるステロイド、あるいは抗がん剤を投与するとB型肝炎ウイルスが血中に出てくる、いわゆる再活性化することです。患者さんもB型肝炎になっていることを知りませんので、あれよあれよという間に肝機能障害が起きて、劇症肝炎といった症状をきたすこともあります。我々は肝機能障害があった場合、必ずB型肝炎のチェックを行い、抗がん剤、免疫抑制剤を投与する前にはHBVのチェックをすることをお勧めしています。

山内

医療関係者などはかなり身近な問題になるのですね。

木村

おっしゃるとおりです。

山内

質問のケースはステロイドということですが、これはどうしたらいいのでしょうか。

木村

今回はステロイドを使う目的が自己免疫性肝炎ですが、ご承知のように、自己免疫性肝炎は基本的にステロイドをオフしますと肝炎の増悪を起こしますので、切れません。ですから、ステロイドの投与期間中はエンテカビルの中止は可能かという質問がありましたら、基本的には中止は難しいという回答になります。しかし、一方でHBVウイルス量の検出はせず、陰性をずっと維持している場合は、エンテカビルの投与を隔日、あるいは週3回に減量することは十分可能だと考えます。

山内

減量は可能ということですが、原則的にはこれは長期投与と考えてよいのですね。

木村

はい。

山内

もう一つは、今度はステロイドを中止したということです。中止して、ウイルス、HBV-DNAが検出されないというケースですが、これはいかがでしょうか。

木村

今回の自己免疫性肝炎ではステロイドをオフにすることは非現実的な話ですが、ほかの疾患でステロイドをオフにできた場合、その場合はステロイドを中止して、少なくとも12カ月はエンテカビルなどの抗ウイルス治療薬を使っていただきます。そして、12カ月の段階でHBV-DNAが陰性の場合は薬をオフにすることが可能です。

もう一つお話しさせていただきたいのは、リツキシマブという悪性リンパ腫でよく使われる薬があるのですが、これは再活性化を起こす薬として非常に有名で、リツキシマブの場合は1年半経過観察すべきと推奨されています。

山内

この質問のケース以外のとき、例えばキャリアーの方に対する対応も少し教えていただけますか。

木村

HBVキャリアーというのは、AST、ALTといった肝機能は全く正常にもかかわらず、ウイルス量(HBVDNA)が非常に高い方をいいますが、現状では免疫抑制剤あるいは抗がん剤を投与する場合、キャリアーの患者さんだとわかったらエンテカビルあるいはテノホビルアラフェナミドといった薬を予防的に投与することが推奨されています。ですから、ここは肝臓専門医にコンサルトになりますが、B型肝炎の患者さんに対して治療するときには注意が必要です。

山内

先ほどからエンテカビルが話の中心に出てきているようですが、これは現時点で第一選択薬と考えてよいですね。

木村

エンテカビルあるいはテノホビルアラフェナミドが第一選択薬です。エンテカビルは後発品がありますので、より安価で投与しやすく、患者さんの負担も少ないので、主流になっています。ただし、腎機能障害がある方には投与方法、投与間隔を延ばしたりする注意が必要ですので、そこは気にとめていただきたいと思います。

山内

お話によりますと、状況によってこういった治療の選択がなされるわけで、必ずしもウイルス量が多い少ないとか年齢とか、そのほか生検の情報はあまり大きな参考にはならないのでしょうか。

木村

今までお話しさせていただいたように、B型肝炎のキャリアーの場合、あるいは非感染、いわゆる既往感染例とちょっと異なりますが、いわゆるHBs抗原陽性といいまして、B型肝炎の方は明らかに抗がん剤、免疫抑制剤を投与する場合には、薬の治療を開始する必要があります。一方で、今回の質問にありました既往感染の場合は、予防的にエンテカビル等を投与することはありません。

山内

最後に少しお聞きしたいのですが、B型肝炎は対応が非常に難しいので、ついつい専門医にお任せということが多いのですが、一方でこういった患者さんは、最近NAFLD、NASHといったほかの病気を合併することも多いかと思います。やはりこういった疾患の合併は予防すべきところはありますか。

木村

今先生がおっしゃったNASH、NAFLDはコロナの影響もあって、確かに非常に増えています。もちろん糖尿病を合併している例も多くて、いわゆるNASH、肝機能障害とB型肝炎が併存すると、やはり増悪しやすいですので注意が必要です。

山内

こういった場合の患者さんの指導で特に大事なポイントはどういったものでしょうか。

木村

NASH、NAFLDは現状、いわゆる糖尿病があれば糖尿病の薬、高脂血症であれば高脂血症の薬を投与する。肝機能障害には減量しかありません。ですから、食事と運動がまず大原則です。

山内

食事というところで、お酒も出てきますが、これはいかがでしょう。

木村

アルコールと肝機能障害というのはよく知られていると思いますが、B型肝炎の患者さんにお酒をプラスしますと、発がん率が確かに上がります。ですから、B型肝炎の患者さんに対してはお酒は節酒といいますか、週2回程度の休肝日等は設けていただいたほうがいいかと思います。

山内

休肝日が一つのポイントだということですね。ありがとうございました。