山内
無症状の甲状腺腫大が健診の触診などでわかった場合、次にどうすべきかということかと思います。次のステップは超音波でその腫大を確認して実際に大きくなっているかどうか。あるいは、びまん性なのか、局所性なのかを見ることになりますか。
菅間
そのとおりだと思います。甲状腺腫大といっても体型によってなかなか判断が難しいところがあります。先生がおっしゃるように、エコーできちんとびまん性、両側性なのか、あるいは局所性、腫瘤形成性なのかをきちんと確認することが大事だと思います。
山内
この場合、橋本病、あるいはバセドウ病といったはっきりした病気がある場合は除外するとし、甲状腺腫大があるだけという場合ですが、これは昔からsimple goiter、単純性の甲状腺腫という感じでいわれてきたものですね。この概念に関してはいかがでしょうか。
菅間
単純性甲状腺腫、simple goiterというのは使われてはいましたが、逆に難しくて、実際は非腫瘍性の反応性の甲状腺腫大、病理学的にはびまん性の過形成という概念です。甲状腺腫大、甲状腺腫をgoiter、strumaと呼び、この病態の多くは部分的に結節あるいは腫瘤を伴うような腺腫様甲状腺腫が、日本では大部分だと思います。
山内
腺腫様甲状腺腫といいますと、ごつごつとたくさんの結節があるイメージですが、結節が小さいものもあるのですね。
菅間
そのとおりです。顕微鏡で見て初めてわかるような小さな結節もありますし、肉眼で見て明らかに、さわらなくても結節だとわかるような大きな結節まであると思います。
山内
腺腫様甲状腺腫はエコーで非常によく見られるようになりましたが、これは実際に良性と考えてまず間違いないのでしょうか。
菅間
一見、腺腫様甲状腺腫であっても、実際は腫瘍のこともあります。腫瘍の中には良性から悪性まであります。その鑑別がなかなか難しい症例もあり、単純に腺腫様甲状腺腫イコール良性として無罪放免するのではなくて、きちんとエコー、その他で調べた後、腫瘍が疑われるものに関しては経過観察、注意が必要だろうと思います。
山内
腺腫様甲状腺腫ではたくさん結節がありますが、その中の一部からがんが出てくることはありますか。
菅間
確率的にはそんなに高くはありません。しかし、腺腫様甲状腺腫を背景として起こってくる腫瘍として、濾胞腺腫や濾胞がんが起こってくることが実際にはあり、また頻度が高い乳頭がんが隠れていて見つかる場合もあります。
山内
ということで、がんをどう見いだすか、といったことになってくるかと思われます。局所的に結節が見つかった場合、小さいものから大きいものまであると思いますが、単発型も含めて、サイズからいうとどのあたりから、がんの可能性も含めて精査が必要となるのでしょうか。
菅間
一般的には目に見えない顕微鏡レベルの小さなものからがんはがんです。甲状腺のがんはほかの臓器のがんのように悪性度が高いわけではなく、予後が極めて良好なものがほとんどです。具体的にはきちんと適切な治療がなされれば、甲状腺がんの20年生存率は95%近くあるといわれています。通常では大きさは1㎝ぐらいまで経過観察をすることになっています。実際、日本の内分泌外科学会発行のガイドラインによると、甲状腺のがんの大部分は予後良好なので、1㎝を超えたら精査が必要ですが、1㎝以下のものに関しては注意して経過観察にとどめるということになっています。
山内
精査する場合、次のステップはやはり細胞診なのでしょうか。
菅間
エコーの進歩により、甲状腺の場合にはエコー下で確実に病変に針を刺すことが可能なので、穿針吸引の細胞診というステップになると思います。
山内
このあたりで出てくるがんとしてどういったものが挙げられますか。
菅間
甲状腺腫瘍には悪性と良性があります。悪性のがんの中では95%ぐらいが乳頭がんで、5%ぐらいが濾胞がんです。
山内
圧倒的に多いのは良性と考えてよいのですね。
菅間
腫瘍の7~8割方は良性の腺腫様甲状腺腫の結節と濾胞腺腫です。
山内
残りのがんの2~3割に関しても予後良好のがんが多いというお話ですね。
菅間
そのとおりです。残りのがんの95%は20年生存率の予後も良好です。
山内
ただ、教科書的には非常に怖いがんもあると書かれています。残りの5%、残りの1%といったところに非常に怖いがんが隠れている可能性はいかがでしょうか。
菅間
本当に怖いがんというのは甲状腺の未分化がんです。それは今の5%のさらに1/10ぐらいの頻度ですが、多くの未分化がんは急速に拡大して症状を現しますので、経過観察の中で見逃されるということはないと思います。
山内
むしろ本当にすぐに大きくなって、すぐに症状も出てくると考えてよいのですね。
菅間
そのとおりです。
山内
ではとりあえず、1㎝になるまではエコーで経過観察でいいということでしょうか。
菅間
そのとおりです。エコーで何もせずに、細胞診も何もせずに、経過観察でオーケーになっていると思います。
山内
エコー実施の間隔としては半年から1年でいいですか。
菅間
それは医師にもよるかと思いますが、場合によっては1年という単位でみられる医師もいるかもしれません。腫瘍増殖がゆっくりなので、そんなにあわてる必要はないということです。
山内
一方で、1㎝になると一度は専門医のところで細胞診をやったほうがいいということですね。
菅間
そうですね。細胞診をやれば、6~7割ぐらいは良性・悪性の最終的な確定診断がつくと思います。
山内
サイズの話とは別に、内部が充実性か非充実性か、これは大きいのでしょうか。
菅間
充実性のほうが腫瘍であることが多いです。一番最初の触診で硬いことが重要なのです。頻度が高い乳頭がんは線維化が起きて、硬くなる場合が多いと思います。
山内
濾胞タイプに関しては良性のことが多いと考えてよいのですか。
菅間
濾胞型の腫瘍は濾胞腺腫と濾胞がんがあり、大部分は濾胞腺腫です。これも乳頭がんと同様に予後は良好ですが、実際は乳頭がんと違って細胞診で鑑別がつかないことが多いです。
山内
そうしますと、穿刺をしてもがんかどうかわからないことがあるのですね。
菅間
そうですね。その場合には経過観察になるかと思います。
山内
さて、がんとわかった場合、ないし可能性が高い場合ですが、次のステップで予防的に切除するということはあるのでしょうか。
菅間
予防的と言いますか、甲状腺は左葉、右葉があるので、日本では片葉の切除のかたちでその病変を取るということが行われています。
山内
どういったタイミングで切除になるのでしょうか。
菅間
急ぐ必要はありませんが、手術の予定、患者さんの都合も合わせて手術することになると思います。
山内
例えばサイズがどのぐらいになったら、病理、細胞診でこういった所見があったら手術をするとか、そういったところはまだはっきりしていないのでしょうか。
菅間
現状では細胞診だけだとなかなか難しく、一部のものはわかりますが、それ以上のところを調べるのには遺伝子レベルで検査することが必要になってきています。現状、アメリカでは遺伝子検査が可能になっていますが、まだ日本ではできません。
山内
もう少ししたらそういった時代になるかもしれないと考えてよいのでしょうか。
菅間
5年ぐらいすればそういう時代になるだろうと思います。
山内
ありがとうございました。