大西 井上先生、若い女性に多いビタミンD不足というテーマですが、ビタミンDの役割について少し教えていただけますか。
井上 ビタミンDの体の中での一番大事な働きは、カルシウムとリンというミネラルの腸からの吸収を助けるということです。これがあることによってカルシウムとリンが十分体に入って、骨の石灰化を助けるという働きがあります。
大西 骨を強くするのですね。
井上 はい。
大西 ビタミンDは、食物から摂取したり、あるいは紫外線によって生成されたりすると思いますが、そのあたりを教えていただけますか。
井上 ビタミンDは、ビタミンと名がついていますが、実は日光のエネルギーによって自分の皮膚で合成することができます。そういう意味では厳密にはビタミンではないのですが、だいたい2~3割を食べ物から、残りの7~8割を日光を使って自分で合成しています。ビタミンDが体で作られて、もしくは外から入ってくると、それが肝臓や腎臓で代謝されて、活性化という過程を経て作用します。
大西 特にビタミンDが多い食品というのは知られているのでしょうか。
井上 一般的によくいわれるのは魚とキノコです。魚の中ではサケが有名ですが、サケも養殖物より日光をよく浴びた天然物のほうがいいという話もあります。あとはサンマやマグロやシラス干しなどにも含まれています。キノコは一番有名なのがシイタケですが、キクラゲなどにも多く含まれています。
大西 そのほか乳製品とか卵なども多いのでしょうか。
井上 そうですね。一般的に乳製品や卵にも入っていますが、乳製品はどちらかというとビタミンDというよりは、ビタミンDと一緒に骨に作用するカルシウムを含んでいるので、そういう意味で大事になります。
大西 若い女性の方にビタミンD不足が多いという話ですが、ビタミンDはどのように測定しているのか、検査について教えていただけますか。
井上 ビタミンDの代謝というのは、具体的にいうと、肝臓で25水酸化ビタミンDというものに変わって、最後に腎臓で1,25水酸化ビタミンDになります。これが活性型ビタミンDとして働きます。そのように変化するのですが、血中に主に存在する代謝物は25水酸化ビタミンDとなります。我々は25Dと呼んでいますが、この25Dの血中濃度が今、臨床の現場で測ることができて、これによってビタミンDの充足状態を知ることができます。
大西 その場合、ビタミンDの欠乏を判断する基準値はあるのでしょうか。
井上 現在の臨床で用いられている基準では、単位をng/mLで表しますが、30以上が充足、20~30が不足、20未満が欠乏と決められています。実際には欠乏症といって欠乏の症状が現れるのはもう少し低い、例えば10とか、そういう数字になります。日本人全体でも半分ぐらいが20未満の欠乏になってしまうので、ちょっと気をつける必要があります。
大西 臨床の実際では測らないことも多いかと思いますが、先生はどういった場合に測りますか。
井上 ビタミンDはカルシウム代謝以外にもいろいろなことを体でしています。免疫作用や、感染を防いだり、血管の代謝、メタボリックシンドロームなどいろいろ大事なことに関わっているのですが、一番大切なのは骨の代謝に関わることです。ですから、骨粗鬆症の治療をされるような方はほぼ全例測ったほうが良いと思いますし、骨粗鬆症の治療をする人はビタミンDが足りるように、ビタミンDをサプリで飲んだり、治療薬にビタミンDを併用しながら治療をするのが原則となっています。
大西 若い女性の方にビタミンD不足が多いことに何か原因は想定されているのでしょうか。
井上 若い女性に多い原因は大きく2つあって、1つはダイエットの問題です。魚離れもありますし、体重を減らすための無理なダイエットが良くないということがあると思います。もう1つは日光に当たらない、あるいは日光に当たる場合でも、いわゆるSPF値が高い化粧品や日焼け止めクリームなど、紫外線を遮断するものを使用することによってビタミンDの合成が減ってくるといったことがあるかと思います。
大西 日本ではかなりそういった若い女性が多いと考えてよいでしょうか。
井上 先ほどの基準でいうと、25Dが30未満の人たちが、不足、欠乏に当たるのですが、男性では70~80%、女性では80%以上で、20歳前後の女性でも80%以上、場合によっては90%ぐらいが不足、欠乏の域にあるのではないかという統計があります。
大西 女性の骨の事情というのはまたいろいろあるかと思いますが、骨密度は18~20歳あたりがピークなのでしょうか。
井上 もうちょっと遅いですね。30歳ぐらいでだいたいピークになって、50歳ぐらいまでは一定で、その後減ってくるというパターンです。
大西 ピークの前にかなり極端なダイエットなどがあると、かなりあとで影響が出ると考えてよいですか。
井上 まず、やせ過ぎは骨の健康に悪影響を及ぼします。そしてビタミンDが本当に全くなくなってしまうと、石灰化が起きなくなってしまうので、いわゆるくる病、骨軟化症になります。そこまでいかなくても、骨の発育には十分なビタミンDが必要となりますので、いわゆるpeak bone mass、最大骨量を獲得するためにはビタミンDは重要な一要素になるかと思います。
大西 紫外線に関しては、害になる場合もあるかと思いますが、何か適切な紫外線のガイドラインのようなものはあるのでしょうか。
井上 適切なガイドラインはないと思いますが、日本は比較的日照時間が維持されている季節が長いですし、日光のエネルギーも強いので、日光に当たるといっても、例えば上腕だけを露出するぐらいの格好で、1日10~15分浴びれば、それだけで有意にビタミンDは合成されて濃度も上がります。ですから、ちょっと外出して散歩したり、運動したりするという習慣があればかなり良いと思います。
大西 夏場と冬場で違うと思いますが、冬の場合はもう少し浴びたほうが良いのでしょうか。
井上 夏と冬で測定するとかなり違いますが、夏に上がって冬に下がるということが実際にどれだけ骨の健康に影響するかというのは実はよくわかっていません。ただ、若い女性では、日光に当たっている時間というのも調べるのは難しいのですが、1日に歩く歩数が多い人ほどビタミンDが高いということになっていますので、結局活動性とかなり比例してくるのではないでしょうか。また、よく動くということ自体も骨の健康に大事なのだと思います。
大西 女性の場合は妊娠中には少しレベルが下がったりするのでしょうか。
井上 妊娠中には、妊娠骨粗鬆症といって、妊娠中あるいは出産後の授乳期に骨が折れたりする方がいて、そういう方にはビタミンDを摂ってもらったりするのですが、妊娠中にビタミンDをたくさん摂ったほうがいいかどうかというのは今のところ国際的なコンセンサスがなくて、あったほうが良いとはいわれていますけれども、サプリを飲んでくださいと推奨する根拠は今のところはないのです。
大西 先ほどお話に出ました骨軟化症について少し教えていただけますか。
井上 これはちょっとわかりにくいのですが、骨粗鬆症というのは骨が減ってしまう。骨というのはコラーゲンを中心にした線維性蛋白があって、そこにカルシウムとリンから成るハイドロキシアパタイトという結晶がくっついてくるのです。それが石灰化なのですが、骨軟化症というのは、線維性の蛋白質はあって、骨の基礎となるところはできているのだけれども、そこに石灰化が起きてこないというものです。どちらも骨のカルシウムが減ってしまうので、骨密度検査でも、ふにゃふにゃな骨なのか、弱い骨なのか、見た目だけでは区別がつかないのです。
大西 様々な病気にもビタミンD不足は少し関連しているといわれているのか教えていただけますか。
井上 ビタミンD欠乏と関連するものとして肝臓の疾患、肝硬変や、PBCがよく知られています。あと、我々も研究していますが、COPDという肺の疾患ではなぜかビタミンD欠乏が非常に多く、予後にも関わることが知られています。また、糖尿病の中でも蛋白尿を伴うような糖尿病だと、ビタミンDが腎臓からロスしてしまうので、多いことがわかっています。逆にビタミンD欠乏が感染症や悪性腫瘍の発症に関係しているという話もあります。
大西 流行しているコロナは病状に少し影響するのでしょうか。
井上 コロナに関してはいろいろな研究がなされていて、ビタミンD欠乏の人のほうが入院期間が長い、予後が悪いなどというデータもあるのですが、まだ確実というレベルまでの報告はありません。
大西 どうもありがとうございました。
日常臨床にひそむ内分泌疾患と最近の話題(Ⅵ)
副甲状腺・骨代謝③ 若年女性に多いビタミンD欠乏
帝京大学ちば総合医療センター病院長
井上 大輔 先生
(聞き手大西 真先生)