齊藤 骨粗鬆症というと、やはり骨折との関係でしょうか。
竹内 高齢者の骨折をいかに予防するか、あるいは減らすかということが骨粗鬆症の最も重要な治療目的になります。
齊藤 骨粗鬆症を見つける戦略はどうなりますか。
竹内 現在は非常に長寿社会になっていますので、骨がその方の寿命までもたなくなっていることを十分に考えておく必要があります。そのため50歳以上で骨密度が低いことや骨折をしたことで骨粗鬆症と診断します。骨粗鬆症の診断に重要な骨密度は、身長と同じように生まれつきの素質、体質、あるいは遺伝的な素因でかなり決まっています。また、それ以外の部分の大半は、成長過程で決まってきます。
齊藤 日本での骨粗鬆症は疫学的にはどうなっていますか。
竹内 およそ1,300万人が骨粗鬆症と診断されるだろうといわれています。
齊藤 かなりの数ですね。骨折の予防は、寝たきりを防ぐことにつながるのですね。
竹内 そうですね。健康寿命の延伸というのが骨折を減らすことの大きな意義だと思います。
齊藤 心臓・脳関係に加えて、骨も非常に重要だということですね。
竹内 そうですね。もう一つ重要な点は、最近使われている骨粗鬆症治療薬は正しく使うと骨折を最大50%くらいは減らせるだろうといわれていますので、十分に費用対効果が期待できますし、治療により患者さんのQOLやADLを上げていくことができるだろうと考えられています。
齊藤 治療はどういった戦略でいくのでしょうか。
竹内 骨粗鬆症の病態というのは、特に原発性でいいますと、年を取ることによって誰でも起こってくる、閉経、すなわち卵巣機能の不全でエストロゲンが失われることや、年を取ることによって腸管からカルシウム吸収する効率が低下することが主体となります。
これらは不可逆的なものであり、いったん骨粗鬆症と診断されたら、その治療、特に薬物治療は長期に及ぶことを理解しておくことが大切です。
齊藤 ずっと治療するということになりますか。
竹内 そうですね。しかしながら、ご存じのように、ビスホスホネートでは顎骨壊死や非定型骨折のリスクがありますし、幾つかの薬剤、テリパラチドやロモソズマブでは使用期間に制限がありますので、そういったことを考慮しながら適切な薬剤に切り替えつつ、あるいは休薬を挟みつつ、長く続けていただくということが大切になります。
齊藤 漫然といくのではなくて、そういったスイッチがしばしば入ってくるということですね。
今は多くの薬がありますけれども、どういったエビデンスがあるのでしょうか。
竹内 先ほど申し上げました原発性骨粗鬆症の病態からいいますと、エストロゲンの欠乏による骨吸収亢進という状態に対しては、骨吸収抑制薬であるビスホスホネートや抗RANKL抗体のデノスマブが選択されます。また、加齢に伴う、あるいは現在は非常に頻度の高いビタミンDの欠乏による腸管からのカルシウム吸収不全に対しては活性型ビタミンD薬が広く使われます。
そういった病態に対する手当てだけでは済まない、もうすでに何カ所も骨折されていたり、著明に骨密度が低いような方の場合には、骨を作る作用がある骨アナボリック薬といわれる副甲状腺ホルモンのフラグメントであるテリパラチドや、抗スクレロスチン抗体のロモソズマブが使われます。
齊藤 それぞれの薬で骨折予防効果のエビデンスが出ているのですね。
竹内 21世紀になってから承認されている骨粗鬆症治療薬は、すべて椎体の圧迫骨折を減らすという効果が実証されています。さらには、非椎体骨折や、一番重要な大腿骨近位部骨折についても、幾つかの薬剤では骨折抑制効果が実証されています。とりわけ、大腿骨近位部骨折の抑制効果は、ビスホスホネートではアレンドロン酸、リセドロン酸、あるいはゾレドロン酸で確認されています。また、抗RANKL抗体のデノスマブ、そして最近使われるようになってきた骨アナボリック薬のロモソズマブ、これらのもので大腿骨近位部骨折の抑制効果があるとされています。
齊藤 骨折の危険の高い人には新しい薬を使うことになりますか。
竹内 どういった方が骨折のリスクが高いとするのか、なかなか判断が難しいところですが、例えばある薬剤の添付文書には、骨密度がTスコアで-3.3未満ですとか、椎体骨折を2個以上持っている方は非常に骨折リスクが高いと判断されると記載されています。そういった患者さんにはロモソズマブやテリパラチドといった骨アナボリックな作用のある薬剤が選択できます。
齊藤 そういった薬は、使用期間が限られているのですね。
竹内 テリパラチドは2年間、ロモソズマブは1年間に限定されているので、それらを使ったうえで、その後、骨粗鬆症の本来の病態に見合った骨吸収抑制薬にスイッチしていくことが重要だといわれています。
齊藤 逐次治療になるのですか。
竹内 そうですね。残念ながら、降圧薬やコレステロールの薬のように、よい薬一つを長く続けるのはなかなか難しい領域なので、幾つかの薬剤に慣れていただいて、ご自分の経験を重ねて、適切に使えるようになっていただけるとよいと思います。
齊藤 例えば注射薬は、便利さや副作用を判断しながら処方していきますか。
竹内 注射薬の中で骨吸収抑制薬のデノスマブに関しては、短期間では目立った副作用の経験はありません。長期になると、ビスホスホネートと同じように、幾らか顎骨壊死や非定型骨折のリスクがあることに配慮が必要です。あと、デノスマブの場合は休薬してしまうと骨吸収のリバウンドという現象が起こりますので、止め方が難しいというのがあります。一方でテリパラチドは、消化器症状や、ふらつきなど、短期で見られる有害事象もありますので、それらの点に注意していただきたいと思います。
齊藤 テリパラチドには、いろいろな製剤があるのですね。
竹内 現在は、毎日の自己注射、週2回の自己注射、週1回の医療機関での注射があります。こちらは患者さんの受け入れがよいもの、あるいは医療機関へのアクセスのよしあしなどで選んでいただければよいと思います。
齊藤 様々な薬があって、費用との関わりがありますね。
竹内 日本ではなかなか費用対効果の分析というのが難しいとされていて、多くのデータがあるわけではありませんが、一つの試算として、例えば日本で骨粗鬆症のスクリーニング検査を50%増やしたとしたら、2020~2040年の20年間で約4,600億円の医療費が削減できるのではないかというデータがあります。また、骨粗鬆症は診断されても治療されている方の割合が低いのですが、治療率を現在よりも50%高めると、先ほどのような試算で20年間で約6,400億円の医療費が減るというデータがありますので、やはり積極的な診断と治療というのが重要だと思います。
齊藤 現況、日本での治療率はどれぐらいですか。
竹内 およそ15~20%といわれています。諸外国もそれほど高いわけではないですが、EUではおよそ30%といわれているので、少なくともそれには追いつく必要があるのではないかと考えています。
齊藤 費用対効果もよいという欧米のデータもたくさんありますし、日本での試算もあるので、治療率が上がるとよいですね。
竹内 高齢者のコモンディジーズとして、高血圧症や脂質異常症と同じように考えていただければよいのではないかと考えています。
齊藤 ありがとうございました。
日常臨床にひそむ内分泌疾患と最近の話題(Ⅵ)
副甲状腺・骨代謝② 原発性骨粗鬆症に対する治療戦略
虎の門病院副院長
竹内 靖博 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)