ドクターサロン

 山内 中澤先生、前立腺がんというと、比較的予後が良いがんだという印象を持っていますが、実際、10年生存率などで裏付けられているのでしょうか。
 中澤 前立腺がんは非常にゆっくり進行するがんで、生命予後はほかのがん種に比べて非常に長いと思います。10年生存率で語られることが多いですが、ちゃんと治療がなされていれば骨転移を有していても比較的予後が良いというのはあると思います。
 ただ、骨転移があるのとないのとで非常に生命予後に関わってくるので、ほうっておけるわけではないと思います。
 山内 質問のように骨転移が初発症状で発見されるケースというのは私も時々見るのですが、こういったケースは悪性度に関連するのでしょうか。
 中澤 実際に骨転移をきたす前立腺がんは非常に悪性度が強いものがあります。診断するときに前立腺の組織を取るのですが、その組織診断の中でグリソンスコアという5段階評価の点数づけを行います。特に3点未満の前立がんは悪性度が弱く、進行は非常にゆっくりですが4~5点以上になりますと、骨転移を発症してくるような前立腺がんになってくると思います。
 山内 このスコアはどのように算出するのでしょうか。
 中澤 グリソンスコアは非常に専門的な内容になりますが、前立腺のがんの組織を顕微鏡で実際に病理医が観察し、5パターンの悪性度分類をします。これはシェーマといって、こういう病理組織だったら1点にしましょう、2点にしましょうと決まっています。前立腺がんの中には悪性度がまばらに存在する、いろいろなパターンのものが存在しますので、それを病理医が診断していくかたちになっています。
 山内 まばらにというのは、一つのがんの中にまばらに存在するということでしょうか。
 中澤 そうですね。グリソンスコアが3点のものもあれば、5点のものもあったりして、これが非常に前立腺がんの予後の経過をわかりづらくさせているといわれています。
 山内 まばらに混じっているとすると、たまたま取った生検の部位でも多少違ってくることはありうるのでしょうか。
 中澤 ありえます。なので、生検は非常に大事で、特にがんが画像として認められるところをきちんと取るのが非常に大事で、私たちは日常診療でそれを心がけています。
 山内 スコアが高いものはやはり骨転移が多くなる。ただし、骨転移したがんの中でも比較的予後が良いものもあるということでしょうか。
 中澤 そうですね。例えば骨転移の数やほかの臓器への転移などによって予後が分かれてきます。あとは、先ほどお話ししたグリソンスコアが、例えば4点のものが少ない場合は、転移を起こしていても予後は比較的長い、もしくは薬物治療がよく奏効するといった方が多いです。
 山内 さて、次の質問です。これはおなじみのPSA検査についてですが、60代でPSAが1程度で6~12カ月後に変化がない場合、以後のチェックはどうしたらよいでしょうか。PSA上昇のない前立腺がんはあるのでしょうかということです。PSA検査は我々のイメージの中でも腫瘍マーカーの中では最も信頼度が高いマーカーの一つですが、実際、これは感度、特異度の面で非常にいいという裏付けは出ているのでしょうか。
 中澤 感度、特異度ということですと、非常に感度は良いです。ほとんどがんの方の見逃しはないというのが感度になるかと思いますが、ただ、特異度に関しては、若干PSAが上がったからといって、すべての方が前立腺がんかというと、そうでもないのです。例えば、慢性の前立腺炎や、あとは機械的な刺激、自転車に乗ったりしてサドルが当たるようなものですと、PSAが二次的に上昇してしまうことがあり、経過を見ていると下がる方もいます。
 山内 経過を見ることでいいのか、すぐに専門医に紹介すべきかといったあたりが非専門医の考えるところですね。まずこの質問のPSA 1程度ですと、がんの可能性は低いと考えていいでしょうか。
 中澤 いただいている内容から拝見しますと、60代でPSA 1でしたら、がんの確率はかなり低いと考えてよくて、また1年後に健康診断、もしくは人間ドック等で測ればいいと思います。ただ、年齢は非常に大事で、PSAの基準値は4未満を正常値としていますが、これは70歳以上の方の基準値になっています。例えば、50~60代前半の方に関しては、PSAは3点で専門的に区切ることがあります。
 山内 3ぐらいですか。
 中澤 はい。若い方でPSAが4に満たないからといって、ゆっくり見ているのはあまりよくないかもしれません。年齢も一つ参考になさったらいかがかと思います。
 山内 どのあたりで専門医に紹介するかは年齢も考慮しながら、一応3~4と考えていいでしょうか。
 中澤 通常、PSAを測っていらっしゃる方は50~60代、もしくは80代の方が中心かと思います。全年齢を考慮すると、4でよいとガイドライン上ではいわれているので、4を超えた段階で専門の施設、泌尿器科等に紹介されたらいかがかと思います。
 山内 実際に健診等の結果を見ていますと、毎年4ぐらいの値で、あまり増減がないようなケースもあるようです。こういった方に関してはどう扱っていけばいいでしょうか。
 中澤 まれにですが、PSAは毎年あまり動かなくても、実際は画像に写るようながんを持っている方もいます。実際に私たちもそういう方を紹介いただいてみますが、そういう方は形上、画像で出てきてしまうがんに関しては非常に寿命に関係があるといわれているので、1~2年見て変わらなくても、1回専門の施設でみていただいたほうがいいかと思います。
 山内 もう一つの質問で、PSAが上昇しない前立腺がんはあるのでしょうか。これはいかがでしょうか。
 中澤 非常にまれですがあります。先ほど言ったグリソンスコアで分類ができないような特殊ながんの方がいまして、神経原性腫瘍という専門用語になりますが、通常の前立腺がんと全く違う組織像の方がいます。そういう方はPSAが上がりません。こういう方は残念ながら転移をきたして見つかるケースも多いのですが、泌尿器科医は直腸診などで発見することも多いので、マーカーで引っかからない方をどうしていくのかは泌尿器科としても課題ではあります。
 山内 ただし、頻度としては非常にまれなのですね。
 中澤 非常にまれです。
 山内 このPSAは現在、健診にも随分使われているマーカーで、かなり有用性が高い印象があります。一般の内科などの外来で、ほかの疾患で定期通院されている方に対して、ルーチン測定してもいいかなと思いますが、保険上の問題等もありますし、over diagnosisになってしまうといった意見も含めて、いかがでしょうか。
 中澤 数回取ることで保険の問題等もあるかもしれませんが、得られる情報もあります。定期的に見ていきますと、PSAが経時的に上昇してくる方は非常に前立腺がんのリスクが高いといわれていますので、そういう方を発見したら紹介いただく。ただ、保険上で認められる内容で行い、無理なさらずに泌尿器科等に紹介していただければ、それでもいいと思います。
 山内 もしPSAが高い場合、先ほど少しお話がありました画像診断を1回入れるというのも一つの手と考えてよいのですか。
 中澤 非常にいいと思います。特に前立腺に関しては、MRIの検査が非常に有用で、画像上認められる前立腺がんはMRIでほぼ診断可能です。
 山内 直腸診と比べてどうですか。
 中澤 直腸診よりも非常に感度、特異度ともに優秀で、さらに被曝もしない検査なので、患者さんにとっては非常にいい検査かと思います。
 山内 ありがとうございました。