患者さんに「ここの骨が折れています」と英語で伝えたい時、皆さんはどのように表現しますか?
「骨折」は医学的にはfractureもしくはbone fractureと表現されますが、一般的にはbroken boneとも呼ばれます。患者さんはどちらも問題なく理解されますので、“You have a fracture here in this bone.”でも“Your bone is broken here.”でも理解してもらえます。
breakと言えば“Break a leg!”という慣用句も有名ですね。これは人前でパフォーマンスをしようとする人に向かって“Good luck!”という意味で伝える慣用表現です。日本語では同じような場面で「頑張ってね!」と表現するので、人によっては「break a leg=頑張る=無理をする」と認識されている方もいて、「あまり無理をしないでね」を“Don’t break a leg.”と表現できると思っている方もいますが、それは間違いです。“Break a leg!”は「舞台でのパフォーマンスの前に“Good luck!”と声をかけると、実際には逆のことが起こるというジンクスから、“Break a leg!”という不吉な表現を使う方が良いことが起こるだろう」という発想から生まれた慣用表現で、これから何か重要なことを控えている人への声掛けとして使われます。ですから「あまり無理をしないでね」には“Don't push yourself too hard.”のような正しい英語表現を使いましょう。
患者さんによっては「骨にヒビが入っているのは骨折ではない」と思っている方もいらっしゃいますが、英語圏でも同様に「骨にヒビが入る」a crack in a boneということをfractureと認識されていない方もいます。もちろんこれは医学的には「毛髪骨折」hairline fractureという骨折に分類されます。
骨が露出しない「閉鎖骨折」closed fractureと、露出する「開放骨折」open fractureにはそれぞれ別名があります。前者のclosed fractureは「単純骨折」としても知られており、その英語であるsimple fractureは日本人にもよく知られているのですが、後者のopen fractureの別名の「複雑骨折」の英語であるcompound fractureは、日本人にはあまり馴染みがない印象があります。そして骨が粉々に砕ける「粉砕骨折」は、英語ではcomminuted fractureとなります。このcomminuteは「コミニュゥトゥ」のように発音し、「細かく砕く」というイメージがあります。
これ以外にも小児に多い「若木骨折」のgreenstick fractureや、高齢者に多い「圧迫骨折」のcompression fracture、そしてアスリートに多い「?離骨折」のavulsion fractureや「疲労骨折」のstress fractureなどの英語表現もこれを機会に覚えておいてください。
骨折の治療には「内固定」internal fixationと「外固定」external fixationが用いられます。このうち「内固定」である「観血的整復固定術」は、英語ではopen reduction and internal fixationとなり、この頭文字からORIF(「オリフ」のように発音)と呼ばれています。
「外固定」には「ギプス」や「シーネ」などがあります。これらは英語では全く異なった表現となり、「ギプス」はcastと、そして「シーネ」はsplintとなります。また関節を一定の制限の中で動かすことができる「装具」は、英語ではbraceとなります。そして「松葉杖」はcrutches(単数形はcrutch)となり、「松葉杖をついて歩く」はwithやonを使ってwalk with/on crutches/walk with/on a crutchとなります。
患者さんに骨折の説明をする際には、一般の人でも理解できる骨の名称を使う必要があります。人体には200を超える骨がありますが、ここでは一般の人が知っている代表的な骨の一般的な名称をご紹介しましょう。
「頭蓋骨」craniumは一般的にはskullと呼ばれます。「胸骨」sternumはchestの真ん中に位置するにもかかわらず、「乳房」を意味するbreastを使ってbreastboneと呼ばれます。「肩甲骨」scapula(複数形はscapulae)は「肩にある刃物のような骨」であることからshoulder bladeとなり、「鎖骨」clavicle(複数形はclavicles)は「襟にある骨」ということでcollarboneと呼ばれます。「襟」collarと「色」colorを区別して発音するのに苦労している方が多くいらっしゃいますが、この2つの単語の発音の違いは、スペルが異なる-llarと-lorの部分ではなく、スペルが同じcoの部分にあります。collarのco-はnotを発音する際のように少し口を広げて発音するような音となり、colorのcoはbutのような短い音となります。
「上腕骨」humerusはhumorという言葉に近いこともありfunny boneと呼ばれます。このfunny boneの遠位端には「尺骨神経」ulnar nerveがあって、肘をドアなどにぶつける際には痺れることがありますが、この上腕骨の下にある尺骨神経をぶつける動作を英語ではhit one's funny boneのように表現します。また手首にある8つの「手根骨」carpals/carpal bonesはwrist bonesと呼ばれ、指にある「指骨」phalangesはfinger bonesと表現されます。
「大腿骨」femurは「太ももの骨」ということでthigh boneと、「脛骨」tibiaは「すねの骨」ということでshinboneと呼ばれます。
「膝蓋骨」patellaには日本語にも「膝の皿」という表現がありますが、英語にも同じようにkneecapという表現があります。ちなみに英語でlegと言うと、解剖学的には「膝」kneeから「足首」ankleまでの部位を指しますが、英語圏の一般の方は「下肢全体」のことをlegと表現しますので、会話の状況によってはどの部位を意味しているのか確認することも必要です。
では最後にboneに関する様々な英語の慣用表現をご紹介しましょう。
もし英語で“I have a bone to pick with you.”と言われたら、これからどんなことが起こるか想像できますか?
この表現を理解するには英語圏でのboneのイメージを理解する必要があります。このa bone to pickにおけるboneにはbone of contentionというイメージがあります。これは「犬が骨を巡って争う」というイメージから生じた慣用表現で、「論争の原因」という意味になります。したがって“I have a bone to pick with you.”には、「これからあなたと言い争いになるような話をしなければなりません」というイメージがあり、日本語の「ちょっと話があるんだけど」という表現と同じ意味を持ちます。同じような意味でboneを使う“To make no bones about it,”という表現もありますが、これには「それに関してはあなたに議論の余地はないんだけど」というイメージがあり、日本語の「はっきり言わせてもらうけど」という表現と同じ意味を持ちます。これらはどちらも強い口調で使われる表現であり、その後にはあまり望ましくないことが言われると覚悟しておく必要があります。
日本語では「非常に痩せている状態」を「骨と皮」のように表現しますが、英語では順番が逆になってskin and bonesと表現します。具体的には“He is nothing but skin and bones.”のようにnothing butやjustなどと一緒に使われます。
日本語の「骨身に染みる」という表現は、「寒さ」に関しては英語でもchilled to the boneのように「骨に染みるくらい寒い」として使われますが、“Feel it in your bone.”のように使われた場合には、「直感で理解しろ」という意味になります。また“That was close to the bone.”と言えば「さっきの話はきわどかったよね」のように「核心に迫りすぎている」のような意味になります。
また日本語と英語では骨に関する印象が異なるため、日本人には理解しにくい慣用表現もあります。英語のboneには「乾いている」というイメージもあるため、「ひどく乾いている」様子はdry as a bone「骨のように乾いている」と表現されます。
またboneの発音ですが、これは“I was born and raised in Japan.”のbornのそれとは異なります。「え?同じじゃないの?」と思っていた方は、ネットで“bone pronunciation”と“born pronunciation”と検索して、その違いを比べてみてくださいね。