齊藤
褐色細胞腫とパラガングリオーマについて教えていただきます。
一般の臨床でこういった患者さんが見つかるきっかけは何でしょうか。
田辺
一般的には普通の高血圧症として治療を受けている方で、血圧が上がったり、動悸がする、いわゆる発作的な高血圧が時々あって、それを医師に相談して褐色細胞腫を疑われることが多いと思います。
齊藤
血圧はかなり変動しますから、それも一つの鑑別診断に入るということですね。
田辺
そうですね。そういうとき、たまたま本人が家で血圧を測ると、褐色細胞腫であれば上の血圧が170㎜Hgとか200㎜Hgとかかなり高くなり、脈拍も110㎜Hgぐらいに上がります。そして30分ぐらいすると元に戻ってしまう。そういう発作が月に1回から数カ月に1回起こるという方が多いです。
齊藤
そういった血圧変動は更年期などでもありますね。
田辺
そのとおりです。褐色細胞腫はまれな病気です。褐色細胞腫を疑われた方のほとんどが更年期障害やパニック障害、不安障害ということになります。その中から褐色細胞腫を見つけるところがキーポイントになります。
齊藤
血圧上昇で、クリーゼはどうですか。
田辺
クリーゼは年齢に関係なく起こります。褐色細胞腫であれば10代でも、高齢の方でも起こる可能性があります。本人が気がつかないうちに褐色細胞腫が体の中に存在していて、腫瘍が機械的に圧迫されるなどが原因で中に含まれているカテコールアミンが急にあふれ出してくると、急激に血圧が上がり、脈拍が速くなります。高血圧がおさまらない状況になり、そのまま危機的状況になって搬送される病態がクリーゼです。
齊藤
健診でCTを撮ることもありますね。そういった中でたまたま見つかることもあるのですか。
田辺
実は褐色細胞腫の症状である発作的な高血圧や頻脈は非特異的な症状ですので、いろいろなことで起こりえます。ですので、褐色細胞腫であることが気づかれにくく、実際に褐色細胞腫、パラガングリオーマの方の約50%の症例は健診等で偶発腫瘍として見つかっていることが最近わかっています。
齊藤
症状あるいは偶発腫瘍ということで、まずはどういった検査から入っていきますか。
田辺
症状から疑う、あるいは偶発腫瘍から疑う場合に一番簡単なのが、外来で実施できる随時尿の中のカテコールアミンの代謝産物であるメタネフリンとノルメタネフリンを測って尿中クレアチニンで補正する方法です。
齊藤
それで、高い値が出た場合にさらに検査を進めるということですね。
田辺
そうですね。褐色細胞腫、パラガングリオーマであれば、正常の上限値の5~10倍ぐらいの数字を示すので、そのような数字が出たら、腫瘍の存在がわかっていない方であれば腫瘍を見つけるための画像検査を行います。
齊藤
画像はCTがありましたが、そのほかはどうですか。
田辺
MRIでもよいと思いますし、平均3㎝ぐらいの比較的大きめの腫瘍ですので、初めは腹部エコーでも発見することができると思います。
齊藤
シンチグラフィは行うのですか。
田辺
腫瘍の診断という意味では必須ではありません。褐色細胞腫は悪性例があるので、シンチグラフィの主な目的は転移の検索です。ただ、手術前には確認のためにMIBGシンチグラフィという特異的なシンチグラフィを施行することが多いです。
齊藤
かなり疑わしいということになると、この後は入院して検査になりますか。
田辺
外来の随時尿のスクリーニングが陽性であった場合には、入院して、蓄尿でカテコールアミンやメタネフリン、ノルメタネフリンの測定を行います。
齊藤
治療に向かう場合には手術ができるかどうか見ていくのですね。
田辺
そうですね。先ほどお話に出ましたクリーゼを起こす危険があるので、診断されたら直ちにαブロッカーの内服治療を開始します。
齊藤
αブロッカーはドキサゾシンですか。
田辺
はい。ドキサゾシンを使います。日本にはαβブロッカーもありますが、ほとんどのαβブロッカーはβ作用が強いので、できれば純粋なα1ブロッカーであるドキサゾシンが望ましいと思います。
齊藤
それを増量して血圧をコントロールしていくことになりますか。
田辺
はい。αブロッカーは起立性低血圧を起こすので、少量から開始し、手術の数週間前からじわじわと増量して、最終的にドキサゾシン1日6~8㎎の高用量まで持っていきます。
齊藤
すると、β遮断薬の併用が必要になりますか。
田辺
αブロッカーを増量していくと頻脈が起こることが多いので、その場合にβ遮断薬を併用します。
齊藤
血圧を安定させ、全身状態がいいところで慣れた医師にお願いするということでしょうか。
田辺
はい。術中の血圧変動がかなり大きいので、やはり慣れた外科医がよいと思います。また、麻酔科も慣れた医師でないと、術中の血圧、脈拍のコントロールに難渋されるようです。
齊藤
手術は腹腔鏡手術が多いのですか。
田辺
褐色細胞腫、パラガングリオーマの腫瘍の大きさは平均約3㎝です。おそらく6~8㎝未満であれば腹腔鏡で手術ができると思います。それ以上になると開腹手術になるかもしれません。
齊藤
褐色細胞腫ですが、良性、悪性についてはどうでしょうか。
田辺
実際には10%ぐらいが悪性、つまり転移や再発を起こします。ただし、通常の悪性腫瘍と異なり、手術前のホルモン検査、血液検査、あるいは病理診断で良性、悪性の鑑別がつかないのです。ですので、現在では全例を悪性とみなして、生涯、再発がないかどうかをフォローするべきであるとされています。
齊藤
病理でもわからないとなると、なかなか難しいですが、経過観察はどう行っていきますか。
田辺
褐色細胞腫、パラガングリオーマはかなりゆっくり増殖する腫瘍です。急激に数カ月で大きくなることはありませんので、完全に摘出した後は、半年から1年に1回ぐらい、随時の尿中のメタネフリンを測る、あるいは画像検査をするなどのフォローアップをします。
齊藤
完全に治っている方も多いけれども、残っている方もいるのですね。
田辺
原発腫瘍はたいてい取り切れるのですが、先ほど言ったように転移腫瘍はゆっくり増殖します。初めの腫瘍を摘出する前の段階でほかの臓器に転移している可能性があり、それがゆっくりゆっくり、数年かけて明らかになってきます。初めの手術から10年、20年して転移が明らかになる症例もあります。
齊藤
その方たちの、腫瘍に対するアプローチはどうするのですか。
田辺
現在、日本で悪性に対して保険適用で使える治療法は、抗がん剤の治療とMIBGの内照射療法、内用療法ともいいますが、この2つです。
齊藤
それによって腫瘍を抑えていくのですね。
田辺
そうです。
齊藤
最近の話題としては新しいのみ薬があると聞きましたが、これはどうなのでしょうか。
田辺
1年ぐらい前からカテコールアミンの合成阻害薬が日本で保険適用になりました。ただ、この薬は1カプセルが約5,000円と高価です。1日に3~6カプセル使うのでかなり高額となります。そのため、カテコールアミンがすごく高い症例や、腫瘍が巨大で手術に時間がかかりそうな症例などの手術リスクの高いような症例を選んで、術前1週間ぐらい投与することがあります。
齊藤
血圧が高いので慢性的にのんでいくということはできないのですね。
田辺
はい。悪性の症例で、ほかに治療がなくて、カテコールアミンをコントロールしなければいけないという方で長く使う方はいらっしゃいます。長期の使用は、経済的に厳しいので高額療養費制度を利用していただくことになります。
齊藤
高血圧に興味がある医師は一度見てみたいと思っていると思うのですが、何かコツはありますか。
田辺
発作が毎週あれば疑わしいのですが、頻度がまれで数カ月に1回という方もいます。疑わしい場合は尿中のメタネフリン、ノルメタネフリンは随時、尿で簡単に測れます。検査会社によっては蓄尿でしか受け付けないところがありますが、検査会社に「随時尿で濃度を出してください」と伝えて、一緒に随時尿のクレアチニンを測定し、補正値を自分で計算します。計算の仕方は内分泌学会等のホームページなどに載っていると思いますので、参考にしてください。
齊藤
そういったものを利用して疑わしい患者さんを見つけていければよいということですね。
田辺
そうですね。
齊藤
どうもありがとうございました。