大西
曽根先生、原発性アルドステロン症、その拾い上げと治療というテーマでうかがいます。 まず、原発性アルドステロン症の病態について教えていただけますか。
曽根
高血圧というと、その辺にありふれていて、老化と生活習慣による病気、という印象が皆さん強いと思うのですが、高血圧の10人に1人ぐらいは何かほかに原因があって血圧が高くなっている方がいます。その中で最も多い病気の一つといわれているのがこの原発性アルドステロン症で、副腎に異常があって起こる病気といわれています。
大西
副腎からアルドステロンの分泌がかなり増えて、いろいろな症状や病態を起こしてくると考えてよいでしょうか。
曽根
はい。
大西
その原因は産生腫瘍など幾つかあるようですが、そのあたりを教えていただけますか。
曽根
大きく2つに分けられて、腫瘍ができて、それがアルドステロンというホルモンをたくさん作る場合と、両側の副腎の機能が少しおかしくなってアルドステロンをたくさん作ってしまう場合とがあります。前者はアルドステロン産生腺腫というわかりやすい名前で、後者は特発性、原因がよくわからないけれどもそうなってしまう病気といわれています。
大西
遺伝子異常の原因もあるのでしょうか。
曽根
somatic mutationというのですが、最近は大人になってから変異が入ったことで腫瘍ができるというようにいわれてきています。
大西
アルドステロン症は心血管系障害が多いと聞いているのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
曽根
昔はあまりそう思われていなかったのですが、最近、たくさんの患者さんの統計が集まるようになってくると、腎臓の障害、心臓の肥大、もしくは脳卒中や心筋梗塞、心房細動という不整脈なども多いことがわかってきました。
大西
通常の高血圧の人と比べても合併症のリスクは高いのでしょうか。
曽根
そうなのです。もともと軽い患者さんと重い患者さんと、けっこういろいろな患者さんがいて、私たちも日本で統計を取りましたが、例えば心房細動の頻度が5倍ぐらいになっていたり、脳卒中や心筋梗塞の頻度も高くなっていたり、蛋白尿といって腎臓が障害される頻度が非常に高いのが特徴です。
大西
臨床の現場でどうやって見つけたらいいのでしょうか。
曽根
健診センターで家族は誰も血圧が高くない。そんなに生活習慣が悪そうでもない人が、若くて血圧が高かったりすると、まず疑うと思います。
大西
検査データでカリウムが少し低くて見つかることもあると思いますが、必ずしもカリウムがみんな低くなるのではないのですね。
曽根
そうですね。ただ、けっこう重症化してから見つかる人はカリウムが低くて、足の力が抜けるとか、筋肉の力が抜ける症状で見つかる方も時々います。
大西
若年の方で、高血圧が難治性の場合に疑う、ということでよいですか。
曽根
家族にあまりいないとか、なぜ血圧が高いのか不思議な方は、疑ってみることが大事かなと思います。
大西
実際の検査の進め方を教えていただけますか。
曽根
実際は、アルドステロン症かもしれないとなると、ホルモンの病気なので、その上流のレニンとアルドステロンを測って、その比がおかしかった場合は病気を疑い確定診断をします。アルドステロンは塩を蓄えるためのホルモンなので、体に塩水をたくさん入れてあげると、普通の人は出なくなるのに、病気の人は出続けているとか、普通ならアルドステロンが出なくなる薬を使っても下がらないとか、そういう幾つかの検査で本当に病気かどうかを確認します。
大西
最初の取っかかりはレニンとアルドステロンを測るということですが、その比が問題になってくるのですか。
曽根
そうですね。普通の人は腎臓で体の塩と水の量を感知して、その量に合わせ、アルドステロンというホルモンが必要だから作れという命令を出しているのですが、その命令をする側がレニンです。レニンの命令を受けて出るはずが、レニンが低いのにアルドステロンが高くなっていると、勝手に副腎が作っていることになります。
大西
何か値のカットオフはあるのでしょうか。
曽根
アルドステロンをレニンで割って200や100という基準があるのですが、最近、アルドステロンの測り方が変わっていまして、昔は200という基準で切っていたのですが、これより低い値が出るような測り方に変わったので、今は100を基準にしようという話になっています。
大西
実際測るにあたって何か注意しなければいけないことはありますか。
曽根
寝た姿勢で測るのがベストだといわれていますが、どんな姿勢でも本物はつかまります。
大西
薬の影響などを受けることもあるのですか。
曽根
幾つかの降圧剤の影響は受けるのですが、とりあえず測ってみることも大事かと思います。
大西
腫瘍があった場合に、片方だけの場合と両側性の場合があるのですね。そのあたりは何か違いがあるのですか。
曽根
腫瘍が片方だと手術で取れるという利点がありますが、両方が悪いタイプだと、なかなか手術では治せないので、アルドステロンの作用をブロックするような薬で治療します。
大西
静脈サンプリングといった検査で局在を詰めていくのでしょうか。
曽根
おっしゃるように、アルドステロンというのはすごく少ない量で体を回っているので、目に見えない小さい腫瘍や、両方の副腎がおかしくなっている場合などは画像ではなかなかわからないので、カテーテルでどちらの副腎が悪いのかを確認する必要があり、それが静脈サンプリングになります。
大西
片方は比較的いいけれども、片方が悪いということもあるのでしょうか。
曽根
あります。
大西
両方悪いこともあるのですね。手術適応を考える場合は、片側性の場合は取ることなのでしょうが、両側性にあって、サンプリングで差があった場合など、手術適応は変わるのでしょうか。
曽根
両方にあって手術を考える場合、例えば腫瘍がCTで見えていたりすると、その腫瘍がアルドステロンを作っているのか、ほかの副腎の場所が作っているのか、さらに細かく見るという手法で手術する場合もあるし、薬で治療するケースもあるという、ケース・バイ・ケースになってくるかと思います。
大西
副腎の腫瘍がまれに悪性であることもあるのですね。
曽根
ないことはないのですが、実はアルドステロンを作る腫瘍が悪性であることはけっこう珍しくて、比較的良性のことが多いです。
大西
薬物治療について教えていただけますか。
曽根
アルドステロンの作用をブロックするミネラルコルチコイド受容体拮抗薬というのを使うと普通の降圧剤で治療するよりアルドステロン症の人は少し予後が良くなるというデータが出ています。すなわち患者さんの腎臓や心臓などが悪くなるのを防げるという話なので、そういう薬を使って治療するためにも見つけてあげることが大事だと思います。
大西
手術で取った場合も、完全に治る場合と、そうでない場合があるのでしょうか。
曽根
診断がうまくついて、手術で取れば、アルドステロン症自体は治ると思います。ただ、アルドステロン症が原因で起こった、腎臓や血管が悪くなった分が戻るわけではないので、そういう意味で早く見つけてあげることが大事だと思います。
大西
血圧なども高いのが残る場合もあるのでしょうか。
曽根
そこは生活習慣の分と、あと血管の障害の分が残る場合があります。
大西
そういう患者さんの場合は、その後の生活習慣とか、いろいろ気をつけなければいけないということですね。
曽根
はい。
大西
塩分もかなり制限したほうがよいのでしょうか。
曽根
アルドステロンは塩を蓄えるホルモンなので、病気の人は塩を制限すると血圧は下がるのですが、手術で治ればあまりそこを気にしなくてよくなるので、患者さんにはメリットが大きくなると思います。
大西
治療がうまくできているケースは予後は比較的良好と考えてよいのですか。
曽根
はい。基本的には良性腫瘍が多くて、手術で治る病気ですので、だからこそ早く見つけて、治すことが大事だと思います。
大西
薬物療法になった場合も、先ほど合併症が少し多いというお話がありましたが、そういった合併症の予後は良くなるのでしょうか。
曽根
最近少しデータが出てきて、薬で治療した場合でも手術と同様に合併症の予後は良くなる。将来合併症を防げるというデータが出ています。やはり普通の降圧薬ではなくて、アルドステロン症とわかったらアルドステロン症に適した薬を使ってあげることが大事かと思います。
大西
この病気は、頻度や性差、見つかる年齢などに特徴があるのでしょうか。
曽根
頻度はいろいろな報告があって難しいのですが、少なくとも高血圧患者さんの数%ぐらいはいます。
大西
けっこう多いのですね。
曽根
100人に数人ぐらいいるといわれていて、統計を取ると、普通の高血圧より若い人に多いです。30~50代で比較的若くて、あまり生活習慣も悪くないのに血圧が高い人になります。
大西
平均値的には50代ですか。
曽根
40~50代になります。ただ、30代で脳卒中を起こして見つかる方もけっこういらっしゃるので、若い方もいます。
大西
脳卒中のリスクは少し高いと考えてよいのでしょうか。
曽根
はい。
大西
では早く見つけて、きちんと治療することが大事ですね。どうもありがとうございました。