山内
好酸球性副鼻腔炎は慢性副鼻腔炎の中でどのくらいの頻度なのでしょうか。
鴻
慢性的に副鼻腔の炎症を示す慢性副鼻腔炎のうちの90%ぐらいはいわゆる昔からいう蓄膿症で、黄色ブドウ球菌の遷延した感染が背景にある好中球性型の炎症です。残りの10%ぐらいが好中球性型ではなくて、好酸球浸潤を伴う副鼻腔炎、つまり好酸球性副鼻腔炎というタイプだろうといわれています。
特徴としては、鼻のポリープや鼻づまり、鼻水に嗅覚障害を伴うことが多いです。それから、いわゆる蓄膿症は上顎洞炎が多いのですが、好酸球性副鼻腔炎は両眼の間にある篩骨洞、つまり、においをかぐところのすぐそばに炎症が起こることが多く、重症になっていくと喘息の合併が多くなります。
山内
喘息ですね。やはり好酸球がらみと見てよいのですね。
鴻
そういうことです。
山内
ポリープとはなかなか奇異な感じがしますが、どのようなものでしょうか。
鴻
欧米ではほとんど鼻のポリープイコール好酸球性ととらえられています。しかし日本では、もちろん好中球性でも鼻のポリープはできますが、好酸球性副鼻腔炎という指定難病になる診断基準として、内視鏡の所見で鼻のポリープがあるかないか。それから、CTを撮ったときに篩骨洞炎のほうが上顎洞炎より強い、あるいは両側の炎症である。最後に血液検査をしたときに好酸球が多い。それらで診断をするのですが、鼻のポリープがあるイコール好酸球性ではないのです。ただ、しばしば好酸球性副鼻腔炎の患者さんは鼻のポリープを伴うことが多くて、しかも重症になればなるほど、時間がたてばたつほどどんどん大きくなって、鼻の中がポリープでいっぱいになる患者さんも、私たちはしばしば診察することがあります。
山内
最終診断は病理になるのですか。
鴻
はい。最後は組織を取って、組織中の好酸球が1視野70個以上で診断します。
山内
嗅覚障害はかなり特徴的なのでしょうか。
鴻
この疾患の特徴として比較的嗅覚障害が前面に出てきやすいです。
山内
通常ですと慢性副鼻腔炎は鼻水が影響して少し嗅覚が悪くなるケースがあるかと思うのですが、それよりはもう少しひどいのですか。
鴻
好酸球性の場合はそれよりはもう少し嗅覚障害が前面に出てくるのが特徴です。
山内
治療のお話に移らせていただきます。難病という話が出ましたが、指定難病というのは大きな病気のような気がしますね。
鴻
いわゆる指定難病ですから、本来は患者数はそんなにいないということで2015年に難病になったのですが、現在、2015年に作成したJESRECスコアという診断基準では患者さんがかなり増えてきています。耳鼻咽喉科医として考えなければいけないのは、ひとくくりに難病といっても、重症・中等症・軽症と、同じ難病の中にもカテゴリーでいうと3つぐらいの方がいることで、この質問のような重症の方は、具体的にいうと喘息の合併症があるのです。そういう方はしばしば鼻のポリープもかなり高度なポリープができる傾向があります。
山内
患者さんにしてみれば、症状が軽い方も当然いらっしゃるのですね。
鴻
はい。
山内
難病といわれると相当ギクッとするでしょうね。
鴻
そうです。もちろん診断をつけなければいけませんが、好酸球性副鼻腔炎だと診断しても、必ずしも指定難病に申請しなくてもよいと思います。と申しますのは、普通の蓄膿症、慢性副鼻腔炎の中の好酸球性でない副鼻腔炎は、マクロライド少量長期投与療法という治療で治ることが多い。でも、好酸球性副鼻腔炎はマクロライド少量長期投与療法はあまり効かないので、しばしば治療のチョイスとして初めから手術ありきで、特に鼻のポリープがある場合は、それを取ることが前提になります。その手術を行うことで、好酸球性の7割ぐらいの患者さんは多分良くなるので、別に難病の申請をする必要もないのです。ただ、残りの3割ぐらいの、特に重症な喘息を伴うような患者さんは、何度手術をしても、また鼻のポリープが生えてきます。いわゆる難治性の方に関しては本当に難病の中の難病です。
山内
ポリープが症状発現上かなり悪さをしていると考えてよいのですか。
鴻
単純に鼻のポリープが気道を閉塞して嗅覚がわからないということもありますし、鼻のポリープから分泌されるいろいろな粘液が下気道にも、もちろん刺激を加えます。また、前頭洞、篩骨洞、蝶形洞、上顎洞と4つずつある副鼻腔の空気やガス、炎症が起きたときの排膿や排泄、それから炎症産物のやり取り、その排泄や換気というのが鼻のポリープで障害されて大きな問題になる。なので、それをまず取ることありきです。
山内
症状の大きな原因になっているということですね。
鴻
そうです。
山内
まず手術ありきと考えてよいのですか。
鴻
基本的には手術ありきですね。
山内
手術がいやだという患者さんも出てくるかもしれませんが、基本は第一ステップとして手術をすることで、7割方の患者さんに関しては寛解すると見てよいのですね。
鴻
そうです。
山内
残り3割方、このあたりから薬が入ってくるのでしょうか。
鴻
そういった患者さんには、ステロイド薬を使います。これは噴霧、局所の投与はもちろんですが、1日例えば2㎎とか5㎎とか、ステロイドの内服をずっと継続しなければいけない場合が少なからずありました。内科医にもいろいろと指導いただいて、特に女性の患者さんもそこそこいらっしゃいますから、骨粗鬆症のことも考えなければいけないし、免疫抑制のことも考えて、なるべくステロイドを切りたいといって減らすと、またポリープが再発する。再手術を加えたり、またステロイドという時期がかなり長く続いて、どうしようかと思ったときに、代替治療として分子標的薬が出てきた、そういう流れになります。
山内
ステロイドを使うと炎症は落ち着きますから、ずるずるとした鼻水的な症状は取れますね。
鴻
ステロイドの量が増えれば増えるほど、劇的に嗅覚も良くなりますし、鼻ポリープは小さくなるし、ほとんどの症状は取れてくるのです。
山内
ただし、一部ではそれがまた再発するということですか。
鴻
使っている間はいいのだけれども、ということですね。
山内
ということは、ポリープが再発というケースが一番重症なのですね。
鴻
はい。特に先ほど申し上げた難治性副鼻腔炎でもアスピリン喘息の患者さんは難治性の好酸球性副鼻腔炎になり、再発がかなり予想されます。
山内
そこで質問にあるデュピルマブになるかと思いますが、いまひとつなじみがない薬なので、少し解説願えますか。
鴻
好酸球性副鼻腔炎は、代表疾患ですが、今炎症がⅠ型炎症、Ⅱ型炎症、Ⅲ型炎症と分かれるとき、Ⅱ型炎症を示す難治性の疾患に対してもいろいろな因子が絡んでいます。サイトカインでいうと、IL-4、5と、13など、いろいろなものが関与していて、ステロイドはそれらをブロックしてくれるので、とにかく効くのですが、両刃の剣でマイナス、副作用も多かったのです。分子標的薬はターゲットにしているサイトカインにしか作用しませんから、よけいな副作用が少なく、その分、高濃度で使えるということで、悪性腫瘍治療と同じように、こういったⅡ型炎症でも分子標的薬が使われます。先行として抗IL-5の抗体製剤が出て、喘息に関して効果を示したのですが、耳鼻科の好酸球性副鼻腔炎にはデュピルマブという薬が唯一使える抗体製剤です。ターゲットがIL-4とIL-13です。その2つを抑制することでかなり効率よくⅡ型炎症をおさめる薬です。
山内
鼻のポリープも抑えられるのでしょうか。
鴻
はい。
山内
それは素晴らしいですね。
鴻
鼻のポリープもだいぶ縮小します。ただ、何より症状の抑え方が強いのです。実際、鼻のポリープが少し残っていても、嗅覚が劇的に改善したとか、症状を解決する意味で非常に大きな武器になります。
山内
量、投与期間はいかがでしょうか。
鴻
これはなかなか難しいのですが、投与から6カ月経過後に症状安定の場合は4週間隔での投与も可能と添付文書には記載がありますが、投与間隔を延長するとⅡ型炎症の疾患、特に合併が多い気管支喘息が悪化するなどとグローバルな治験では報告されているため、医師と患者さんで症状や希望を確認しながら慎重に実施する必要があると考えています。グローバルな治験をしたときに、1年使えばいいのではないかというリコメンデーションがあったのですが、実際は1年たっても月に1回の投与を継続したほうが、患者さんに症状改善を納得いただいているのだったらそのほうが良いとされています。
山内
非常に高価な薬ですので、よく考えてということですね。
鴻
そうですね。
山内
ありがとうございました。