ドクターサロン

池田

血管性浮腫でアナフィラキシーを考慮すべき病態についての質問です。この質問の患者さんは血管性浮腫でよいのでしょうか。,

猪又

唇がタラコ状に腫れていて、つまり表皮はあまり変化がなく、腫脹が主体で、1.5日で跡形なく消失しているとすれば、血管性浮腫の診断でよいと思います。

池田

この場合、その前に頭痛でロキソプロフェンを服用したときは副作用は出なかったと書いてあるのですが、これは鎮痛薬とは関係ないという意味なのでしょうか。

猪又

このときのエピソードをうかがいますと、鎮痛薬を内服してから15時間後に発症。確かに非ステロイド系消炎鎮痛薬を内服して不耐症が起こる場合は、半日ぐらいたってから起こることもまれにあるのです。ですから、鎮痛薬も被疑薬として疑われると思うのです。以前にロキソプロフェンを服用したときには症状は出なかったということですが、非ステロイド系消炎鎮痛薬の不耐症の場合はある日突然出ますので、以前は大丈夫だったけれども、ある日突然出現するということがありますので、もしかするとこのときの血管性浮腫の原因はこの鎮痛薬だったかもしれません。

池田

その後、誘因なく月に数回出るようになったということですが、これはやはり鎮痛薬は原因として考えづらいのでしょうか。

猪又

その後は誘因なく、特に内服薬との関連性はないということですので、そうなると原因不明、いわゆる特発性の血管性浮腫を疑うかと思います。

池田

特発性血管性浮腫ということですが、質問のようにブラジキニン関連の特発性血管性浮腫でよいのでしょうか。

猪又

例えば感染症、薬剤、食物など、原因が思い浮かばない場合には、メカニズムをいろいろ疑ってさらに原因検索をすると思うのですが、血管性浮腫の場合、考え方として機序で大きく2つに分かれます。1つはマスト細胞メディエーター起因性、マスト細胞が脱顆粒して起こるタイプと、もう1つはブラジキニンがメディエーターになるブラジキニン起因性です(図1)。そのどちらかということになるのですが、確かにブラジキニンの場合ですと、遺伝性血管性浮腫やアンジオテンシン変換酵素阻害薬、ACE阻害薬による場合があるので、それらを鑑別することになるかと思います(表1)。

池田

逆に言いますと、ブラジキニン関連の場合は遺伝性か、あるいはACE阻害薬、この2つということになるのでしょうか。

猪又

ほかにも推察はされていますが、代表的なものはその2つなので、その2つを確認していただくとよいと思います。

池田

この症例の場合はC1インアクチベーター活性98とありますが、これは遺伝性の血管性浮腫ではないのでしょうか。

猪又

遺伝性血管性浮腫の検査としてはC1インアクチベーターと、あと補体のC4を調べるのですが、こちらの方はいずれも正常値ですので、遺伝性は否定的と考えます(図2)。

池田

ということは、もしブラジキニン関連の血管性浮腫とすると、薬剤は書いてありませんので、やはり可能性はほぼないということでしょうか。

猪又

未知のものはわからないのですが、今現在よく知られている原因としてはその2つなので、その可能性は低いと考えてよいと思います。

池田

そうすると、残りの可能性はあまりなくて、マスト細胞メディエーターのほうなのでしょうか。

猪又

頻度としてはマスト細胞メディエーターのほうが高いので、その可能性を疑っていただいたほうがいいと思います。

池田

この場合、マスト細胞がなぜ活性化されるかわかっているのでしょうか。

猪又

それは原因がよくわからない、正確にはマスト細胞メディエーター性かを知る方法はあまりないのですが、抗ヒスタミン薬や、ステロイドホルモンを内服することで改善するようでしたら、マスト細胞メディエーター性である可能性が疑われます。

池田

例えばマスト細胞はよくアレルギーのときに名前が出てきますが、例えばIgE、RISTやRAST、そういったもので何か異常値が見つかるものなのでしょうか。

猪又

通常はあまり異常値は出てこないのです。なので、IgEをスクリーニングで調べることにはあまり意味はないと思います。

池田

唯一残っているのが治療的鑑別ということなのですね。

猪又

はい。

池田

特発性血管性浮腫にトラネキサム酸は推奨されているのでしょうか。

猪又

ガイドラインではトラネキサム酸は調べてみるとあまり高いエビデンスがないので、積極的には推奨はしていないのですが、これまでわが国では経験的に使用されていたことがありますので、治療に加えていただいてもかまわないと思います。

池田

推奨レベルはC1で使ってみても問題はないだろうというぐらいなのですね。いつまで使用すればよいのでしょうか。

猪又

具体的には申し上げづらいのですが、血管性浮腫は慢性蕁麻疹と違って毎日出るわけではないので、少なくとも1カ月は症状がない状態を見ていただいてから、徐々に漸減していくほうがよいかと思います。

池田

1カ月を目安にということですね。

猪又

はい。

池田

ずっとのんでいても問題はないのでしょうか。

猪又

私の経験上は副作用が出たことはないですし、学会などでもそういう話を聞くことはありませんが、罹病期間の半分くらいの期間、症状が出ていない場合には一度中止することを検討してみてもよいと思います。

池田

最後にブラジキニン関連のACE阻害薬による血管性浮腫はアナフィラキシーまで進行するのでしょうか。

猪又

ブラジキニン関連のACE阻害薬の血管性浮腫の場合、浮腫によって喉頭浮腫が起こって、それで窒息死するリスクがあります。アナフィラキシーというのは、どちらかというとマスト細胞メディエーター性の機序を前提としているので、アナフィラキシーの鑑別としてACE阻害薬による血管性浮腫というのは鑑別疾患に挙がってくるのです。

池田

直接の関連はないけれども、アナフィラキシーの鑑別としてACE阻害薬による血管性浮腫が挙げられるのですね。

猪又

そうです。

池田

逆に、今先生がおっしゃった喉頭浮腫は、ACE阻害薬による血管性浮腫が高頻度に起こるのでしょうか。

猪又

ACE阻害薬の血管性浮腫の中で、約0.1%の方が喉頭浮腫などで致死的になると2000年頃に報告されていました。薬剤性の血管性浮腫の中では喉頭浮腫による窒息死の率が比較的高いので、2000年頃非常に問題になったのですが、最近ではかなり啓発が進みまして、死亡例の報告は減少しています。

池田

でも、今のところそれは頭の隅に入れておかないと危険なことが生じる可能性があるということですね。

猪又

はい。

池田

まとめさせていただくと、血管性浮腫には大まかに遺伝性のもの、ブラジキニン関連のACE阻害薬によるもの、そしてマスト細胞メディエーターによるもの、その他の4つがあって、どちらかというとこの質問はマスト細胞メディエーター性だろうと、それでよいでしょうか。

猪又

そのように推察いたします。

池田

その場合は抗ヒスタミン薬やステロイドの内服で鑑別していくということですね。

猪又

はい。

池田

そして、マスト細胞メディエーター性である証拠として、検査値の異常がないということと、アスピリン等の誘因がなくても繰り返した歴があるということで、まとめてよいでしょうか。

猪又

そのとおりだと思います。

池田

ありがとうございました。