ドクターサロン

池田

慢性色素性紫斑とはどのような疾患ですか。

寺木

主に中高年の下腿に出現する、臨床的に点状出血と色素斑を主体とするのが慢性色素性紫斑です。

池田

これは自覚症状などあるのでしょうか。

寺木

一般的にはあまりないことが多いのですが、たまにかゆみを訴える方がいます。

池田

かゆみがあるぐらいで、何も感じない方もいるのですね。

寺木

むしろそちらのほうが多いです。

池田

どういうときに気づいたり、診断を受けたりするのでしょうか。

寺木

自分の足が黒くなってきて何か色が変わってしまったなという感じで来られます。

池田

この病気の原因というのは何かあるのでしょうか。

寺木

原因はいまだによくわかっていません。ただ、中高年に多くて、静脈瘤があったり、足がむくんでいたりする方に多いので、末梢循環障害、循環不全が基盤にあると思います。

池田

慢性とありますが、これは症状が出て、色がつきますよね。それを繰り返すということなのでしょうか。

寺木

そうですね。点状の出血斑が黒色調になっていくのですが、何年も繰り返す方が多いです。

池田

例えば血管炎などはないのでしょうか。

寺木

ないです。

池田

単純に血管がもろくなって周りに漏れてしまうということなのでしょうか。

寺木

血管がもろくなっているかどうかはわかりませんが、リンパ球を中心とする軽い炎症があります。リンパ球が血管に浸潤し、軽い炎症を起こし、同時に赤血球が漏れてくるという流れです。

池田

表皮には変化はないのでしょうか。

寺木

表皮基底層の軽度の液状変性などの所見はしばしば見られます。この病気は男性に多いのです。ちょっと表面が乾燥して、乾皮症のようになっている方がいらっしゃいます。

池田

名前が紫斑病ということですが、ほかに鑑別するような病気はあるのでしょうか。

寺木

IgA血管炎ですね。それに高ガンマグロブリン血漿性紫斑病などでしょうか。IgA血管炎は急激に下肢に出血斑や紫斑を呈してくる病気で、だいぶ経過が違います。

池田

少し盛り上がったような紫斑が散在するということですね。

寺木

そうですね。

池田

この病気を診断する際は、臨床症状だけで診断して、ほかに検査などは行われないのでしょうか。

寺木

生検はしますが、採血しても異常はないです。

池田

だいたいは臨床診断だけになるのでしょうか。

寺木

はい。

池田

原因はわからなくて、繰り返すということですが、治療はどのようにされるのでしょうか。

寺木

治療は難しいですね。いまだにいい治療がないのが現状です。

池田

ステロイドや保湿剤を処方されることが多いと思うのですが、あまり効かないのでしょうか。

寺木

そうですね。少し薄くなる程度です。

池田

先ほど循環障害があるのではないかという話もあったのですが、そういう場合は例えば弾性ストッキングや、あるいは寝るときに足をちょっと上げて寝るなど、そういうこともされるのでしょうか。

寺木

弾性ストッキングは勧めています。特に座り仕事で足を長く下ろしている人や立ち仕事の人には弾性ストッキングを強く勧めています。

池田

そういった循環不全もある程度考えながら治療していくということですね。繰り返していくことになって、患者さんはちょっと不安になると思うのですが、繰り返さないための方策は何かありますか。

寺木

以前は止血剤とか、血管強化剤としてビタミンCなどを出していましたが、ほとんど効いていないのが実態です。私はこの疾患にしばしば温清飲という漢方薬を使っています。

池田

温清飲はほかにはどのような疾患に使われるのですか。

寺木

ベーチェット病の口内炎などに使われています。温清飲というのは四物湯と黄連解毒湯の合剤で、四物湯というのは温める作用があり、黄連解毒湯は冷ます作用を有しています。すなわち、温めて冷ますという面白い薬理作用を持った薬なのです。四物湯に含まれている生薬の作用をみてみますと、末梢血管拡張とか抗血栓とか抗凝固などの作用を有しています。

池田

どちらかというと血行を良くするほうですね。

寺木

そうですね。一方、黄連解毒湯には抗炎症、抗アレルギー、降圧作用などを有する生薬が入っていて、炎症を抑えるように働く成分が多いのです。それを合わせて飲むことによって、末梢の循環障害、循環不全を抑えつつ、同時に炎症反応を抑えるという作用があり、効果を発揮するのではないかと思います。

池田

なるほど、2つの作用で血行を良くしつつ、炎症も止めてと、アクセルとブレーキを両方踏んでしまうようなイメージで面白いと思います。先生は、高齢者で特にほかの疾患がないような場合は温清飲を出されているということですね。

寺木

そうです。

池田

温清飲の効果ですが、漢方薬はゆっくり効くといわれていますけれども、効果の判定はどのくらいの単位で見ているのでしょうか。

寺木

だいたい4週間ぐらい飲むとわかります。

池田

4週間飲んで、再発が止まってくれば有効ということなのでしょうか。

寺木

そうですね。有効であればしばらく継続し、徐々に減量したりします。

池田

4週間で変わらなければやめてしまうのですね。

寺木

そうですね。

池田

逆に、効果を感じた場合、どのくらいの期間、処方されるのですか。

寺木

当分の間は飲んでいただきます。副作用はあまりありませんから。

池田

副作用が少ないから気楽に飲んでくれという話ですね。多分個人によって再発するサイクルは違うと思うのですが、これ、温清飲が効いたなという場合は、もう再発しないのでしょうか。

寺木

温清飲が効くのは、点状出血がよく見られる比較的フレッシュなタイプが多いです。色素沈着が主体の古いタイプにはちょっと効果が弱いです。

池田

完全に色がついてしまって、新しいものもあまりよく見えないような状態では、あまり効果がないということですね。

寺木

はい。フレッシュなタイプには比較的よく効いて、跡形もなく引くこともあるのです。

池田

では最初の出始めのときにしっかり飲んでおいたほうがいいということですね。

寺木

そうですね。

池田

難しいですね。先ほど先生がおっしゃっていたように、最初は自覚症状がないことが多くて、気づいたら茶色になっていたという感じですよね。そうすると、早く来てくれたらよかったのに、という感じになるのでしょうか。それでも飲んでいただくのは意味があることなのですよね。

寺木

そうですね。ほかに何もないですし、弾性ストッキングをはいて温清飲を飲んでもらいます。

池田

自覚症状も大したことなくて、色がついているだけだと、まあいいかという方が多いですよね。

寺木

ちょっと色がついているだけならいいのですが、広範囲に皮疹が見られる方もいらっしゃいます。そういう方は治療します。

池田

やはり範囲が広いと人に見られる機会も多くなりますよね。

寺木

そうですね。

池田

最近、スーパー銭湯などがはやっていますから、気軽に行けないという方も多いのでしょうね。

寺木

そうですね。

池田

ありがとうございました。