池田
帯状疱疹後?痒についての質問ですが、こういった方はけっこういらっしゃるのでしょうか。
石氏
帯状疱疹の場合、帯状疱疹後神経痛が非常に有名だと思うのですが、実は帯状疱疹後?痒といって、帯状疱疹の後に痒みを誘発する方が意外に多く、80%の方が痒みを生じていることが報告されています。ただ、おそらく人間にとっては痒みより痛みのほうが重要であり、また痒みというのは痛みでマスクされてしまいますので、痛みと痒みが同時にあると痒みを感じにくい、報告しにくいということがあります。問題になって訴えられる方は痛みがメインですが、中には痒みが残ってしまって、非常に苦渋して、つらい方もけっこう経験します。
池田
痒みと痛みの伝導経路について、いろいろなディスカッションがありますが、以前だと刺激の弱いものが痒みで、強くなると痛みになる。最近になると経路が違って、痒み経路、痛み経路があるとされていますが、現時点においてどのように理解されているのでしょうか。
石氏
先生がおっしゃられるように、昔は痒みと痛みは同じ経路で、痒みは痛みの弱いものといわれていましたが、痒みの刺激をどんどん強くしていっても痛みに変わらなかったということで、違うのではないかといわれてきて、数年前に実は痒みと痛みは別々の経路で伝達されることが明らかになりました。ただ、最近はさらに痒みと痛みを共通して伝達する経路がまた発見され、今は別々で伝達されているのか、共通で伝達されているのかわからないという状況になってきています。
池田
また混乱のときになってしまったのですが、痒みを訴える帯状疱疹の方というのは、最初は痛がゆいという感じなのでしょうか。
石氏
基本的には痒みと痛みは同時に生じるということがわかっていて、ほとんど併存しているのですが、痒みと一口に言ってもいろいろな痒みがあります。むずむずする痒み、虫に刺されたような痒み、痛がゆいとか、あと焼けるような痒みとか、いろいろあるのですが、特に帯状疱疹後に誘発される痒みに関しては、キックリングといって、むずむずするような痒みを訴えられる方が多いことが報告されています。これが帯状疱疹後の痒みの特徴の一つと考えられています。
池田
神経痛もあるし、痒みもあるとなると、まずは抗ウイルス薬を使って治療したりしますよね。そして、痛みは取れたのだけれども、痒みが残るということもあるのでしょうか。
石氏
そうですね。先生がおっしゃられるように、痛みが取れて、最後に痒みに変わってきたという方が実際には多いような気がします。
池田
痒みが発生する方に何か特徴、傾向はありますか。
石氏
実際の報告では、年齢や性別、基礎疾患の有無などで特に痒みの発症に差はありませんが、帯状疱疹後の痒みが残りやすい場所、発生しやすい場所は顔であることがわかっています。実際に私も診療していて、顔の帯状疱疹後に痒みを訴えられる方が非常に多いと思います。あともう一つは、痛みの程度が強い方ほど痒みが起こりやすいことがわかっていますので、重症な方ほど帯状疱疹の痒みが残りやすいのかなと思っています。
池田
神経の変性が強い方のほうが、痛みはもちろん、痒みも生じやすいという、単純な考えですね。
石氏
おっしゃるとおりです。
池田
痒みに対しても痛みと同じように治療されるのでしょうか。
石氏
実は帯状疱疹後の痒みというのはメカニズムがほとんどわかっていないのです。先ほど先生から質問いただいたように、痛みと痒みの伝達経路は違うとか、同じとかといわれているのですが、帯状疱疹後の痒みに関してはメカニズムがほぼ似ているのではないかと考えられています。さらに、これも皆様ご存じかもしれませんが、人間には内因性に痛みを抑制する、体に備わった下降疼痛抑制経路というのがありますが、実はそれは痒みにもありまして、その点で痛みと痒みはほぼ同じと考えられているのです。なので、帯状疱疹後神経痛を治療する際に、痛みをブロックしましょうという治療戦略と、痛みの下降抑制系を頑張って活性化させて痛みを抑えましょうという2つのストラテジーが取れるのですが、帯状疱疹後の痒みに関しても同じようなかたちの治療方針が取られています。なので、基本的には帯状疱疹後神経痛の治療、有名なところでいうとガバペンチノイド、いわゆるガバペンチンやプレガバリンなどを使ったガバペンチノイドや抗うつ薬など、帯状疱疹後神経痛の治療を帯状疱疹後?痒に用いることが多いです。
池田
ちょっと皮肉な質問になるかもしれませんが、痛みと痒みが併存している状態でガバペンチノイドなどを使って痛みが取れてしまうと、逆に今度?痒が目立ってきますよね。それでも同じ薬でいくのでしょうか。
石氏
基本的にはそういうかたちで続けることが多いのですが、それでもなかなか治療が難しい方はペインクリニックに紹介して、神経ブロックをしたり、レーザー治療や高周波治療を検討していただく方が多いと思います。
池田
顔面に?痒が残りやすいということなので、星状神経節ブロックなどを行うのですか。
石氏
そうです。
池田
痛みの治療ではすごく有名になっていて、ブロックもいいのではという話なのですが、痒みに関してどのように説明されるのですか。
石氏
私も先ほどの発生機序を患者さんに説明して、神経が壊されることによって痛みや痒みが生じてしまい、治癒過程や炎症の過程で、痛みは何とか取れても、どうしても損傷している痒みの神経の修復が十分ではないので、今度は集中的に痒みの神経を抑える治療をしましょうと紹介することが多いです。
池田
ペインクリニックの医師は痛みに関してはよくご存じだと思うのですが、最近では痒みに関しても認知されているのでしょうか。
石氏
いいえ、ペインクリニックの医師は同じ機序ということをご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思いますので、そういったときは紹介状に細かく「こういった治療をお願いします」と書くことが多いです。
池田
そうでしょうね。あまりピンと来ないですものね。そこまで治療が必要になる方は実際、どのような症状になっていくのでしょうか。
石氏
基本的に非常に痒みの強度が強い方が多いのと、あと痒みの異常感覚、いわゆる痒み過敏という状態を呈してしまっている方が非常に多いです。先ほど紹介したように、帯状疱疹後?痒は顔にすごく多いのですが、通常は髪の毛が当たってもそんなに痒くないけれども、帯状疱疹後?痒の方は皮膚に触れたり、髪の毛が当たったりするのにすごく敏感であったり、あとは風が吹いただけでも、それですごく痒みを感じてしまう方が多いのです。それを専門的にはアロネーシスやハイパーネーシスといって、いわゆる痒み過敏の症状を呈してしまって、これにお困りの患者さんが非常に多いです。
池田
そんなに軽度な刺激で痒みを感じていると、外へ出られなくなりますよね。
石氏
特に寒さでそういった痒みの症状が増す方が多いので、冬は外を出歩かれるのも非常に苦渋される方も多く、来院される方も帽子をかぶってこられたり、コロナ禍の前からマスクをされている方が多い印象があります。
池田
帯状疱疹後の神経痛の過敏な痛みがありますよね。それの痒み版みたいになっていくのですか。
石氏
はい。帯状疱疹後神経痛はアロディニアとか異痛症といって、髪の毛が当たるだけでも痛がってしまう方も多いと思うのですが、その痒みバージョンで、痒くて痒くてしょうがない状態になってしまいます。
池田
何かあるとすぐかいてしまうのですね。
石氏
そうなのです。本当はそういった帯状疱疹後?痒がない普通の方は、たび重なってひっかけば痛みとして認識して、途中でひっかくのをやめるのですが、帯状疱疹後?痒の方はそれを痛みとして認識できず、より痒くなってしまいます。過去の報告ですと、本当に頭をかき壊して骨が見えてしまうほどかいてしまう方がいるぐらい、途中でやめる機構、抑える機構も破綻してしまっていると考えられているので、頭では「かいてはだめ」とわかっていると思うのですが、やめられない方が非常に多いという印象があります。
池田
QOLはとても下がりますね。
石氏
おっしゃるとおり、特に帯状疱疹後?痒だけではありませんが、アトピー性皮膚炎の方でも、非常に強く長く続く痒みは、痛みより我慢できないという方が多いように、帯状疱疹後?痒の方もなかなかいい治療がない分、非常にQOLが下がる方が多い印象があります。
池田
そういう患者さんがいらっしゃることを頭に入れて、最初に「ちょっとかゆいんだけど」と言っても、「まあ大したことないよ」などというようなことを言わずに、「じゃあしっかり治療していきましょうね」と言わないとだめですね。
石氏
そうですね。そういう一声をかけていただくと、より患者さんも「実はかゆいんです」と訴えやすいかもしれないですね。
池田
どうもありがとうございました。