ドクターサロン

池脇

腎機能というのは糸球体ろ過量を指していると思いますが、指標のパラメーターとその特徴について教えてください。

鶴岡

臨床で一番使われているのは血清のクレアチニンの濃度そのものだと思います。ところが、クレアチニンの濃度というのは、先ほど先生がおっしゃいました糸球体ろ過量(GFR)が1/3とか1/4ぐらいまで下がっていかないとあまり変化が出ない。逆に、かなり悪くなっていくと急激に上がってくるので、一般臨床で見ていらっしゃるような中等度までの腎機能障害の方を評価するには、血清のクレアチニンの濃度というのは非常に使いにくい、変化が見にくいという欠点があります。ですので、また別の方法で、GFRを評価する方法が幾つか昔から開発されています。

池脇

それがいわゆるクレアチニンクリアランスと日本腎臓病学会が出したeGFRの2つになりますが、いいところ、あるいはちょっと気をつけたほうがいいところ、それぞれどういう特徴があるのでしょうか。

鶴岡

まず昔から使われているのがお話しされていた内因性のクレアチニンクリアランスという指標になります。これを測るときには蓄尿して、尿中、血液中のクレアチニンの濃度、それから尿量を測って計算します。ですので、血清のクレアチニン濃度だけではなくて、蓄尿が必須になるのです。もちろん、血清クレアチニン濃度単独よりはかなり鋭敏ではありますが、蓄尿しなければいけないという大きな欠点があります。それを補うというか、克服するために、先ほどお話が出た幾つか簡便な式が報告されています。

一つはクレアチニンクリアランスそのものの簡便式というもので、有名な指標はコッククロフト式という計算式です。これを使うときには、血清クレアチニンの濃度は測りますが、あとは体重や年齢といった臨床指標だけで、蓄尿が不要という利点があり、昔から使われていました。

池脇

確かに、以前に比べるとあまり蓄尿はしなくなったように思いますが、どうなのでしょうか。

鶴岡

ご指摘のとおりで、本当はやったほうがいいと私たちは思っていて、専門の施設ではやるのですが、一番の問題は感染対策が問題になっていて、専門医がいない施設はなるべくやらないようになっています。また、患者さんに蓄尿をお願いするのは難しいこともあって、今はなるべく行わないように変わってきています。

池脇

簡便なコッククロフト式は、年齢と体重が入っているので、高齢の方や肥満の方に多少誤差が出てくるのが懸念点なのでしょうか。

鶴岡

おっしゃるとおり、クレアチニン濃度そのものが筋肉量を反映するものなので、筋肉の少ない方の場合に問題になります。逆に筋肉が多すぎる方でももちろん問題になります。例えば、すごく運動をしている方やプロテインを摂取している方などの場合も問題になってくる欠点があります。

池脇

手間を省いて簡便だからこそ少し注意しないといけない点は、どんなものにもあると思いますが、こういう簡便な推算をするようなパラメーターに関しても、そこはやはり注意しないといけないということですね。

鶴岡

そのとおりだと思います。

池脇

最近よく見られるeGFRですが、これはどうなのでしょうか。

鶴岡

これはクレアチニンクリアランスの式の欠点を克服するために開発されたもので、精度としてはコッククロフト式よりはよいとされています。ただ、体格が非常に小さい方、非常に大きい方に関してはまだだめです。

池脇

基本的な質問ですが、クレアチニンクリアランスの単位というのはmL/min、このeGFRの単位はmL/min/1.73㎡ということで、これは体表面積が1.73㎡の人でこうですよ、という指標なのですか。

鶴岡

それはすごく重要なところで、糸球体ろ過量、つまり原尿がどのくらいできるのかを腎機能の指標としているのですが、例えば同じように毎分100㏄の原尿ができると仮定しても、100㎏の人でそれが出るのと、10㎏の人で出るのでは、全然腎機能の意味合いが違ってきます。そのため腎機能の評価という場合には必ず糸球体ろ過量、つまり原尿のできる量を必ず体格で補正することになっています。ですので、クレアチニンクリアランスにしても実は最後に体表面積補正したものが、その方の正確な腎機能を表しているのです。

池脇

体表面積1.73㎡とはどういう体格の人なのかと思って調べたところ、身長170㎝の方で体重63㎏、160㎝で70㎏ということで、いつも外来で見ている、例えば高齢の特に女性の方とは対極の体格ですね。

鶴岡

おっしゃるとおりです。

池脇

それはまさにeGFRがその人の糸球体ろ過量を物語っているかどうかは慎重に、ということなのでしょうか。

鶴岡

そのとおりです。筋肉が少ないお年寄り、女性、それから麻痺がある方もいらっしゃると思いますが、そういう方の場合には非常に注意が必要になってきます。

池脇

そういうことを頭に入れたうえで、実際に薬を使う場面において、特に腎排泄性の薬の場合には腎機能によって量を調整しないといけません。私も幾つか添付文書を見たのですが、クレアチニンクリアランスがこうだったらこうしましょうという記載が多く、一部eGFRでもそういう記載があって混在しているように思いますが、どうなのでしょう。

鶴岡

それはその薬が開発された時期、年代によるのです。コッククロフト式は20年、30年近く前からありますが、eGFRの推算式ができてからまだ10年そこそこです。そのため新しい薬に関しては治験のときの腎機能層別のeGFRをもとにしていることが多く、それに対して昔からの薬に関しては、まだeGFRが開発される前なので、おそらくはコッククロフト式のクレアチニンクリアランス推定式によって層別したということだと思います。

池脇

どちらがいいというのではなくて、その薬が開発されたとき、データを作るときに何を使ったかがそのままダイレクトにそこに反映されているだけだということですね。

鶴岡

そう考えていいと思います。

池脇

おそらく今の段階ではクレアチニンクリアランスを使って、このぐらいだったらこうしなさいという添付文書が多い中で、これはeGFRで代用できないのかという質問ですが、どうなのでしょう。

鶴岡

どちらも最終的にGFRを推定する方法という点では共通ですので、もちろん使うことはできます。ただ問題があって、eGFRというのはもともと薬を投与する目的ではなく、腎機能そのものの評価のためにできた式なので、単位が先ほど言った糸球体ろ過量を標準体表面積である1.73㎡で割った値になっています。一方、投与量をどう評価するかという場合には、体表面積を外した糸球体ろ過量、単位でいうとmL/minを用いるのです。例えば、同じ100mL/minのGFRの方がいるとします。そうすると、可能性は幾つかあって、腎機能は正常、体表面積も標準とぴったりという方もいるかもしれないけれども、一方では腎機能はすごく良いのだけれども体表面積も大きい(または腎機能は悪いが体表面積も小さい)など、いろいろな方がいます。それに対し、薬を投与する量の決定には、体表面積云々は関係なく、糸球体ろ過量そのものと薬の排泄能が相関します。ですので、薬の投与量を評価するときには体表面積補正を外したものに替えていく必要があるのです。

池脇

体表面積を外すとは、その方の身長と体重で体表面積をアプリで求めて、それと1.73の比を取って補正するという作業が必要ということですか。

鶴岡

そのとおりです。eGFRそのもののままではだめだということです。それを先生がおっしゃったような方法で1.73㎡を外すという作業さえすれば、それがCcrそのものとほぼ同じになることになっています。

池脇

最近、eGFRは採血すると自動的に出てきますが、そのまま使うのはよくないですね。

鶴岡

ほかの方の腎機能との比較という点ではそれでいいのですが、薬を投与するときのCcrの代用としてはそのまま使うのはよくないのです。

池脇

Ccrがわかっていればそれを使い、eGFRを使いたいときには体表面積で補正をする必要があるのですね。

鶴岡

そうですね。逆に体表面積を求めてもらって割り算するという作業がありますので、そのままでは使えないということです。

池脇

ありがとうございました。