ドクターサロン

 大西 方波見先生、副腎偶発腫というテーマでお話をうかがいます。
 CT検査などをしていると偶然副腎の腫瘍が見つかることがあるかと思いますが、これを副腎偶発腫と呼ぶのでしょうか。
 方波見 副腎疾患の精査に関連しない目的で行った画像検査で偶然に副腎に腫瘤を認めた場合を副腎偶発腫と呼ぶ定義になっています。
 大西 超音波検査などだと、なかなか見にくいこともあって、やはりCTで見つかることが多いですか。
 方波見 はい。CTは空間分解能が高いですので、やはりCTのほうが信頼性が高いと思います。
 大西 うっかりすると見逃しがちな臓器のような気もするのですが、そのあたり、何かアドバイスはありますか。
 方波見 おっしゃるとおりで、希少疾患と思われがちですが、研究によっては画像検査を行うと、特に70代の方では10%近く検出されるといわれていますので、決して頻度は少なくないことに留意していただくと見落とさないと考えています。
 大西 頭の隅に常に置いておくということですね。
 方波見 はい。
 大西 副腎の腫瘍が見つかると一番気になるのは、悪性だったら困るということだと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
 方波見 転移性腫瘍や頻度は少ないですが、まず最初に原発性の副腎皮質がんなどの悪性疾患をまず除外していただきたいです。特にがんの既往歴があるとか、がんに関連する可能性がある体重減少の有無など、病歴をきちんと聴取するのがスタートだと思っています。
 大西 副腎は転移しやすい臓器なのでしょうか。
 方波見 副腎は、単位組織重量当たりの血流が最も豊富な臓器の一つといわれていますので、この理由で転移が多いと考えてよいと思います。
 大西 がんの種類によって副腎への転移しやすさなどはありますか。
 方波見 肺がん、乳がん、消化器系のがんなど、文献を読むと意外にいろいろな臓器から転移します。特に強調したいのは、早期の場合は片側でも転移があることです。
 大西 原発もまれにはあるわけですね。
 方波見 副腎偶発腫だけを取り上げますと、原発性の副腎皮質がんが数%を占めることが厚生労働省の研究班の調査で報告されています。
 大西 原発を疑う場合はどういった所見があるときですか。
 方波見 一つはサイズです。小さいものですと、3㎝ぐらいの副腎皮質がんの報告があるため、研究班ではこの値をカットオフにしています。そのほか内部が不均一、辺縁が不整など、通常の固形腫瘍と同様の悪性を示唆する所見があれば、副腎皮質がんも念頭に置いていただきたいと思います。
 大西 組織の確定診断というのは難しいかと思うのですが、最終的には画像判断になるのでしょうか。
 方波見 生検は副腎皮質がんの場合、播種のリスクがありますので、基本的に禁忌と考えられています。やはり画像を見て、CT値や、内部の不均一か、造影時のパターンでも内部が不均一にエンハンスされるか等をチェックしますが、一番簡単な指標は腫瘍のサイズです。
 大西 4㎝ぐらいがオペの目標になりますか。
 方波見 研究班では疫学的な調査から3㎝でもがんがあったということから、ガイドラインでは3㎝を超える場合にがんを疑うと記載しています。しかし、欧米では先生がおっしゃるとおり、4㎝です。体格差の影響があるのか、日本では少し小さいカットオフを取っていると思います。
 大西 副腎皮質がんがさらに転移することももちろんあるのですね。
 方波見 あります。
 大西 特徴はありますか。
 方波見 好発臓器は肝臓、肺、骨、リンパ筋です。転移してしまうと、なかなか有効な治療はありません。画像上の特徴としては、右副腎皮質がんの場合、下大静脈に浸潤し、腫瘍塞栓を形成することがあげられます。こういった進展パターンを示すがんはほとんどないと聞いています。
 大西 良性の副腎の偶発腫はどういったものがありますか。
 方波見 良性の場合は、非機能性が一番多く、だいたい全体の7割は非機能性だと思います。機能性腫瘍ではコルチゾール産生腫瘍が最も多く、次いで褐色細胞腫、アルドステロン症です。
 大西 そういったところが主ですね。非機能性というのはホルモン産生は全くしないというか、正常ということでよいのでしょうか。
 方波見 ここが非常に難しいところで、特に軽微ですが自律のあるコルチゾール産生腫瘍に関しては、今でも国際的に合意の得られた診断基準がありません。しかし、デキサメタゾン抑制試験での血中コルチゾールが1.8μg/dLを上回る程度の非常に軽微な場合でも、大規模研究の結果を見ますと、ハードエンドポイントの死亡や心血管イベントが多くなるという結果が複数の論文により示されました。したがって、どこまでをコルチゾール産生腫瘍と考えるか、どういう人にこそ手術をすべきかにつき今後検討が必要です。悪性が疑われる場合の手術適応がかなりはっきり定まっているのとは対照的に、軽微なコルチゾール過剰の場合の手術適応に関するインターナショナルコンセンサスは現在ありません。
 大西 非機能性の場合は、長年見ていて、途中で少しコルチゾールを産生してくるということも、その流れだとありうるということでしょうか。
 方波見 はい。そういうことがいわれています。ですので、ある一定の要件を満たす例に関しては経時的に、例えばデキサメタゾン抑制試験でフォローしていくというガイドライン上の推奨はあります。
 大西 非機能性の場合は一般的には予後は良好と考えてよいでしょうか。
 方波見 ほとんど悪性転化はないと思います。特にlipid rich adenomaで、単純CTで内部のCT値が10ハンスフィールドユニット未満、腫瘍径が4㎝未満、形態が良性に合致する腫瘍の場合は、ヨーロッパのガイドラインなどではその後のフォローは不要とするものもあります。ただし、CT値が10を超える場合やサイズが2㎝ぐらいある場合などでは、経時的にホルモン産生能を示したり、増大する例はあると思います。
 大西 非機能性の場合も、片側性の場合と両側性の場合があるのでしょうか。
 方波見 両側性は私たちが思うよりも多くて、10%強ぐらいはあるといわれています。
 大西 何か違いはあるのですか。
 方波見 片側性に比べて両側性のほうがコルチゾール産生能が高い例が多いという報告はあります。これはホルモン値が2つの腫瘍の産生量の和として測定されるので、おそらく片側性よりもコルチゾール産生腫瘍の頻度が高くなるのだと思います。しかし、どっちを摘出すべきか、どっちからどのくらいホルモンを産生しているかの判定は困難です。アルドステロン症の副腎静脈サンプリングのような、わかりやすい局在判定の指標は確立されていません。
 大西 遺伝的な背景はあまり関与はないですか。
 方波見 両側性びまん性副腎過形成や褐色細胞腫ではかなりの頻度でgerm lineの病的バリアントが検出されます。またアルドステロン産生腺腫、コルチゾール産生腺腫では体細胞のレベルでの病的変化が存在することがわかってきました。
 大西 非機能性と一口に言っても、なかなか慎重な対応が求められるということですね。
 方波見 そう思います。おっしゃるとおり、機能的側面と形態学的な側面から腫瘍を評価して、その後の治療や管理の方針を個別化して決定することが大事になります。
 大西 どうもありがとうございました。