ドクターサロン

 山内 最近は虫垂炎、憩室炎は特にCT等の画像診断でもかなりよくわかるようになっていて、こういったものが現場の診療に与えた影響もかなり大きいかと思われますが、そうはいっても、治療方針決定には症状が大きくかかわると考えてよいのでしょうか。
 小林 かなり画像診断が進んできているので、CT等で虫垂炎、憩室炎がほぼ診断できるようになっています。もちろん、腹部症状はすごく大切だと思いますが、画像診断はたいへん進んでいるので、そこをプラスして一緒に診断をしていく。そうすることによってある程度の重症度等がわかるかと思います。あとは採血で、白血球、好中球、CRPの所見で炎症反応がどうかをしっかりと見ていくことが重要かと思います。
 山内 CT画像などで腸の壁が肥厚しているとか、そういったニュアンスでレポートが返ってくることがありますが、こういったもので重症度はどこまでうかがうことができるのでしょうか。
 小林 腸管壁の肥厚よりも、その周りの脂肪織濃度の範囲が広ければ炎症の範囲が広い、狭ければ炎症の範囲が狭いという判断ができますので、脂肪織濃度の範囲を見極めるのが一つだと思います。あとは、憩室炎にしても虫垂炎にしても、穿孔していれば全然話が別で、やはり手術に持っていかなければいけない、ドレナージしなければならなくなりますので、free airの有無を確実に見る必要があると思います。
 山内 重症になれば入院加療になるのですが、そこまでではないケースでも、原則としては入院加療と考えてよいのでしょうか。
 小林 それが一番安全だと思います。ただ、どうしてもその日入院できない等、いろいろな事情があると思いますし、かなり軽症である、限局したところにしか腹部の症状がないなど、炎症反応がそれほど高くないということであれば、外来等で1~2日様子を見て、症状がそのまま落ち着けばいいですし、悪化するようであれば、その時点で入院等ができる施設に送るというのもありだと思います。
 山内 入院になった場合は当然点滴で抗菌薬の投与が可能になりますが、点滴の代表的な抗菌薬の処方はどういったものになりますか。
 小林 虫垂炎にしても憩室炎にしても、腹腔内感染症になるので、ターゲットとしては大腸菌等が代表となる腸内細菌目細菌、あとはBacteroides fragilisや、Bacteroides thetaiotaomicron等の嫌気性菌、この2つは絶対にターゲットにすべきだと思います。あと起因菌となるものには腸球菌があるかと思いますが、それほどビルレンスが高くないですから、そんなにターゲットにする必要はないかと思います。
 そうしますと、腸内細菌目細菌と嫌気性菌をターゲットに抗菌薬選択をしますので、セフェム系ですとセフメタゾールになりますし、軽症であればスルバクタム・アンピシリンも選択肢に上がるかと思います。もう少し広域にということになりますと、セフトリアキソンやセフェピムという薬があり、これらは第三世代、第四世代のセフェム系の薬です。この2つに関しては、嫌気性菌への活性がないのでセフトリアキソンやセフェピムを選択される場合は、抗嫌気性菌活性のあるメトロニダゾールを併用されるのがよいかと思います。
 山内 投与期間は症状改善までと考えてよいのでしょうか。
 小林 そうです。点滴においてはそうなります。症状改善まで、炎症反応が落ち着くまでが多いかと思います。
 山内 ちなみに、平均的なところで何日ぐらい必要ですか。
 小林 1週間ぐらいですね。それでだいたい良くなります。それで良くならない場合は手術に持っていく、ドレナージに持っていくことが必要かと思います。
 山内 投与量としてはいかがでしょうか。
 小林 腎機能や体重などによって変わってきますが、マックスの量は、セフメタゾールなら、体重40㎏ぐらいの人でしたら1回1gでけっこうですが、60㎏以上あるような方は1回2g使うのが正しいかと思います。スルバクタム・アンピシリンでは、40㎏未満であれば1回1.5gでよいかと思いますが、60㎏程度ある方に関しては3gを1回量として使うのがよいかと思います。
 山内 こういったものが、もし外来でも可能ならば、入院できないケースでも、毎日病院に来ていただいて点滴するほうがベターと考えてよいですね。
 小林 そうだと思います。
 山内 ちなみに、虫垂炎と憩室炎では抗菌薬の使い方に変わりはないのでしょうか。
 小林 ターゲットとする菌種が一緒なので変わりません。急性虫垂炎になりますと、Bilophila wadsworthiaなど、その辺の菌も少し関係してくるかと思いますが、Bilophila sppに関しても嫌気性菌の一種ですから、十分にセフメタゾールやスルバクタム・アンピシリン、ほかにもメトロニダゾールで効きますので、投与する薬としては同じで大丈夫です。
 山内 質問に戻りますと、入院させるほど重症感がないケースの場合、経口薬という選択もあるかもしれません。あえて経口薬を使うとしたらどういった選択肢があるかということをうかがいます。
 小林 虫垂炎、憩室炎および腹膜炎に適応がある経口抗菌薬がなく、なかなか難しいというのが正直な印象ですが、ターゲットとする細菌が大腸菌等の腸内細菌目細菌と、嫌気性菌ということを考えますと、経口薬ではクラブラン酸アモキシシリンが一つ選択肢になるかと思います。スルバクタム・アンピシリンの錠剤もありますが、スルバクタム・アンピシリン、アンピシリンは腸管吸収がすごく少ないので、アンピシリンを使うのだったらアモキシシリンを使うべきですので、やはりクラブラン酸アモキシシリンがいいかと思います。
 ほかの薬で考えますと、もちろんセフェム系の薬がたくさんあります。腸内細菌目細菌等で考えますと、第三世代セフェム系が一つ選択肢になるかと思います。セフカペンやセフジトレン、あとはセフポドキシム、セフジニルというものがありますが、第三世代のセフェム系というのはすごくバイオアベイラビリティが低く、セフポドキシムで50%ぐらいといわれています。セフジニルやセフジトレンですと20%、またはそれ以下になってくるので、なかなか経口の第三世代セフェム系で有効性を出そうと思うのは難しいかと思います。ただ、これらを使うのであれば、抗嫌気性菌活性がありませんから、メトロニダゾールをプラスしてあげるのが一つの選択肢になるかと思います。
 あとは外来ですと、ニューキノロン系薬の経口薬もよく使われると思います。ですので、そういったレボフロキサシンなどのキノロン系薬にメトロニダゾールをプラスする。レボフロキサシンには抗嫌気性菌活性がありません から、ここにメトロニダゾール、抗嫌気性菌活性のある薬を足していくのも一つの選択肢になるかと思います。レボフロキサシン、ニューキノロン系の経口薬はバイオアベイラビリティがたいへん高いですから、セフェム系を選ぶよりもキノロン系を選んだほうが効果としては高いと考えます。
 山内 最近のこの方面のトピックスがあればご紹介ください。
 小林 「JAMA Surgery」という雑誌に、抗菌薬治療への信頼度が虫垂炎の予後に影響するという論文が出ました。400人ぐらいの虫垂炎患者に対し経口抗菌薬を処方して、その後どうなったかを調査したものです。手術になった人と手術をせずに経口抗菌薬で治った人の差なのですが、抗菌薬で治療が成功すると信じている人は、抗菌薬での成功例が倍ぐらい多いというデータが発表されています。気持ちだけで予後が変わるというのはなかなか信じがたいところもあるのですが、一応そのようなデータが「JAMA Surgery」誌で2022年10月に発表されています。外来で治療されるときにしっかりと患者さんにリスクをお話ししなければいけませんが、抗菌薬で治る可能性も高いですという話をされて、信じていただくと成功する率が高くなるというのがこの論文の一つの趣旨になるかと思います。
 山内 この薬で治るんだよということを強調するのですね。
 小林 はい。
 山内 いずれにしても、経口薬の場合は治療に限界があるということを常に念頭に置くのが大事ということですね。
 小林 そう思います。
 山内 どうもありがとうございました。