大西
髙橋先生、まず、先端巨大症の有病率、男女差、診断時の年齢などについて教えていただけますか。
髙橋
有病率は、日本のデータでは10万人当たり9.2人という報告があり、日本ではおおよそ1万人前後の患者数と考えられています。それから、この疾患は指定難病になっていて、例えば令和2年度の指定難病の申請者数は4,613名ですが、もちろん全員が申請されているわけではないので、このデータからは実際は数千人から1万人ぐらいという患者数ではないかと推測されます。男女差は特にありません。年齢は平均45~50歳ぐらいで診断される症例が多いのですが、小児の場合は巨人症になりますので、小児期に身長が過剰に伸びて発見される場合もあります。
大西
この病気の病態について教えていただけますか。
髙橋
この疾患のほとんどは下垂体における成長ホルモンを産生する腫瘍によって起こります。成長ホルモンが過剰になると、肝臓や骨などでIGF-Ⅰという増殖因子が産生されます。この成長ホルモンとIGF-Ⅰの過剰によって様々な症状が起こるのですが、小児期の場合には身長が過剰に伸びますし、大人では身長は伸びないのですが、例えば手足が大きくなったり、あるいは、いわゆる先端巨大症様顔貌という眉弓部と呼ばれる部分のおでこが突出したり、鼻が大きくなったり、下顎が突出したりという特徴的な顔貌を呈します。また、代謝面でも糖尿病や高血圧が起こりやすくなりますし、軟部組織の肥大で睡眠時無呼吸症候群などを呈します。
大西
診断のプロセスですが、特徴的な症状がかなりあるということで、検査ではどういったことをされますか。
髙橋
この先端巨大症を疑った場合には、まず成長ホルモン(GH)、それからIGF-Ⅰ、これはソマトメジンCとも呼ばれますが、この2つのホルモンを測定することが重要です。GHは、正常な方の場合は脈動性分泌があり変動しますが、先端巨大症ではそれが高くなるのが特徴なので、比較的高値の場合にはそれで診断できる場合もあります。ただ、IGF-Ⅰは日内変動がなく、さらに成長ホルモンの作用を定量的に評価できる値なので、成長ホルモン、IGF-Ⅰがいずれも高値の場合には先端巨大症の可能性が極めて高いということになります。IGF-Ⅰの評価の注意点としては、インターネットで検索していただければすぐ出てくると思うのですが、年齢、性別ごとの正常値を確認して高値かどうかの判断をすることが重要になってきます。
大西
画像検査なども進歩しているのでしょうか。
髙橋
原因のほとんどは成長ホルモン産生の下垂体腫瘍とお話ししましたが、下垂体腫瘍を疑った場合には、脳全体ではなく、下垂体MRIというオーダーで撮っていただくことが重要です。その場合に、腫瘍を同定するためには造影が重要で、T1強調画像でガドリニウム造影をすると、正常な下垂体は血流が多くて白く写るのに対して、腫瘍は血流が少ないので黒っぽい塊として写り、正常下垂体と区別できる場合が多いです。特に大きな腫瘍の場合は造影しなくてもわかる場合もありますが、ミクロアデノーマといわれる小さな腫瘍の場合は造影することによって、初めて診断できる場合もあるので、疑った場合、基本的には下垂体MRIを造影で撮って、T1強調画像で判断します。
大西
合併症に悪性腫瘍などがあるとうかがっていますが、そのあたりを教えていただけますか。
髙橋
GH、IGF-Ⅰというのは、基本的には増殖因子で、多くの細胞の増殖を刺激することがわかっています。ただ、いわゆるヒトの場合にあらゆる腫瘍が増えるかというと、そうではなく、今のところ疫学的データから明らかなのは、一つは大腸ポリープ、大腸がんの増加、それから甲状腺の腫瘍、甲状腺がんも増えるといわれているので、先端巨大症を診断した場合には少なくとも大腸ファイバーと甲状腺のエコーは必ず行います。それ以外の腫瘍に関しても少し増えるかもしれないという疫学データはあるのですが、一般的な注意で問題ありません。
大西
心臓への負荷や睡眠時無呼吸症候群など、幾つか関連があるそうですが、そのあたりはいかがですか。
髙橋
GH、特にIGF-Ⅰに心臓、心筋細胞に対する強い作用があるのです。その刺激作用によって初期には心肥大が起こり、いわゆるhyperkineticな状態になります。それが続いてくると心筋が傷害され心不全をきたすことがあります。昔はacromegalic heartといって、心筋症のようになって、ひどい心不全をきたす患者さんもいたのですが、最近は早期に発見されることが多くて、そのような深刻な心不全をきたすことは少ないです。ただ、初期でも左室肥大などはかなり認めるので、やはり早期発見して、必要に応じて適切に治療する。すなわち、ホルモンを正常化するとともに、高血圧や糖尿病などの心不全に対するリスク因子に関しても適切に治療することが非常に重要です。
もう一つ、睡眠時無呼吸症候群ですが、60~70%の患者さんで合併します。特に女性でいびきをかくことがきっかけで発見される場合もあります。睡眠時無呼吸症候群は男性、女性を問わず重要な合併症であり、二次的な高血圧をきたしたり、様々な心血管リスク増加にもつながりますので、適切に診断し、ホルモンを正常化することも重要ですし、必要に応じてCPAP等の治療を行うこともあります。
大西
それでは治療をうかがいたいのですが、やはり第一選択は手術になるのでしょうか。
髙橋
基本的には良性腫瘍ですし、手術で完全に摘出できれば治癒が期待できます。治療の基本は手術療法ですが、先端巨大症の特徴としてはマクロ腫瘍といわれる比較的大きな腫瘍で見つかる場合が多いです。大きな腫瘍で海綿静脈洞に浸潤している場合には、手術で全摘が難しい場合もあります。ですから、基本的には手術でできるだけ摘出した後、それでも腫瘍が残ってホルモンの異常がある場合は、ホルモンそのものの過剰によって様々な合併症を起こして生命予後が悪くなることがわかっているので、薬物療法でホルモンの是正を行うのが基本的な考え方です。
大西
主な薬物療法にはどういったものがあるのでしょうか。
髙橋
先端巨大症の薬物療法の標準的治療はソマトスタチンアナログです。ソマトスタチンというのは内因性のGH分泌を抑制するホルモンですが、そのアナログ製剤で半減期が長いものを用います。GH産生腫瘍にはソマトスタチン受容体のSST2とSST5という2つのタイプがありますが、標準的治療はSST2に主に作用する第一世代のソマトスタチンアナログを用います。オクトレオチドとランレオチドという2種類があり、いずれも徐放製剤で、月に1回注射するという治療です。最近は第二世代のSST5に作用するパシレオチドも出てきて、これは第一世代に抵抗性の腫瘍に対してもかなり効果があることがわかっています。ですので、標準的な治療としてはソマトスタチンアナログの第一世代で治療し、それが効きにくい場合には第二世代を使うとなっています。
また、それ以外には経口薬としてドーパミンアゴニストのカベルゴリンがあります。カベルゴリンそのものは保険適用ではないのですが、高プロラクチン血症を伴っている場合には適用になっていて、このカベルゴリンによって軽度のGH、IGF-Ⅰの上昇の場合には経口薬だけで治療できる場合もあります。
それから、もう一つ別の機序の薬としては成長ホルモン受容体拮抗剤というものがあります。注射製剤で毎日注射が必要ですが、注射することによって成長ホルモン作用をしっかりブロックすることができます。そして場合によってはこれらの薬剤を組み合わせてホルモンを正常化するのが薬物療法の考え方です。
大西
どうもありがとうございました。