ドクターサロン

池田

浅田先生、帯状疱疹ワクチンについての質問ですが、その前に少しうかがいたいことがあります。最近帯状疱疹の患者さんが増えているのではないかという話が出てきていますが、これは新型コロナウイルスやワクチンとの関係があるのでしょうか。

浅田

帯状疱疹の患者さんは確かに増えてきています。疫学データから右肩上がりで増えてきているという報告があります(図1)。ただ、最近、新型コロナの影響で帯状疱疹が増えているのではないかというお話をうかがうことも多いのですが、これに関しては今のところはっきりしていません。外山先生らが宮崎県で大規模な疫学調査を進めておられますが、そのデータからは特に新型コロナがはやりだしてから増えているというわけではなく、もっと以前から右肩上がりで増えてきており、その傾きは新型コロナの流行以降もあまり変わっていないとおっしゃっていました。

帯状疱疹が増加してきている要因の一つとして、2014年に水痘ワクチンが子どもに定期接種されるようになって水疱瘡の流行が激減したことがあげられます。水痘ワクチンの定期接種化を境にして帯状疱疹の発症率が確かに上がってきているというデータがあります。特にお子さんと接する機会が多い20~40代の子育て世代の帯状疱疹の増加が目立っています(図2)。

池田

帯状疱疹になる高齢者はすでに体の中に水痘のウイルスが入っていますね。そして、小児が水痘になると、その水痘を吸い込み、それで免疫がブーストされるというイメージなのでしょうか。

浅田

おっしゃるとおりです。身の回りに水痘の流行があるたびに水痘ウイルスに暴露される。すでに免疫をある程度持っているので水痘にはかからないのですが、ウイルスに暴露されるたびに免疫が上がって、体の中に潜んでいるウイルスの活動を抑えてくれて、帯状疱疹にはならないで済んでいると考えられます。

池田

では新型コロナウイルス関連というよりは、小児の水痘ワクチン接種のほうの影響が強いのではないかと、そういう考えですね。

浅田

そのとおりです。近年、帯状疱疹が増えてきているもう一つの大きな理由は、やはり高齢化してきていることがあげられます。帯状疱疹は高齢者に多い疾患ですので、人口あたりの高齢者の割合が大きくなるほど患者が多くなります。

池田

高齢化と水痘ワクチンですね。先生方がいろいろ調査されて、帯状疱疹になりやすい人というのを報告されていますが、最近新型コロナのことで抗体や細胞性免疫など、報告があるなかで、実際に帯状疱疹になりやすい方はどういう状態になっているのでしょうか。

浅田

高齢者になればなるほど帯状疱疹になりやすいというのはわかっているのですが、実際、小豆島でたくさんの人についてこのウイルスに対する免疫を調べてみたところ、ウイルス特異的な抗体はあまり変わりがないのですが、ウイルスに対する細胞性免疫、すなわちT細胞性免疫は加齢に伴ってどんどん低下してくるというデータが出ました(図3)。それによりウイルスに対するT細胞性免疫が帯状疱疹の予防には非常に重要であるということがわかっています。

池田

新型コロナと同じように抗体ばかり調べていても意味がないのですね。

浅田

おっしゃるとおりです。やはり細胞性免疫が重要だと思います。

池田

ちなみに、細胞性免疫はどのように調べたのですか。

浅田

私たちが小豆島で使ったのはウイルス抗原を用いた皮内テストです。結核の判定に使うツベルクリン反応と似たようなテストなのですが、水痘ウイルスの抗原成分を皮内注射して、48時間後に生じた赤みの大きさで免疫の強さを判定します。現在は、残念ながら皮内テスト用の試薬が製造中止になっていますが、非常に簡便にできる検査です。それ以外にはあまり手軽にできる検査法はありません。研究室では患者さんの血液から単核球分画を分離して、それにウイルス抗原を加え、インターフェロンγを産生するT細胞数を調べたりすることもあるのですが、どこででもすぐにできる検査ではありません。

池田

いわゆる帯状疱疹に対する細胞性免疫を調べる方法は今のところ一般的でないということですね。

浅田

はい。そのとおりです。

池田

ちょっと残念な感じがしますね。そこで帯状疱疹のワクチンということになるのですが、これは2種類あるとうかがいました。それぞれの特徴やどのような方に使うのかを教えていただけますか。

浅田

一つは水痘の生ワクチンです。子どもさんの水痘予防に使われているワクチンと全く同じものです。もう一つは「シングリックス」というサブユニットワクチンで、ウイルス表面の抗原の一部にアジュバントを加えたものです。この2つのワクチンはかなり大きな違いがあります。

まず安全性に関しては、水痘生ワクチンのほうは子どもさんに30年以上前から使われている非常に長い歴史のあるワクチンで、副反応はほとんどの場合、局所の発赤程度ですので、あまり問題になることはありません。一方、サブユニットワクチンのほうはアジュバントが入っていますので、局所の赤みや腫れは強いことが多く、発熱や頭痛などの全身症状も約6割の人にみられます。どちらかというと生ワクチンのほうが安全であるということになります。

一方、効果については、サブユニットワクチンのほうが勝っています。サブユニットワクチンでは帯状疱疹の発症を9割程度予防できます。生ワクチンのほうは発症予防という面では半分ぐらいの効果です。重症化予防という意味ではもっと高いのですが、発症予防で見るとかなりの差があります。

池田

生ワクチンは免疫が落ちた方とかには使えないのでしょうか。

浅田

おっしゃるとおりで重要なポイントです。生ワクチンは健常人には安全なワクチンなのですが、免疫低下の患者さんには、弱毒といえども生のウイルスですので、接種してはいけないことになっています。そのため、ステロイドをのんでいる方、あるいは抗がん剤治療をされている方、リウマチや乾癬でバイオ製剤を使われている方などは生ワクチンを接種できません。

池田

気になるお値段はどのくらいでしょうか。

浅田

値段は生ワクチンのほうがだいぶ安いです。施設によって多少違いがありますが、1回接種で7,000~1万円ぐらいです。一方、サブユニットワクチンは2回接種が必要ですので、2回の合計でだいたい4万円の費用がかかります。

池田

ちょっと難しい選択になりますね。帯状疱疹のワクチン接種は50歳以上に勧められていると思うのですが、地域によっては補助金のようなものが出るのですか。

浅田

まだ地域は限られているのですが、名古屋市などのように半額助成をされている自治体もあります。このワクチンは任意接種ですので、基本的には自費で受けることになります。

池田

50歳以上というと、何の病気もない健康な方がけっこういっぱいいらっしゃいますよね。そういう方は帯状疱疹をイメージできず、なかなかワクチンを打たないと思うのですが、50歳というのは何か疫学上の意味があるのでしょうか。

浅田

疫学上では50歳を境に帯状疱疹の発症率が急激に増えてきます。そのようなデータに基づいて、50歳以上がワクチン接種対象者と決められました。健康な方でも、50~80歳の間にだいたい3人に1人が発症しますので、非常にポピュラーな病気であるといえます。

池田

そこで50歳を境にということなのですね。では、帯状疱疹が治癒した患者さんに2回目の発症を予防する目的で接種する場合は、どのくらいの期間空けたらいいのかという質問についてはいかがですか。

浅田

帯状疱疹を発症されたということは、体の中に潜んでいたウイルスが活動を再開したということになりますので、この再活性化したウイルスによる刺激で体の免疫が賦活化されます。すなわち、ブースター効果というのが起こります。これはちょうど生ワクチンを接種したときと同じような状況と考えられます。生ワクチンの予防効果がだいたい5~10年といわれているので、帯状疱疹にかかった人も同じく5~10年、少なくとも5年間はワクチンを接種する必要はありません。帯状疱疹にかかったからといってすぐに打たなければいけないということはありません。

池田

帯状疱疹になった年齢によっては、終生打たなくてもいいことになりますね。

浅田

はい。

池田

今後、皮内抗原を用いた細胞性免疫の検査がどこでもできるようになると、だいぶ接種の仕方が変わってくると思ってお聞きしました。ありがとうございました。