ドクターサロン

池脇

頸動脈の動脈硬化のエコーでの評価という質問をいただきました。私もコレステロールを専門にしていますので、ほとんどの患者さんに1回は頸動脈のエコーをやっていますが、確かにこの質問の石灰化をどうとらえるかというのは、私自身も迷うことがあります。

質問に答えていただく前に、動脈硬化のことを一度おさらいしたいと思いますので、よろしくお願いします。

動脈硬化というのは血管内皮のすき間からLDLが内皮下に浸入し、そこで酸化修飾を受けて、マクロファージがそれを貪食し、泡沫細胞になってというのがいわゆる初期像ですね。そこからいろいろと進展していく中で、質問にある石灰化という現象も起こってくるわけですが、これはどのようなプロセスで起こるのでしょうか。

大門

僭越ながら私の知っている範囲で答えさせていただきます。まず一つは、そういった動脈硬化のリスク因子があると、血管の壁を形成している中膜の平滑筋細胞が傷害されて、骨芽細胞という骨化を進める細胞に形質転換して石灰化が進むというのが考えられています。さらに、もう一つ、もともと中膜というのは石灰化を抑制する因子を分泌して石灰化を予防するという自己防衛の働きがあるのですが、そういった因子が中膜の傷害によって阻害されて、石灰化を防ぐことができなくなって中膜が石灰化していく。この大きな2つのメカニズムがあると理解しています。

池脇

ちょっと話はずれますけれども、よくCTで胸部、腹部を検査してみると、中高年の方で大動脈のところに白い石灰化が見えますが、あの石灰化もこの粥状動脈硬化なのか、あるいはメンケベルグ型の動脈硬化、どちらを見ていることが多いのでしょうか。

大門

CTやレントゲンで写る大動脈の石灰化は、あまり病的意義はないといわれていると思いますが、頸動脈の石灰化とはメカニズムが少し違うのではないでしょうか。太い大動脈に生じるのは非アテローム性のメンケベルグ型の動脈硬化による石灰化です。これは血管が硬くなって弾性が低下しますが、狭窄などはきたさず病的意義は低いと考えられています。これは安心していいのですが、一方で頸動脈に発生する石灰化というのは、アテローム性の動脈硬化、いわゆる粥腫(プラーク)が形成されて、様々な心血管イベントを引き起こします。その中の一つのプロセスとして起こる石灰化ですので、安心してはいけないのではないかと思います。

池脇

まさにそれがこの質問で、頸動脈エコーでプラークの肥厚以外に石灰化がある症例がある。その場合に、動脈硬化は最初は不安定な動脈硬化から安定化する過程で石灰化が出てくると考えていいのか、あるいはやはりちょっと気をつける所見なのか。そのあたり、私自身も「うーん、どっちだろう」と思うことも時々あるのですが、先生は石灰化は注意すべき所見と考えられていますか。

大門

良い面と悪い面の両方があると思います。皆様ご存じのように、動脈硬化で良くないのは粥腫、特にやわらかいソフトプラークです。このような粥腫は線維性皮膜が破綻して内部が飛散し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクになります。一方で、そのようなソフトプラークが生じても、炎症が落ち着いて安定化してくると石灰化に向かうことがあります。ですから、そういった面では治療がうまくいってプラークが安定化してくるプロセスの一つといえると思います。

一方、頸動脈に石灰化があるということは、一つは全身のいろいろな動脈に同じような不安定プラークや動脈硬化が生じている可能性がありますので、頸動脈の石灰化だけ見て病状が安定していると安心してはいけません。むしろすでに動脈硬化が生じていますので、脂質、喫煙、高血圧などの動脈硬化危険因子をしっかりと治療する必要があると思います。

もう一つ最近知られるようになってきたことは、石灰化した頸動脈の病変自体が脳梗塞を起こすリスクがあるということです。これはcalcified cerebral embolism、石灰化様脳梗塞といわれており、脳梗塞の中の全体の5~6%を占めるという報告もありまして、意外と脳梗塞の原因として多く、注意しなければいけません。

池脇

今、先生がおっしゃったように、動脈硬化の最初の時期から安定化修復、修復といったらちょっとおかしいかもしれませんが、その中で出てくる石灰化もあるけれども、初期の病変にはあまり石灰化は出てこない。石灰化がある病変というのはけっこう肥厚の程度も強いし、石灰化以外の変化が何かあって、それ以外の変化というのがむしろリスクを上げているという意味では、石灰化を伴う病変、プラークというのは、総合的には少々リスクがあると考えたほうがいい、という理解でよいでしょうか。

大門

動脈硬化はスタチンなどの薬物治療で安定化してくると石灰化が見られる一方で、石灰化の中には安定化しているように見えて、表面に潰瘍形成や微小な血栓を伴っているような危険な石灰化病変もあります。そういった症例では脳梗塞のリスクが非常に高いといわれていますので、一概に石灰化しているというだけで安心というわけにはいきません。むしろ頸動脈エコーで石灰化を認めた場合、そこの表面に不整な潰瘍形成がないか、石灰化病変の中に低輝度な血栓を疑うような像が混在していないかなどの所見も確認し、その患者さんの脳梗塞のリスク評価や治療に役立てることが重要です。

池脇

そうすると、石灰化をどう評価するかということに関しては、石灰化の局所だけではなく、全体に病変が混在している可能性を、よく注意して見るということが一つですね。

大門

そうですね。

池脇

質問の最後に、なかなか石灰化しない症例とありますが、これはどう考えたらいいのでしょうか。これだけで評価するのは難しいですが、石灰化しにくい病変、これは良いのか悪いのか、どうなのでしょうか。

大門

これも一概にいうのは難しいと思いますが、特にもともとソフトプラークといわれる、中が黒く抜けるやわらかいプラークは、できれば石灰化したほうがプラークの破裂が防げますので、そういった点では良いかもしれません。ただ、一方で、もともと動脈硬化がないところに石灰化が生じてきた場合は、安定というよりは動脈硬化が起きているということですので、石灰化の変化も含めた時間的な経過も見ていただくほうがいいかと思います。

池脇

頸動脈のエコーをやるというのは、高コレステロール血症や高血圧、糖尿病などのリスクを抱えている方の動脈硬化を画像的に評価することになるので、当然何らかの治療をしてこういう評価をされていると考えられます。コレステロールの観点からいくと、スタチンを使っている患者さんで頸動脈エコーで評価する、あるいは経時的に追っていくというケースも多いと思うのですが、スタチンと石灰化に関しては、スタチンが石灰化を促進する、あるいは逆に抑制する。いろいろな報告があるようですが、先生はどのような意見なのでしょうか。

大門

高脂血症や喫煙、高血圧などの危険因子と動脈硬化がもともとあって、そこにスタチンなどの治療によって石灰化が見られるようになるというのは、むしろ病変が安定化しているのではないかと考えています。といいますのは、動脈硬化があって、ソフトプラークなど危険度の高い粥腫が少しずつ安定化していくと石灰化が見られるようになります。以前、私自身が脳神経内科の医師と行った共同研究では、大動脈のプラークを定量化したのですが、スタチンなどで脂質異常症の治療をしっかりすると石灰化が増えるのが観察されました。これはむしろ将来的な脳梗塞などのイベント予防につながる治療効果と解釈しています。

池脇

ただ単に画像での石灰化を評価するだけではなく、その患者さんがどういう治療をされているのか。あるいは、石灰化以外のところにどういう変化があるか。そういったことをすべて包括的に判断するということでしょうか。

大門

そうですね。おっしゃるとおりだと思います。石灰化だけとらえて治療に当たるのではなくて、一つは時系列で治療によりどう変化するか。それから、その周辺の領域にさらにプラークや潰瘍形成を疑うような病変がないか。包括的に動脈硬化をとらえて治療に当たるのが重要ではないかと考えています。

池脇

どうもありがとうございました。