池田 藤本先生、多汗症には例えば、手、足の裏、腋窩、全身とありますが、ソフピロニウムとはどんな薬なのでしょうか。
藤本 多汗症でお悩みの人は、手足や、ほかのところも合併している人などいろいろいますが、まずはわきの下の薬が出てきたということで、今、充実してきています。以前は塗り薬は塩化アルミニウムだけだったのですが、2年前にソフピロニウムが、今年はグリコピロニウムの汗拭きシートタイプの塗り薬が出てきました。保険適用なので、第一選択はその薬を使うようになっています。
池田 ソフピロニウム、グリコピロニウムはわきの下の薬でしょうか。
藤本 今のところはわきの下だけですが、機序から考えるとエクリン汗腺のM3受容体をブロックする薬なので、全身の汗にも効くはずです。ただ、外用薬といっても、塗ると血中に行くので、今のところはわきの下の部位のみ、ということになっています。
池田 以前から塩化アルミニウムの製剤が使われていますが、これは手と足の裏なのでしょうか。
藤本 塩化アルミニウムは物理的に汗腺にふたをするものなので、部位の指定はありません。なので、どこの部位の汗でも使えるのですが、わきの方だと約半数ぐらいの方が使えなくなるというぐらい刺激的なので、その辺が使いにくいですね。薬ではない、院内で作る処置薬というカテゴリーになっています。
池田 汗が出てくるところにふたをするというのは、少し乱暴ですね。
藤本 そうなのです。
池田 ソフピロニウムは抗コリン薬ということですが、例えばわきの下に塗ると、それが汗の腺を通じて入っていくのでしょうか。それとも表皮から中に入っていくのでしょうか。
藤本 これは汗腺を通じてではなく、表皮から入って真皮にある汗腺の分泌部にある受容体にくっつくという構造です。面積が広ければ広いほど、その周りに血管もあるので、血液中に移行するという薬剤です。
池田 特異的に汗腺から入るのではなく、表皮から全体に入っていくのですね。ということは、規定されている用量を超えて広い面積に塗ると危ないのでしょうか。
藤本 そうですね。治験のときも少なからず全身の抗コリン作用が出る例があり、多いのは全身の汗が減る、口が渇く、目がまぶしい、尿閉といった全身への作用も出ます。また、塗り薬の特性で、誤って塗った手で目を直接さわってしまったがゆえの目のまぶしさとか、散瞳というような副作用も見られています。
池田 安易に自分の好きに使うことはかえって危険ですね。
藤本 そうですね。塗り薬は使いやすくて、いろいろな場所に塗りたくなるのですが、そういうことを考えて、用法・用量を患者さんにお伝えすることはとても大事です。
池田 それほどよく効果が出るのですね。
藤本 はい。効果はありますね。
池田 このゲルは1日何回ぐらいつけるのでしょうか。
藤本 1日1回、いつでもいいです。
池田 2回塗ってはいけないということですね。
藤本 そうですね。
池田 例えば患者さん自身のライフスタイルですごく汗をかいてしまう場合は、その前に塗るというイメージなのでしょうか。
藤本 すぐに十分に効果が出るわけではなく、毎日2週間塗ってもらうことで定常状態になるように設計されています。患者さんには急な用事の直前ではなくて、前々から毎日塗ることを伝えてもらうといいと思います。
池田 逆に患者さんが効果を実感するまでに2週間ぐらいかかるという話もしなければいけないのですか。
藤本 そのとおりです。
池田 なかなか難しいですね。患者さんは焦って何回も塗って、早く効果を出そうと思ってしまうでしょうね。
藤本 夏はけっこう汗が出るけれども、秋・冬は少なくなるので、その辺は自分で調節もできるという利点もあると思います。
池田 質問にあるように、症状が全身に出る場合は漢方薬や内服薬があるのでしょうか。
藤本 全身の場合は、今のところは抗コリン薬の内服薬が一番の選択肢と考えます。プロパンテリン臭化物という薬は保険適用です。内服の漢方薬に関しては、経験上、効果にムラがあるというか、効果が乏しいという印象で、人によって、高齢の方や寝汗に効く場合がありますが、若い方の原発性の多汗症にはほぼ効かないですね。
池田 プロパンテリン臭化物はどのようにのむのでしょうか。
藤本 多汗症の人が、四六時中ずっと悩んでいる、困っているというわけではなかったりしますので、その患者さんのライフスタイルに合わせ、プロパンテリン臭化物は5時間ぐらい効く薬なので、お仕事の人は朝・昼にのんだり、たまに人に会う前にのんだり、頓服でのんでいただく方法がいいと思います。
池田 何かのイベントの前にのむということですね。
藤本 はい。
池田 この場合は内服してどのくらいで効果が出るのですか。
藤本 内服後、だいたい1時間ぐらいで効果が出てくるのですが、食事の影響をかなり受ける薬剤なので、食後で効かない場合は空腹時にのんでいただくのがいいと思います。
池田 その辺も指導が必要ということですね。禁忌とか副作用には、どのようなものがあるのでしょうか。
藤本 抗コリン薬なので、緑内障の中でも閉塞性隅角緑内障は禁忌ですので、眼科に一度ご確認ください。あとは前立腺肥大症の方は尿閉になってしまうので禁忌となっています。あとは副作用として、口が渇く、目が乾く、汗も乾く、眠気なども起こることがあるので、事前に指導をお願いします。
池田 車の運転等は危ないですね。
藤本 はい。
池田 もう一つ、塩化アルミニウムについて、我々はよく院内調剤で作っていますが、この質問では市販品とあります。これはどのようなものなのでしょうか。
藤本 世の中には制汗剤がかなりあふれていますが、塩化アルミニウムの成分を含んだ製品が主なものです。ただ、濃度が低かったりすると、多汗症の人の汗を止めるにはちょっと不十分なものになります。ただし、かなりプラセボ効果が大きい疾患ですので、汗の量がそこまで多くない人はそういうのを使って安心して汗が減るという効果も期待できるため、軽い人は市販品で対応可能な人もいると思います。
池田 こういったものは一般的にはどの部位に使っているのでしょうか。わきの下なのでしょうか。
藤本 患者さんによって、汗に対してのターゲットの製品もあれば、においに対してのデオドラント剤という製品もあるので、わきは多いと思いますし、胸とか背中とか、そういういろいろなところに使っている人も多いと思います。あと、靴の中にかけてにおいをとるなど、けっこういろいろな使い方がされているようです。
池田 逆にいうと、どういう使い方をされるかわからないので薄くしてあるという感じなのでしょうか。
藤本 それも十分あると思います。
池田 先ほどお話に出た刺激はないのでしょうか。
藤本 日本で売られている市販のものに関してはあまり刺激はないと思います。
池田 プラセボ効果がかなりあって、汗というよりは、どちらかというと、においに関して使っている方が多いかなというイメージですね。
藤本 そうですね。エチケットというかたちですかね。
池田 最近、手の多汗症に治験が行われているのでしょうか。
藤本 手は困っている人が多いのですが、今まで塩化アルミニウムと、イオントフォレーシスという保険適用の治療の器械はあるのです。ただし、手に対しての塗り薬の治験が終わっている状況ですので、近い将来、世の中に出てくると思います。
池田 期待される一つですね。手の多汗症の手術がありましたが、今は行われないのでしょうか。
藤本 胸部交感神経遮断術という手術ですね。主に重症の手の多汗症に対して行われる最終的な手段なのですが、やはり神経を切ると不可逆性で元に戻らないので、一番問題になるのが代償性発汗という、ほかの場所から多量に汗が出てしまうという副作用です。なので、最終的にこれを選ぶ人は今もいますし、やっている施設もあると思いますが、十分なインフォームドコンセントのうえに行うようにガイドラインでも記載されています。
池田 手の汗は良くなったのだけれども、ほかに汗をかいてしまうということですか。
藤本 術後とても汗をかく人がいるのです。
池田 よく説明しておかないと、患者さんはすごく不満を感じますよね。
藤本 そうですね。こんなはずではなかったという人も中にはおられますし、十分理解したうえでやっている人にとってはとても快適になるというような、事前の覚悟というか、そういうところが大事なものだと思います。
池田 ありがとうございました。
多汗症
池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長
藤本 智子 先生
(聞き手池田 志斈先生)
過度の緊張や熱感時に、手や腋窩、全身に多量の発汗を認め、仕事や学業(試験等)に支障をきたすことがあります。近年、ソフピロニウム臭化物が保険収載され、市販品では塩化アルミニウム化合物含有の粉剤(ベビーパウダー等)があります。これらの制汗作用のメカニズムと、漢方薬等、内服薬で効果的なものがあればご教示ください。
大阪府開業医