池田 皮膚非結核性抗酸菌症についての質問です。よく肺などで非結核性抗酸菌症というのは聞きますが、この場合は皮膚にすみついて、どのような症状が出てくるのでしょうか。
北見 皮膚非結核性抗酸菌症は臨床的に多彩な症状です。主に小さな外傷を契機として、そこから感染することが多いといわれています。もともとこの菌は海や川、土壌など自然界に広く生息しているため、健常人でも感染する可能性が十分考えられます。
池田 小さな傷から、そこが膿んできたり、潰瘍になったりするのでしょうか。
北見 臨床的な特徴としては、浸潤性紅斑といって、赤く硬く盛り上がってきたり、結節、膿瘍などを生じます。進行すると皮膚潰瘍を呈することもあります。
池田 多彩な感じですね。
北見 そうですね。この疾患自体は頭の片隅に置いておかないと、なかなか鑑別するのが難しいと思います。
池田 そうですよね。例えば外傷部位に膿瘍とかができて、それから丘疹性に広がっていく場合は、リンパ管を通ったりとか、そういうことになるのでしょうか。
北見 リンパ管型という臨床型もあります。リンパ管に沿って列序性に結節が並んでみられます。1カ所にとどまっている場合は固定型と呼びますが、いずれも深在性皮膚真菌症でもみられます。
池田 そういう意味では、1カ所だけだと思って軽く考えないほうがいいということですね。
北見 はい。
池田 小さな外傷で起こるということですが、どのような方がなるのでしょうか。
北見 日和見感染、例えばステロイドや免疫抑制剤を使用している患者さんに生じることもあります。肺の非結核性抗酸菌症は呼吸器感染症としても有名ですが、肺病変から播種性に皮膚に生じる例もあります。しかし通常皮膚科で拝見するケースは、健常人の方で外傷から感染して受診されることが多い印象です。
池田 小外傷、それから水や土壌といいますと、農作業や水槽の清掃などになるのでしょうか。
北見 皮膚非結核性抗酸菌症の原因として代表的なMycobacterium(M.)marinumという菌があります。これは水の中に生息しているので、熱帯魚を飼育している方、魚を扱う仕事に従事している方に感染します。例えば水槽の掃除をしているときに手に擦過傷を負って、その傷から菌が感染することがあります。
池田 あと小さな手術でも起こりうるのでしょうか。
北見 手術器具などを介しての感染も報告されています。その場合は結節、膿瘍などを生じることが多いです。また温かい環境で育つ菌としてM.aviumは24時間風呂で感染したという報告があります。
池田 ちょっと怖いですね。多彩な症状ですが、それを疑って診断するとなると、やはり培養ですか。
北見 はい。
池田 どのような検体をどのようにして培養していくのでしょうか。
北見 培養は抗酸菌培養が主体になります。病変部からの滲出液や膿から培養します。皮膚科の場合は皮膚生検という検査を病理組織診断とともに行うケースが多いのですが、その時は採取した検体を半割して、皮膚組織で培養検査を行うと菌を検出しやすいかと思います。培地は小川培地、液体培地を使用しますが、通常は検体を検査室に提出して培養検査を行ってもらいます。
池田 菌の中にもいろいろなサブタイプがあるとうかがったのですが、どのようにして判定するのでしょうか。
北見 非結核性抗酸菌は生物学的特徴から培養に1週間以上かかる遅発育菌と、1週間未満の迅速発育菌に大きく分かれています。集落が得られないと菌種の同定ができないもので、菌のコロニーが得られたら、DNA-DNAハイブリダイゼーション法、あるいは質量分析法などを行い菌種の同定を行います。それでもわからないときは、特定の機関に依頼をしてPCR検査をお願いすることもあります。
池田 なかなか難しいようですね。それで診断がついて、今度は治療ということになりますが、菌のタイプや薬剤感受性などを調べることはできるのでしょうか。
北見 薬剤感受性を調べることも可能です。ただ治療についてはガイドラインがないため、抗菌薬を2~3剤組み合わせて多剤併用で投与することが多いです。
池田 具体的にはどのようなものが選ばれるのでしょうか。
北見 抗菌薬の種類としては、クラリスロマイシン1日800㎎投与を基本とすることが多く、そのほかミノサイクリン、キノロン系抗菌薬を組み合わせます。その他抗結核薬で、リファンピシンやイソニアジドを併用するケースもあります。
池田 それらの薬が有効かどうかという判定は、どのくらいの期間で行っていくのでしょうか。
北見 なかなか検査で判定することが難しいのですが、抗菌薬を3カ月から長くて6カ月以上内服しているケースもあります。皮膚の場合は臨床的な症状の経過が見られますので、結節が平坦になってきたか、紅斑が消失してきたか、疼痛がなくなってきたか、そうした臨床経過を合わせて判断することがよいと思います。
池田 例えば、それが本当に非結核性抗酸菌症による皮膚症状かわからないですが、しこりが残ったり、潰瘍がそのまま残っていたりしている場合は、例えば外科的に切除してみることはあるのでしょうか。
北見 病変部が小さい場合は外科的切除も一つの方法だと思います。あとは発育至適温度が低いM.marinum、M.chelonae、M.abscessusなどは使い捨てカイロなどを用いた温熱療法を併用しますと、比較的良好な経過を得られる例があります。
池田 温めると発育しないから、死んでいくだろうということですか。
北見 そうですね。ただ菌種によっては40度、42度でも発育する菌があるので、やはり菌種まで同定するのが治療に向けてはベストかと思います。
池田 逆に増殖を助長してしまう場合もあるということですね。具体的に温熱療法というのはどのようにされるのですか。
北見 市販で売っている使い捨てカイロをタオルやガーゼなどにくるみ、病変部に直接あてていただきます。だいたい20分ぐらいを1日2~3回あててもらいますが、低温熱傷には十分気をつけて行っていただくよう指導しています。
池田 その短さでいいのですね。イメージとして一日中あてていなければいけないのかと思いました。
北見 一日中ですとやけどの心配がありますので、自分で熱いと感じたらとっていただくようにしています。
池田 1日20分ぐらいを2回か3回ぐらいやっていくのですね。
北見 はい。
池田 十分患者さんもできることですね。
北見 そうですね。
池田 長期的な予後ですが、例えば1回治療して、症状がなくなればやめてしまうのですが、菌が隠れていて、また症状が出てくることは、けっこうあるのでしょうか。
北見 菌種までしっかり同定できていれば、ある程度の目安を立てて治療ができると思います。しかし、なかなか菌種が同定できていない場合、やみくもにいろいろ抗生剤を投与しているうちに軽快し、数カ月後に再燃、あるいは別の部位に発症するケースも経験したことがあります。治癒をどう判断するかは難しいので、外来で少し経過を見ながら判断するというところかと思います。
池田 これで終わりですと言ってしまわないで、また何カ月したら来てください、みたいな感じですね。
北見 そうですね。内服が終わってから半年ぐらいは経過を見させていただくことがあります。
池田 また診断のところに戻るのですが、菌種によっては皮膚以外の臓器の感染も調べる必要があるのでしょうか。
北見 M.avium、M.intracellulare、M.fortuitumという菌は呼吸器感染症が多いので、胸部のレントゲンや喀痰検査も場合によっては行ったほうがいいと思いますが、こちらも臨床症状を見て判断するのがいいと思います。
池田 そういった意味からも菌種同定というのは本当に必要なことですね。
北見 そうですね。
池田 イメージとして、膿がたくさんあったり、あるいは皮膚切片だったら培養で出やすいかもしれないとおっしゃったのですが、場合によっては繰り返して検査していかなければいけないものなのでしょうか。
北見 意外と1回だけでは菌種同定まで至らないというか、集落が得られないことがよくあります。なので、数回にわたって検査をしていただくのがよいと思います。あと抗酸菌培養だけではなく一般細菌培養、真菌培養も同時に行うと、どこかの培地で集落が生育することもありますので、可能な限り複数の培養を提出するといいでしょう。
池田 確かに日和見感染ですから、ほかの真菌症とか、一般細菌の感染も考えなければいけないですね。
北見 はい。
池田 抗酸菌だけではなくて、一般細菌の培養と真菌培養もやっておく。そうすると見逃しがないだろうということですね。
北見 はい。
池田 ありがとうございました。
皮膚非結核性抗酸菌症
牧田総合病院皮膚科部長
北見 由季 先生
(聞き手池田 志斈先生)
皮膚非結核性抗酸菌症についてご教示ください。
東京都勤務医