池脇 高齢発症リウマチ(RA)についての質問をいただきました。5~6年前にほぼ同じ高齢発症RAに関しての質問をいただいて、そのときに回答された先生は、確かに増えているような実感があるけれども、まだしっかりとした疫学のデータはありませんというお話でした。あれから5~6年たって、高齢発症のリウマチの患者さんは、日本では増えているのでしょうか。
金子 確かに実感として増えていて、高齢発症というわけではありませんが、好発年齢自体は以前に比べて徐々に高くなっているという現状です。おのずと高齢発症のリウマチというのも増えている状況かと思います。
池脇 教科書的にはRAの好発年齢は、30~50代で比較的女性が多いとなっていますが、それが少し高齢化しているということですね。
金子 はい、そのとおりです。
池脇 もちろん日本は高齢社会になってきましたけれども、疾患の好発年齢というのが、ずれていくものなのでしょうか。
金子 実際、なぜずれているかというところは、はっきりとわかっていないと思います。リウマチ自体が遺伝的な素因と環境因子、その2つを主軸に発症するといわれていますので、遺伝的素因については大きく変わらないとすれば、何らか環境因子という点で生活スタイルなどを含めて少し変化が起因している可能性はあります。それでも詳細なことは、まだわかっていないと思います。
池脇 高齢発症の関節リウマチとは60歳以上と考えてよいですか。
金子 そのとおりです。
池脇 そういった方と、従来の若年発症のリウマチの患者さんの臨床的な特徴はどうなのでしょうか。
金子 典型的にはRFだったり、抗CCP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性になってくるのが関節リウマチですが、高齢発症の方ではそれが陰性であることがしばしばあります。また、鑑別としてリウマチ性多発筋痛症であったり、RS3PE症候群といった、その他自己免疫疾患との鑑別が必要で、常にその3疾患を念頭に入れながら検査を進めて診断、治療を行っているのが現状です。
池脇 私も一般的な高齢者の入院を見ていると、それほど頻繁ではないにしてもリウマチ性多発筋痛症やRS3PE症候群などの患者さんが入院してきます。そういう場合にはRAとの鑑別をとても注意していますが、RAが疑われた場合の高齢者においては、逆も真なりというか、きちんとそういった病気の鑑別が必要だということですね。
金子 そのとおりです。実際にリウマチであれば第一選択薬はメトトレキサートという薬になるのですが、リウマチ性多発筋痛症やRS3PE症候群というのは第一選択薬はステロイドです。そこで大きく治療に差が出てきますので、診断の時点で非常に重要になってきます。実際に診断で重要なのは、特にリウマチ性多発筋痛症であれば大関節を罹患することが多いということと、急性発症が典型的な発症形式というところで、リウマチとははっきり区別できる点になります。また、RS3PE症候群については、四肢の浮腫が出るのである程度鑑別がしやすいかと思います。
池脇 患者さんに聞くと、リウマチ性多発筋痛症では急に首とか肩が痛くなって、寝返りも打てないという急性発症の方。リウマチは、どちらかというと徐々に手のこわばりあたりからゆっくり進行してくるので、現病歴で区別できるかと思っていましたが、高齢者の場合は比較的急速、急性な発症の仕方をする方もいるのですか。
金子 おっしゃるとおりで、リウマチ性多発筋痛症といわゆる血清反応が陰性の関節リウマチというものはしばしば併存しているというか、なかなか区別ができないことがあります。リウマチ性多発筋痛症と思っていたところ、経過を見ていくと徐々に末梢の関節、いわゆる手指の関節炎が出てきたり、手指の滑膜炎が出てきたりして、これは実はリウマチだったのかなと、途中で診断が変わったりすることがあります。
池脇 専門ではない医師にとっては、現病歴あるいは抗CCP抗体陽性か陰性かあたりで見当をつけるのですが、抗体が陰性で比較的急性発症となると、実際に関節炎、骨破壊があるかどうか、そのあたりを調べるのですか。
金子 おっしゃるとおりで、リウマチ性多発筋痛症であれば基本的に末梢関節炎はないことが原則になるので、それがある場合にはどちらかというとリウマチのほうを強く疑っていくという流れになります。
池脇 このあたりは治療が全然違いますから、とても大事ですね。
金子 そうです。
池脇 治療の話になりますが、5~6年前から生物学的製剤、あるいは違うタイプの経口薬がいろいろと出てきたようです。まず、治療の基本はいわゆる合成の抗リウマチ薬なのでしょうか。
金子 現状の日本リウマチ学会、欧州リウマチ学会等を含めて、第一選択薬はいわゆるcsDMARDsと呼ばれる経口の免疫抑制剤および調整剤になります。
池脇 具体的にはメトトレキサートになるのでしょうか。
金子 第一選択薬はメトトレキサートです。日本ではその他、サラゾスルファピリジンやブシラミン、イグラチモドなどがファーストになってきます。アジア人では急性の間質肺炎が副作用として多く見られたということから、日本ではほぼ使われていませんが、レフルノミドという薬剤も欧州のリウマチ学会のガイドラインでは推奨されています。
池脇 通常の若年型のリウマチ患者さんは、一般的にTreat to Tar getで寛解をめざすというのが従来の考え方だと思いますが、高齢者も基本的には同じでしょうか。
金子 はい。メトトレキサートはそれ自体だけでも寛解を望める薬剤ですし、あとは生物学的製剤やJAK阻害薬等を含めた併用により相乗効果があったり、生物学的製剤であれば、いわゆる中和抗体を作りにくくするような効果もあるので、メトトレキサートは可能な限り入れていくのが現状です。
池脇 高齢者となると、腎障害だったり、あるいは併存する合併症があって、なかなか使いづらいというケースも多いのでしょうか。
金子 大いにありまして、メトトレキサート自体はeGFRが60未満であると慎重投与、30以下であると禁忌という薬剤なので、基本的には6~8㎎で導入する薬剤ですが、場合によってはそれよりもさらに低い用量で導入することもあります。
池脇 患者さんの背景で、基本的には可能な範囲でメトトレキサートを使って、ある程度それで経過を見て、よければいいのでしょうが、まだ不十分だというときの、次の手は何なのでしょうか。
金子 またcsDMARDsを加えるという選択もあるかもしれませんし、非常に活動性が強ければ、ガイドラインとしては生物学的製剤もしくはJAK阻害薬を入れるという流れになっています。
池脇 生物学的製剤のターゲットというのはTNFとIL-6の受容体の2つがメインなのでしょうか。
金子 あとは、アバタセプトと呼ばれるT細胞を狙った薬剤もあります。
池脇 どれを使っていくのかは、基本的に患者さんの状況などを見ながら使っていって、生物学的製剤の効果は立証されているのでしょうか。
金子 はい。生物学的製剤はかなり効果の高い薬剤として臨床試験等、実臨床等で証明されている薬剤ですので、使わなければいけないときには高齢者でも使っていくという流れになります。
池脇 JAK阻害薬は比較的新しい薬だと思うのですが、これはどういう薬なのでしょうか。
金子 経口の分子標的薬です。リンパ球のJAK-STAT経路を抑え、広範なサイトカインを抑制できる薬剤で、現在、生物学的製剤に比べて、骨破壊や臨床的な活動性を有意に抑えられる可能性があり、生物学的製剤を上回る効果を期待されている薬剤でもあります。
池脇 今言われた薬は高齢者だけではなくて、従来の若年のRAの方にも使えるという意味では、高齢者も含めて治療のオプションが増えてきていますね。
金子 非常に増えてきています。JAK阻害薬が5種類、生物学的製剤が既存のものが8種類(2023年4月現在は9種類)、バイオシミラーが3種類なので、全部で16種類あります。こういったところでPhaseⅡで選択肢になってくるので、その使い分けについては、私なりに考えはあるのですが、今日の短い時間では全く伝え切れない部分ですので、もしそういった高齢者等でお困りの方がいれば、JCHO東京山手メディカルセンターのリウマチ・膠原病科までご紹介いただけたら幸いです。
池脇 ありがとうございました。
高齢発症のリウマチ
JCHO東京山手メディカルセンターリウマチ・膠原病科部長
金子 駿太 先生
(聞き手池脇 克則先生)
高齢発症のリウマチの臨床的特徴、治療の選択についてご教示ください。
兵庫県開業医