山内 西村先生、よろしくお願いいたします。持続グルコース測定器、isCGMは、専門医にとってはかなりおなじみのものですが、この概略について少し解説願えますか。
西村 糖尿病の診療における血糖コントロール指標ですが、一般的には過去数カ月の血糖変動の平均値の指標であるHbA1cが使われています。日々の細かな血糖変動を見るために、特にインスリンを使っている方では、指先に針を刺して血糖値を1日1~4回測定する、いわゆるSMBG(血糖自己測定)とHbA1cを組み合わせて糖尿病のコントロールを行っていると思います。
しかしながら、インスリンを使っている方では、血糖値は急速に上昇・低下を繰り返します。特に危険なのが、夜に長く効くインスリンを打っていて、そのインスリンがフラットに作用していない場合があり、全く自覚症状のない低血糖が起きている場合です。
それゆえ、連続した血糖値を測ってみようという試みが以前から行われてきました。アメリカでは1999年、日本では2010年から持続的に、皮下の間質液のグルコース濃度を測って、その値から血糖値を推測して、なおかつ24時間、曲線として血糖の変動を見ることができる、CGM(continuous glucose monitoring)機器が出てきました。CGMが出てきてから、全く症状のない低血糖、そして高血糖が見つかるようになり、特にインスリンを使っている患者さんにおいて血糖コントロールが格段に良くなったという方は少なくありません。
特に、CGMの中で一番簡易型の機器は、スマートフォンアプリでも使える間歇スキャン式持続血糖測定器(intermittently scanned CGM:isCGM)です。isCGMは2020年4月からインスリンを1回以上打っている方すべてで保険適用となりましたので、現在、普及が促進しています。
山内 血糖変動がかなりよくわかるようになった。特に低血糖の存在が明確になったのと、昔想像されていたよりもはるかに血糖変動が激しいということがわかった。このあたりが大きな有用性につながったと思います。今先生からお話がありましたように、間質液の中のグルコース濃度を測定しているということで、これはあまりおなじみではないかもしれませんが、血糖値との違いについて少し解説願えますか。
西村 そもそも私たちが糖尿病の診断に使っているのは主に静脈血中の血糖値です。例えば経口のブドウ糖負荷試験を行って、血液中の糖の濃度に基づいて糖尿病の診断を行う。そして日常臨床でも静脈血中のHbA1cと血糖値を測って、その値をもとに診療を行ってきました。
24時間測定する機器に関しても、連続して静脈血中の、場合によっては動脈血中の血糖値を測定できればよいのですが(現実問題として、実はそういう機器もありますが、それはICUもしくは研究目的で一時的に使う機器となります)、それは日常生活下での使用に耐えうるものではなく院内で使うものです。この機器を用いて日常臨床で連続的に血糖値を測るとなると、血管の中にセンサーを入れ続けることになり、あまりにも危険なために、その代替法を様々な人が検討してきました。その結果、皮下の間質液中のグルコース濃度から血糖値を推測できるのではないかということで研究が進み、実用化されてきたのですが、どうしても両者の値にはずれが生じてしまいます。
私たちの血液中の糖は、心臓から動脈血で血液が末梢に送られて、そこから間質液に入ったり、様々なところに供給されて、静脈血で心臓に戻っていくわけです。したがって静脈に比べて間質液のほうが値の変化のタイミングが一般に早くなりますし、部位によっては遅くなることもあります。さらに運動をしたのか、食後なのか等の要因によって血管中の血糖値と間質液中の濃度に、より大きな差が生じるというのが現実です。
山内 この違い、差についてはどう考えられているのでしょうか。
西村 ある程度は許容すべきと考えます。しかしその差、ずれの大きさは人によって大きく変わります。差が非常に少ない方もいますし、むくみが多いような方ではやはり差が開いてしまう。それではどうしたらよいかということですが、かつては、指先で血糖値を測るSMBGという機器を用いて、その値を1日2~4回程度、CGMの機器に入力して、その差を補正しました。
昨今は、何万人ものデータを使って、血液と皮下の間質液中のグルコース濃度の差を補正するアルゴリズムを作り、皮下の間質液濃度を測って、そのアルゴリズムを使って推定した血糖値を示す。この方法を選択する機器が増えてきました。実際にisCGMもこの方式を取っています。
ですから、質問の医師がご覧になった患者さんにおいて非常にずれが大きいというのは、人によってはこのアルゴリズムがぴったりあてはまる方が存在するものの、中にはアルゴリズムがあまりフィットしない人がいるということだと思います。アルゴリズムを作るからには、ある程度、大人数に合う式を作らなければならないということで、どうしても外れてしまう方が存在する。
このような方では、CGMが示す値が、場合によっては100㎎/dL以上ずれてしまうことがあるのは事実です。ではどうしたらよいかということですけれども、特に朝起きたときや血糖値の変化が少ないときに両者の差を見ていただくのが重要だと思いますので、実際に指先に針を刺して測っていただいたSMBG値とCGMが示す値がどれぐらいずれているのかというのを、使用開始後数日見ていただきたいと思います。そしてそのずれを前提に血糖変動パターンを見ていただきたい。
山内 ただ、根本的に静脈血の血糖値か、動脈血の血糖値かというところもありますね。
西村 はい、あります。
山内 動脈血が少し入ってきたのが間質液中のグルコースでしょうから、そこのところでどちらの血糖値を将来的に採用したほうがいいのかという、根源的なものも少し入るのではないかと思いますが、このあたりはいかがですか。
西村 採血をするときには動脈血か静脈血を選べますが、一般にCGMのセンサーを刺す場所は腹部です。一方、isCGMの場合は上腕の裏側です。センサーを体のどこに刺すかによって先生がおっしゃったように、動脈と静脈の血液のミクスチュアの割合が微妙に異なる。したがってセンサーを刺した位置によってもその割合は変わると思います。これは私個人の考え方ですが、CGMが示す値にはある程度の誤差はあるものだということを大前提として使用すべきと思います。しかしながら、CGMの一番重要な点は、血糖変動のパターンを見える化してくれるということにつきるのではないでしょうか。実際にはその絶対的な位置が上下にある程度ずれている可能性はあるけれども、そのパターンを見て患者さんの治療を最適化するツールである。そのようなかたちで温かく見守っていただきつつ、CGMの限界をお知りになって、患者さんも、医師サイドも、CGMがもたらすメリットを利用するようにしていただく。CGMはそういう機器と理解いただくのが一番良いのではないかと考えています。
山内 どうもありがとうございました。
持続血糖測定器の測定値と血糖値の乖離
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授
西村 理明 先生
(聞き手山内 俊一先生)
間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)による経皮的細胞間液の糖測定において保険適用が拡大されました。患者さんによっては細胞間液の糖濃度と血糖値に乖離が見られます。原因についてご教示ください。
兵庫県開業医