ドクターサロン

腰痛low back painは外来でよく遭遇する症状ですが、その原因のほとんどは筋肉の問題であるmuscle strainやmuscle spasmと言われています。

そしてこのstrainという単語には注意が必要です。というのも英語圏の患者さんからは“Is it a sprain or strain?”のような質問が来るからです。

まずsprainはinjury to the ligamentであり、日本語の「捻挫」に相当します。これに対してstrainはinjury to the muscle or tendonであり、日本語の「筋挫傷」に相当します。このうち「急激に力が加わった際の筋挫傷」である「肉離れ」はpulled muscleと呼ばれます。ただこのstrainには「酷使されて起こる問題」というニュアンスもあり、eye strain眼精疲労」のようにも使われます。

これに対してspasmはa sudden contraction of musclesであり、日本語の「筋肉がつった」という状態に相当します。ですから日本語の「ぎっくり腰」は英語ではacute lower back spasmsのように表現されるのです。またふくらはぎなどが「つった」場合には、crampという英語がよく使われます。これはa cramp in the hamstringのように名詞としても、また“My hamstring cramped up so bad.”のように、動詞としても使われます。ただ女性がcrampsと複数形で表現した場合、それは「生理痛」という意味として使われているので注意してください。

このmuscle strainの原因としては「重いものを持ち上げるlifting heavy objectsが多く、muscle spasmの原因としては「悪い姿勢で座るpoor sitting postureや「(デスクワーク中心で)座ってばかりの生活習慣seden tary lifestyleというものがあります。

こういったnon-specific low back painの改善には「背筋運動back extensionや「ピラティスPilatesなどの運動のほかに「湿布」も有効です。ただこの「湿布」をwet compressなどとは表現しないでください。それは「水に浸した薬草を布で覆ったもの」というイメージの表現ですので。日本でよく使われている「湿布」は英語圏ではあまり一般的ではないので、pain relief patchpain relieving patchと正しく表現してもあまりピンとこない患者さんも多くいると思ってください。ただ最近では英語圏でも流通している「サロンパスSalonpasという商品名で認識されている患者さんも増えていきていないようでしたら、Salonpasという表現も試してみてください。

さてこの筋肉の力が低下する「筋力低下」は英語ではparesisと、そして筋肉を全く動かせなくなる「運動麻痺」はparalysisとなります。

そして患者さんがparesisを訴える場合、その症状を表現する際にはweakという形容詞を使うことが多いのですが、実際にはこれ以外にも様々な形容詞を使います。例えば「動きが緩徐になる」という場合にはslowを使いますし、「動きがぎこちない」場合にはclumsyという形容詞も使われます。そしてこのclumsyは「動きが鈍い」や「運動神経が悪い」という意味でも使われます。また下肢の筋力が低下して「ヨロヨロする」場合にはwobblyという形容詞も使われます。患者さんがこのような表現を使う際には“Have you noticed any difficulty in completing specific daily tasks?”のように質問し、具体的にどのような動作で問題が生じているのかを尋ねると良いでしょう。

このparesis/paralysisを判定するための「徒手筋力検査manual muscle testing(MMT)では、患者さんの「筋力muscle strengthを評価する必要があります。その際にはまず“I would like to check the strength of your muscles.”と言い、次に“Please do like this.”と言って特定の姿勢を取ってもらいます。そして肘の屈曲の筋力を評価したい際には“Don’t let me straighten your elbows.”と、肘の伸展の筋力を評価したい際には“Don’t let me bend your elbows.”のように“Don't let me...”という表現を使って、評価したい運動の反対の動作を指示するようにしましょう。

皆さんも医師として患者さんに「筋トレ」を勧める機会も多いと思いますが、この「筋肉トレーニング」は英語ではmuscle trainingではなく、workoutという表現が一般的です。そしてこのworkoutのうち、ダンベルなどを持ち上げる筋トレはfree-weightsと呼ばれ、weight machinesを使ったweight/gym machine workoutと区別されています。またコロナ禍で人気となった「自重を使った筋トレbodyweight workoutですが、本来「美容体操」を意味するcalisthenicsという表現がよく使われています。ちなみに「有酸素運動」はaerobic exerciseではなく、cardioと呼ばれるのが一般的です。

そしてworkoutで一般的に鍛えられる大きな筋肉には「通称」も存在します。

首を支える「僧帽筋trapezius(「トラピィジィアス」のように発音)はtrapsと呼ばれます。「胸板(むないた)」を形成する筋肉として知られる「大胸筋pectoralis majorは一般的にはpecsと呼ばれ、この筋肉を鍛える「腕立て伏せ」はpush-upsと呼ばれます。

上腕の「力こぶ」を形成する「上腕二頭筋」はbiceps brachiiですが、この発音は「ィセプス ブレェィキアィ」のようになり、一般的にはbicepsと呼ばれます。そしてこの筋肉を鍛えるために「ダンベルdumbbellsを使って鍛える筋トレは、biceps curlarm curlなどと呼ばれます。同じように「上腕三頭筋triceps brachiitricepsと呼ばれ、これを鍛えるダンベルトレーニングはtriceps kickbackと呼ばれます。

「逆三角形」を形作る「広背筋latissimus dorsiですが、これは一般的にはlatsと呼ばれていて、これを鍛えるために鉄棒にぶら下がって顎を引き上げる「懸垂」はchin-upsと、そしてウェイトを引き下げて広背筋を鍛える筋トレはlat pull-downsと呼ばれます。ちなみに「熱心にジム通いをする人」を英語ではgym ratと呼びますが、latとratの発音は異なるので気をつけてくださいね。

腹筋」を総称してabsと呼びますが、「割れた腹筋」は「6つのビール缶パック」を上から見た様子からsix-pack absと呼ばれます。そして「腹直筋rectus abdominisを主に鍛える「腹筋(運動)」は、古典的にはsit-upsと呼ばれていますが、最近では完全に上体を起こさないcrunchという筋トレも人気です。

お尻」の大きな筋肉である「大臀筋」はgluteus maximusとなり、一般的にはglutesと呼ばれます。また多くの日本人が「お尻=hip」と考えているのですが、これは間違いです。英語のhipというのは日本語の「股関節」に近い表現です。「腰筋psoas(pは発音せず「アス」のように発音)に代表される「股関節の屈曲に関わる筋肉群」を一般的にはhip flexorと呼び、これらの筋肉を負傷した場合をhip flexor injuryhip injuryと呼びます。また「大腿骨頭置換術hip arthroplastyは「股関節hip jointの手術であることから、hip replacement surgeryhip surgery/operationなどと呼ばれます。

膝の伸展の際に使う「大腿四頭筋quadriceps femorisは、一般的にquadricepsと呼ばれますが、膝の屈曲の際に使う「大腿二頭筋biceps femorisは太腿裏にあるほかの筋肉と合わせてhamstringと呼ばれます。

そして「ふくらはぎcalfにある「腓腹筋gastrocnemius(cは発音せず「ガストロニィミアス」のように発音)と「ヒラメ筋soleusは、まとめてcalf muscleと呼ばれます。

ちなみにworkoutの後には「筋肉痛」がやってきますが、これはsore musclesmuscle sorenessと表現されます。これをmuscle painと表現すると「肉離れによる筋肉の痛み」のように、筋肉痛よりも重症のように聞こえてしまいます。

私も含め、読者の多くの方は筋トレの翌日ではなく、少し時間が経ってから筋肉痛がやってくると思いますが、このような「遅れてくる筋肉痛」はDOMS(「ムス」のように発音)と呼ばれます。これはDelayed-Onset Muscle Sorenessの略で、英語圏の筋トレ愛好者の間でよく使われている表現です。機会があればぜひ使ってみてください。