齊藤
クッシング症候群についてうかがいます。 アメリカの有名な脳外科医クッシング先生が見つけたのでしょうか。
福岡
そうですね。Harvey Cushing先生が最初に中心性肥満や無月経、そして皮下溢血などを認める非常に若い女性の症例として、その原因が下垂体の腫瘍であることを報告されました。
齊藤
症例報告は100年以上前なのですね。
福岡
1916年に最初に報告され、1932年にはまとまった報告がされていると聞いています。
齊藤
歴史があるのですね。このシリーズは日常臨床にひそむ内分泌疾患を見直す、ということなのですが、クッシング症候群についてはどのようなことになりますか。
福岡
クッシング症候群は、「クッシング症候群です」と患者さんが受診されることはほぼありません。受診されたきっかけの中からどのように見つけ出すか、あるいは一般検査結果からどのように疑っていくのかがポイントになると思います。
多くの方々がメタボを呈していたり、高血圧あるいは骨粗鬆症といった合併症を持っているのが一つの特徴かと思います。そして、患者さんが訴える症状としては、むくみであったり、最近体重が増えた、といったことを訴えて来られる方が多いかと思います。
齊藤
臨床医としてはクッシング症候群を念頭に置いて診るのでしょうか。
福岡
どのような方を診るかがポイントだろうと思います。一つは若い方、女性が多いですが、若い方で高血圧、特に難治性の高血圧であったり、若い方で脆弱性の骨折をされていたり、骨粗鬆症があったり、こういった方は特に注意して診るべき患者さんだと思います。
齊藤
ただ、糖尿病も高血圧のように患者さんがたくさんいますから、かなり絞らなければならないということで、クッシング徴候を見つけやすくするためには、どういった点から見ればよいでしょうか。
福岡
クッシング徴候に関しては、専門的な視点が必要とされるのですが、教科書的によくいわれている中心性肥満は、正面から患者さんを見てもなかなかわからない方もいます。そういった場合、例えば前腕を見たときに少し皮膚が薄いという特徴があったり、あるいは立ち上がって横を向いていただくと上腕があまり太っていない。むしろ萎縮している。それに対してウエストが非常に出ていて、いわゆる内臓肥満がある。こういったコントラストが中心性肥満を見つけるうえでの一つのヒントになるかと思います。
さらに、しゃがんでいただくと、少ししゃがみにくい、あるいは立ち上がりにくいということを訴えられる。これが筋の萎縮として見てとれることがありますので、そういった診察での工夫が見つけるポイントになると思います。
齊藤
診断ではまずどうしますか。
福岡
クッシング症候群かなと思った次に行うポイントとして、もちろん血液検査があり、血液検査でACTH、コルチゾールを測定するのが重要なポイントになりますが、難しい点は下垂体腫瘍が原因のクッシング症候群の方々はACTHもコルチゾールも正常値である方が半数ぐらいいることです。ですので、ACTH、コルチゾールを測って正常であることはクッシング症候群の否定にならないという点が重要だと思います。
さらに疑う場合には、オーバーナイトデキサメタゾン抑制試験というものを行っていただくのがポイントになります。これは夜にデキサメタゾンを0.5㎎のみ、次の日の朝9時までに採血をして、ACTHとコルチゾールを見るという検査です。この検査をしていただくのがスクリーニングとしては最もよいと思います。
齊藤
デキサメタゾンで抑制するのは下垂体性になりますか。
福岡
今お話しした検査は下垂体性で、0.5㎎を使うのですが、副腎の場合は1㎎を同じように使い、コルチゾールが抑制されないという、同じような検査を行います。ですので、どちらかわからない場合には1㎎を使っていただければよいのですが、いずれにしてもコルチゾールが抑制されないことが、下垂体あるいは副腎、その他のクッシング症候群を見つけるうえで使えると思います。
齊藤
ホルモン検査と、同時に画像診断も並行して行いますか。
福岡
副腎の方はむしろ画像から見つかってくる、いわゆる偶発腫のようなかたちで見つかってくる方も多くあります。副腎の腫瘍は2~3㎝と比較的大きな腫瘍なので、見つかりやすいのですが、下垂体の場合は多くは1㎝未満のため、造影なしで画像を撮ると全くわからないのが一般的です。造影をしても30%ぐらいは見つからないというデータもありますので、下垂体に関してはかなり専門的な施設での画像検査をされるのがいいだろうと思います。
齊藤
クッシング症候群に加えて、サブクリニカルクッシング症候群もありますね。
福岡
サブクリニカルクッシング症候群は、クッシング徴候がないのがその特徴ですので、見つけるのは本当に難しい疾患です。多くはやはり画像から見つかり、そのほとんどが副腎です。副腎に腫瘍がある方々を調べていくと、コルチゾールは自立性にちょっと出しているけれども、クッシング徴候が全くない方々になります。しかし、この方々はそのまま経過を見ていると、糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症、骨粗鬆症、ひいてはそれに伴う心血管イベントが起こってきます。最近ではこれらの合併症がある場合は積極的に手術を考慮するという話が出てきています。経過を観察するだけではなくて、手術を含めた治療選択が必要だろうと思います。
齊藤
副腎性のクッシング症候群の場合、がんもありうるのでしょうか。
福岡
そうですね。副腎で特に大きな腫瘍、4㎝を超える場合の腫瘍ではがんが混じっている場合がありますし、その中にコルチゾールを出すクッシング症候群が含まれているものもあります。ですので、がんかどうかを見るうえで、一つはCTの色、輝度、CT値が20HU以上あるという画像上の特徴が一つ、もしくは辺縁が不整であるという特徴があります。そういう場合は悪性も念頭に置きながら治療に当たる必要があるだろうと思います。
齊藤
治療ですが、手術はどうでしょうか。
福岡
副腎腫瘍に関しては比較的大きな腫瘍で、基本は手術になりますし、多くは泌尿器科の先生方に取り切っていただくことが望まれるものです。一方で下垂体腫瘍は、先ほどもお話ししましたとおり非常に小さな腫瘍ですので、見つからない、あるいは取り切れない、再発する、といったことで非常に難渋することがあります。そのサポートとして薬物療法というものがありますし、もしくは診断の時点でコルチゾールが非常に高いという方に関しては、術前薬物療法でコルチゾールを下げておくことが必要になります。こういった場合に薬物療法が適応になるかと思います。
齊藤
薬物療法で、何か最近の進歩があるようですね。
福岡
薬物療法で主に使われているものは、副腎でのステロイド合成阻害剤、今まではメチラポンが使われていましたし、トリロスタンはそれ以前から使われていました。最近はオシロドロスタットという、より半減期の長い、作用の強い薬剤が承認されています。こういったステロイド合成阻害剤が副腎でのコルチゾール抑制に対して確実に効く薬として使えると思います。
齊藤
クッシング症候群でACTHに対してのアプローチも最近出てきたということでしょうか。
福岡
そうですね。下垂体の腫瘍は非常に小さいですし、そういった腫瘍を直接ターゲットにする薬剤として、現在、パシレオチドという薬剤が承認されています。これは腫瘍におけるソマトスタチン受容体をターゲットにしていますので、ホルモンの抑制、主にACTHを抑え、そして腫瘍そのものを縮小させる効果も期待できる薬剤です。
齊藤
ありがとうございました。