大西
大月先生、無月経と高プロラクチン血症というテーマでうかがいます。
まず、高プロラクチン血症によって無月経が起こるという病態から教えていただけますか。
大月
プロラクチンは下垂体の前葉から出るホルモンではありますが、通常は視床下部から分泌されるドパミンというもので抑制されています。したがって、高プロラクチン血症は通常は分泌されないものが出てくるという病態となります。プロラクチン上昇により視床下部より分泌されるキスペプチンというホルモンの分泌が低下します。このキスペプチンの低下により、視床下部より律動的に分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が抑制され、その結果、下垂体の黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌も抑制され、無月経となります。
大西
プロラクチンが高い場合というのは、無月経以外にも何か症状が起こるのでしょうか。
大月
プロラクチンは産後、授乳のときの乳汁の産生、分泌に関わっていますので、乳腺が発達して乳汁分泌が起こることが、特徴的な症状になります。
大西
男性の場合はどうなのでしょうか。
大月
男性の場合も同じように、メカニズム的には黄体形成ホルモン(LH)であり、卵胞刺激ホルモン(FSH)によってテストステロンの分泌が調整されていますので、基本的には性腺機能低下、インポテンツなどの症状で出ますし、男性であっても乳腺はあるので、いわゆる女性化乳房という病態が起こってくることが一般的にあります。
大西
プロラクチンが高くなる病態はいろいろな原因があるかと思いますが、薬剤性ではどのようなものが原因となるのでしょうか。
大月
一つはメカニズムとして、ドパミンの産生を抑制するという意味でいうと、降圧薬や、いわゆる循環器薬としてレセルピンやメチルドパやベラパミルなどが挙げられます。ドパミンの受容体の遮断という意味でいうと、これが一番問題になることが多いのですが、向精神薬や抗うつ薬の三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIも入ってきます。あと日常臨床でよく出てくるところでは、制吐薬とか抗潰瘍薬によって起こってくるところがありますので、高プロラクチン血症を認めた場合、服薬歴をまずお聞きいただくことが一つ大事かと思います。
大西
注意しないといけないですね。
大月
今、抗うつ薬等でSSRI、SNRIはいろいろな方が飲まれていますので、そこは注意することが大事かと思います。
大西
頻度が特に高い薬剤というのはあるのですか。
大月
制吐薬や抗潰瘍薬は通常の用量で飲んでいても高プロラクチン血症をきたしますので、特にスルピリドとかドンペリドンなどは重要です。
大西
よく使われる薬ですね。
大月
SNRIなど抗うつ薬はすべてが使ったから上がるというわけではありません。そのあたりは症状があって、その薬があるということで判断していくことになると思います。
大西
薬剤以外の原因でプロラクチンが高くなるというのは腫瘍性のものがあるのでしょうか。
大月
大きくは薬剤性ですが、あとは腫瘍性と、もう一つ鑑別しなければいけないのは甲状腺機能低下です。なので、甲状腺機能が低下すると、ネガティブ・フィードバックによって基本的には視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が上がり、それによって甲状腺刺激ホルモン(TSH)とプロラクチンも刺激されます。つまり原発性甲状腺機能低下症の場合には高プロラクチン血症となる可能性を考慮するということになります。
それが違うとなった段階で腫瘍性、まずはプロラクチンを産生する腫瘍、プロラクチノーマ、あとは下垂体およびその周辺の腫瘍として、非機能性下垂体腫瘍や、頭蓋咽頭腫によりプロラクチン産生を抑制しているドパミンの作用を物理的にブロックしてしまうことで高プロラクチン血症をきたすということが考えられます。その場合は頭部MRIなどの画像診断によってまずそれを診断していくことが重要になると思います。
大西
先ほど甲状腺機能低下で時々起こるという話でしたが、甲状腺のホルモンレベルとも相関するのでしょうか。
大月
甲状腺ホルモンの低下の程度はTSHレベルに反映されるので実際にはTSHレベルと相関すると考えます。
大西
次に、診断のつけ方ですが、血中のプロラクチンの値に目安はあるのでしょうか。
大月
施設によって正常値が違うので、基本的には各施設の正常値以上になっていること、ただ、睡眠、ストレス、性交、運動に影響されますので、やはり何回か測って、常に高いことを確認するのが大事になると思います。
正常値が各施設によって違っても、臨床的に症状が出てくるのは通常は50以上です。顕性になってくるのは100以上になりますし、一般的には腫瘍性の場合は200以上といわれています。また腫瘍の大きさとプロラクチンレベルがプロラクチン産生腫瘍の場合は比例するので、プロラクチンレベルが高い場合、下垂体腫瘍はそれなりの大きさがあることになります。
大西
実際の治療ですが、まずプロラクチノーマに関しては手術的なアプローチになるのでしょうか。
大月
現状として、脳外科医が手術で取り切れるといわれるのは1㎝以下のミクロプロラクチノーマという場合が多く、その場合に関しては基本的には手術の適応になる場合もあります。ただ、原則は薬物療法がよく効きますので、ドパミン作動薬を使って治療することが、今は第一選択になります。
大西
それは予後を改善すると考えてよいのでしょうか。
大月
基本的には治療薬を飲めば下がります。
大西
かなり長期間飲んでいくのですか。
大月
そうですね。高プロラクチン血症の問題点は基本的には生理を止めてしまう、性腺機能を落としてしまうことですので、女性の場合、閉経されるまでは服用を継続する必要があります。しかし、基本的なエビデンスはまだ出ているわけではないのですが、閉経後は生殖機能が低下しますので、やめていっても、それ自身が悪さをするわけではないということになります。つまり、プロラクチノーマの場合は腫瘍がある程度小さくコントロールされているという状況下であれば、やめていくことも選択肢であると思います。
あとは、ドパミンアゴニストの使用について注意すべき点として、もともとパーキンソン病等に使われていたことから、大量に使うと心臓の弁膜症があるといわれていましたが、近年、いわゆる衝動制御障害がドパミン作動薬の副作用として知られるようになってきました。具体的には、病的賭博や病的性欲亢進、強迫性購買、暴食等の症状が出たりすることがあります。使用されるときに事前にその点に関して説明していただくのと、もしそのような症状が考えられた場合には、ドパミン作動薬の減量、または中止も考えないといけないという点は、最近の知見として注意すべきところだと考えます。
大西
薬剤性の場合はどのような対応がよいでしょうか。
大月
薬剤性の場合はなかなかやめるのが難しいのですが、できる限り影響の少ない薬剤に替えていただくことが重要と考えています。精神科的な薬剤、抗うつ剤等はなかなかやめることが難しいのですが、そこはできればやめるように検討していただくことを考えています。
大西
マクロプロラクチン血症という病態があるのでしょうか。
大月
マクロプロラクチン血症というのは、基本的にはプロラクチンにいわゆる免疫グロブリンがついてしまっていることによって、高プロラクチン血症を見かけ上示すということです。基本的にはプロラクチンは高いのだけれども、プロラクチンが高いことに伴う症状は起こっていません。マクロプロラクチン血症の可能性がある場合には、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿を行い、測定を行います。
大西
ありがとうございました。