ドクターサロン

山内

結膜浮腫というのは基本的には結膜がむくんだようになっていると考えてよいのでしょうか。

横井

そのとおりだと思います。

山内

この質問にあるアレルギー性結膜炎からの結膜浮腫とは、浸出液がたまっている状態と考えてよいのでしょうか。

横井

そうですね。アレルギー炎症で血管の透過性が上がって、そこから漏れ出た液が結膜組織内にたまっている状態です。

山内

それほど多く見るような気はしませんが、眼科的にこういうものはよくあるのですか。

横井

よくあります。特に救急疾患で来る場合が多く、結膜が急に、黒目が埋まるようなかたちでむくんでいるということから、お母さんが子どもを連れてやってきたりすることがよくあります。

山内

それはたいへんですね。これに対して鑑別が必要なものとして結膜リンパ囊胞がありますが、これはほかにも幾つか言い方があるようなので、そのあたりも含めて解説願いたいのですが、どういったものなのでしょうか。

横井

一番軽症のものは局所的にリンパ管が拡張している状態で、結膜のリンパ管拡張症といいます。1カ所が鞘状に膨れていることもあれば、数珠状に小さいものがつながっている場合もあります。

山内

結膜には非常にリンパ管が多いのですか。

横井

はい。結膜はリンパ管が非常に発達しています。

山内

広がる原因としては何かあるのでしょうか。

横井

それは多分詳しくはわかっていないと思うのですが、リンパ管は途中に弁があるので、そこの弁のところが通過障害を起こしてリンパ管が局所的に膨れていることも考えられますし、リンパ管が流しうる容量に対して組織液が多すぎるような状態でリンパ液の灌流不全が起きてうっ滞している状態もありうると思います。

山内

そのうっ滞した状態を囊胞と呼ぶのでしょうか。

横井

そうですね。囊胞状にリンパ管が拡張している場合をリンパ囊胞といって、その囊胞の程度が非常に細くて長細いような形のときはリンパ管拡張症と呼ばれています。

山内

両者の鑑別、結膜浮腫に関してですが、結膜浮腫に似た見た目の異常で気がつかれるのでしょうか。

横井

そうですね。患者さんの白目がぼこぼこ膨隆しているので、それを非常に気にされて来られる場合もあります。白目が膨れると目の表面で涙が流れにくくなるので、涙目の状態で来られることもありますし、白目が膨れると瞬きしたときにこすれるので、異物感、要するにごろごろするとか、痛いといった症状で来られることがあります。

山内

先ほど鑑別という話がありましたが、アレルギー性のものとそうでないものとの鑑別はいかがでしょうか。

横井

アレルギー性のものは結膜が非常に広く膨れているので、びまん性のかたちを取ることが多いのですが、先ほどお話ししたリンパ囊胞というのは結膜の一部が囊胞状に膨れているのが一般的です。ただし、それがびまん性に全体に膨れると、アレルギー性の結膜浮腫と非常に似てきます。したがいまして軽症のものから順にリンパ管拡張症、限局性のリンパ囊胞、リンパ囊胞がびまん性に広がっているものといえるかと思います。

山内

アレルギー性のものですと、両側に出てくると見てよいのでしょうか。

横井

両側のものもありますが、片側のほうだけが強くて、そちら側をすごく気にされて来られる場合もあります。

山内

両方に浮腫が起きない理由というのは何かあるのでしょうか。

横井

多分両方とも浮腫になっていると思うのですが、片方はそんなに膨れてなくて、片方はすごく膨れているというように左右差があるのだと思います。

山内

大きさは様々と考えてよいですか。

横井

そのとおりだと思います。

山内

例えば質問のように、多発することもありますか。

横井

リンパ管は結膜でネットワークを作って広がっているので、いろいろな場所で起こることがあります。

山内

症状としては、特にかゆみといったものが鑑別のキーワードと考えてよいのですね。

横井

アレルギー性の場合はかゆみが強く充血を伴っていることもあると思います。

山内

アレルギー性の場合ですと、どうしてもかゆいと目をひっかくような感じがしますが、こういったものが悪い影響を与えているということはありますか。

横井

こすると血管から水漏れを起こしやすくなると思いますので、それが結果として浮腫を生じることが多いと思います。

山内

そうすると、お子さんが来られた場合などでは、目をよくひっかいていることがあるのですか。

横井

そうですね。

山内

再発しやすいか、についてはいかがですか。

横井

再発しやすい人がいます。リンパ囊胞で再発しやすい場合もありますし、リンパ管拡張症で再発しやすい場合もあります。というのは、結膜弛緩症という結膜が弛む病気があって、それとリンパ管拡張症が非常に関連しているので、結膜弛緩症は結膜のあらゆる場所に、要するに弛んでいる場所に起こっています。そのため、ある場所のリンパ管が膨れたり、別の場所のリンパ管が膨れたりして、再発することがあります。

山内

予後ですが、アレルギー性は治療すればいいかもしれませんが、結膜リンパ囊胞を放置した場合の予後はいかがでしょうか。

横井

放置した場合は、そのままの場合が多いですが、自然に治ることもあります。

山内

視力やそれ以外のものに影響を与えることはないのでしょうか。

横井

それはまずないです。

山内

そうすると、本人の見た目の問題ということでしょうか。

横井

見た目の問題もありますが、慢性の目の不快感があります。

山内

そういったものも出てくるのですね。 結膜リンパ囊胞治療についてうかがいますが、質問でも幾つか治療方法として挙げられていたので、その適応やタイミングについてうかがいます。まず点眼薬ということですが、これはいかがでしょうか。

横井

まず浮腫と考えてステロイドの点眼薬が試みられていることが多いですが、それは効かないことが多いです。点眼薬の選択肢があるかというと、ベストのものはなくて、ドライアイの目薬が代わりに使われていることが多いと思います。特にレバミピド点眼液は瞬きしたときに瞼の裏と目の表面がこすれるのを減らすので、点眼すると改善することがあります。これは、こすれることがリンパ管の拡張に影響を与えるためと考えられます。ただ、これをやれば必ずよくなるというものはないと思います。

山内

自覚症状を多少やわらげるのですね。

横井

こすれるのが減るので、それは大いにあります。

山内

アレルギー性との鑑別ですが、通常ステロイドの点眼液を使うと、アレルギー性のものはほぼ治るので、治らないものが来た場合にはこれを考えていいということですか。

横井

そのとおりだと思います。

山内

点眼液は残念ながらあまりいいものがなさそうだということで、次の治療の質問にマッサージがあるのですが、これはいかがでしょうか。

横井

ほかの領域ではリンパ液がたまる状態はマッサージで治療する場合がありうると思うのですが、目に対してマッサージというのはまず試みられないと思います。どちらの方向にマッサージしたらよくなるといった判断も難しいと思います。

山内

確かにそうですね。

横井

しかも点眼麻酔をしないとできないと思います。

山内

ということで、次はわかりやすい穿刺です。これはあるかと思いますが。

横井

穿刺はよく試みられていると思います。しかし、穿刺しても再発することが多いと思います。

山内

まずどういったケースで穿刺になるのでしょうか。

横井

境界が明瞭で限局して膨隆している単発性のものは穿刺されることが多いと思います。

山内

局所的なものですね。

横井

そうですね。

山内

一定のサイズがないと穿刺しにくいということはありますか。

横井

リンパ管拡張症でも穿刺はできます。点眼麻酔をして、リンパ管の拡張した部分に針を突けば、リンパ液が出て、いったんしぼんで平坦になります。しかし、また膨れることが多いです。

山内

再発があるのですね。

横井

はい。

山内

これは理屈からいって、弁の異常などがあると、またたまってきますね。

横井

背景のものが治っていないからだと思います。壁だけが修復されると、また起こるという感じになっているかと思います。

山内

流れから言いますと、先ほど点眼薬はあまり効かないということで、次は穿刺が試みられると考えてよいのですね。

横井

それでいいと思います。

山内

例えば穿刺がうまくいっておさまってしまえばそれでいいけれども、だめだと次は手術ということですね。

横井

そうです。

山内

手術というのはどういったものなのでしょうか。

横井

限局性のものであれば、結膜の下にリンパ囊胞ができているので、結膜ごと切ってしまって、切除した結膜の断端同士をつないでしまうという手術を行っています。

山内

なかなか大規模な、かつ非常にテクニカルな手術のような気がしますね。

横井

慣れるとそれほど難しくはないのですが、結膜にリンパ囊胞あるいはリンパ管拡張症を生じている目は結膜も弛んでいることが多いので、弛みごとそのまま切ってつないでも、弛みも減って問題にはなりにくいです。

山内

ありがとうございました。