山内
田村先生、こういったクレームは最近かなり増えていますので、どうするべきか教えていただきたいと思います。
まずこの質問のケースは、統合失調症とありますので、少し特殊なケースかなと思いますが、これから少しお話しいただけますか。
田村
統合失調症や精神疾患の方々というのは、通常の会話がかなわないかと思います。本人との会話で解決しようとせずに、同居している家族などへ連絡を取るのが最適な対応だと考えています。クレーム対応というよりも、仕組みで解決するというのが正しい表現かと思います。
山内
では次に通常のケースということで少し考えていきたいと思います。一般的には、特に小児科ですと、ご両親は非常に不安定な状態になってくるものでしょうね。
田村
おっしゃるとおりです。お子さんが病気で気持ちが不安定な親御さんには、会話の進め方で十分に対応できると思います。クレーム対応というのは、満足や納得というのはなかなか得られにくいので、私は前向きに諦めてもらうということを着地点に考えています。ではどうやったら前向きに諦めてもらえるかというと、目の前のその方の誠意、人柄によって、あなたに免じて引き下がるというように思ってもらえることが必要だと考えています。
山内
それは具体的には医師に対してということですね。
田村
医師の方にもそうですし、ほかの医療従事者の方に対してもです。
山内
ついつい我々医療従事者はすぐ説明するなり何なりで、かえってそれが火に油を注ぐこともありがちかと思いますので、初期対応から教えていただけますか。
田村
まずは最初の相づちや、クレーム対応はお詫びではなく、お礼を言うのも大切だというところをぜひ気にかけていただきたいのです。怒っている人、不平・不満がある人は、なぜか全部クエスチョン調で会話が来るのです。「なぜこうなんですか」「なんでこうなるんですか、説明してください」と言うのですが、そこでうかつに、今先生がおっしゃったように、「なぜならば」で答えると、「そういうことを聞いているんじゃなくて」とか、「言いわけばっかりじゃないですか」とか、「私たちを見放す気ですか」になってしまうのです。最初の会話で、もし病院側の説明がその方がわかるような説明に及んでいなかったなどということがあれば、「申しわけありません」という言葉までは必要ないかと思いますが、「説明が及んでいなかったようですね」「ご不安な思いをおかけいたしました」という言葉を会話の最初にほしいのです。クレームであっても、率直な声をお聞かせいただいたということへのお礼、「お声をお聞かせいただいて、ありがとうございます」というと、相手も少しほっとする。そういうところをまずスタートとして意識していただきたいのです。
山内
まず一言というところですね。そこから始まって、ゆっくりと進めていくことになると思いますが、どういったあたりがポイントになるでしょうか。
田村
もちろん患者さんやご家族の目を見てなど相づちのトレーニングは受けていると思いますが、私が関わっている病院では、相づちの語彙が非常に少ないという気がします。「はい」と「ええ」と、あとは医師以外のスタッフに対する苦情、不平・不満では「申しわけありません」、だいたいこの3つで話を進めていく医師が多く見受けられます。気持ちはすごくわかるのですが、このときの相づちの言葉を、共感・慰労・称賛という3つに分けて意識していただくと会話は運びやすくなってくると思います。
山内
具体的にはどのようになるでしょうか。
田村
例えば「受付でこんなことを言われた」といったときに、「申しわけありません」と言いたいところなのですが、「そのようなことがありましたか」のように言うと会話が続けやすくなるのです。「申しわけありません」というのは、「申しわけありません(謝ったので、それ以上ごちゃごちゃ言わないでください)」になってしまうのです。実際には医師の方にも思いがあるということは私も重々承知しておりますが、語彙力が弱いとそんな誤解を与えてしまいがちです。「そのようなことがありましたか」とか、例えば「こういうことがあったから電話したんです」と言ったら、「ああ、それでお電話を」と言うのが共感です。
山内
相手の方が言った言葉にうまく乗って、ということですね。
田村
言わんとしているところを、同調ではなくて、この人はこういう情報、環境のもと、今こういう感情が芽生えているのだということを受け止めるのを、共感というカテゴリーにしています。
山内
それ以外はどうなりますか。
田村
慰労、これは不安な気持ちを相手が言う前に言っていただきたいですね。例えば、質問にある小児科医ならば、「子どもが一晩中泣いていた」「体をかいていた」などのときに「はい」とか「ええ」だけではなく、「たいへんご不安でしたね」というような言葉であったり、「うちは上の子と年が離れてなくて、まだ2人とも小さいのに」などというときに、「じゃあ親御さんは、昨晩は寝られなかったですね」などという言葉がけが慰労です。
山内
そしてあともう一つですね。
田村
もう一つは称賛です。例えばお母様が相手ならば、日頃どれだけお子さんを思いやっていらっしゃるか。病気があってもなくても、その感情を目の前の医師にぶつけるというのはかなりいっぱいいっぱいの状態だと思うのです。そこが一言、二言聞けたならば、「じゃあご家族のために」というような言葉、これが称賛です。
山内
このような対応は医師のところに直接来てそういった話が出る前に、できれば受付なり看護師なり、パラメディカルのあたりで受け止めてあげられるのが理想になりますか。
田村
それが一番私がお勧めしている方法です。実際に受付ではプンプン怒っていらした方が、いざ診察室に入ると、とてもおとなしくなるというのはよくあるケースかと思います。やはり命を預けている医師に、いろいろな不平・不満があっても、本気で全部ぶつけるという方はあまりいらっしゃらないと思いますし、いたとしても、それは本意ではないと思うのです。ただ、何か言わずにいられないというときに、医師の前のところでブロックできるようにしたいですね。ではどうするかというと、やはりスキルで対応していく。ほかの医療従事者の方々もクレームを受けていたら疲弊してしまいますので、人間力で勝負ということではなく、クレーム対応のスキルをきちんと身につけて、そこで対応していただくということをお勧めしています。
山内
先ほど挙げられたようなものがスキルということになるのですね。あと、こういうケースですと、激高して攻撃型になってくるケースが多いと思うのですが、こういったケースはどのように扱えばよろしいですか。
田村
最初の数分間は何もできないという場合も非常に多いかと思います。そのときには最初の2~3分はただただ、対面であっても、電話であっても、聞くしかないということはあるかもしれませんが、そこで一区切りついたならば通常の言葉がけと同じです。先ほど申し上げたとおり、説明が及んでいなかったことへのお詫びに近い言葉だったり、率直なお声を聞かせていただいたというお礼の言葉であったり、そしてその後に、相手の話をちゃんと受け止めていますということを示す相づち、共感や慰労や称賛の言葉を挟んでいくと、早い段階で落ち着いていただける確率が上がってくると思います。
山内
あと、同じ話でぐるぐる回る方がいらっしゃいますが、こういったケースはいかがですか。
田村
同じ話を何度もされる方の特徴として、ほしいお礼やお詫びや相づちをもらっていないということが多くあります。どれだけ自分がたいへんだったか、どれだけ辛かったかということを、もちろん医師の方々はおわかりになっていらっしゃるのですが、「はい」とか「ええ」だけだと、わかってくれていないと感じ、何度も同じ話をしてくるケースが多いです。なので、会話の早めの段階で、「ご不安でしたよね」とか、「それはお辛かったですよね」などの言葉がけをするとよいでしょう。
山内
少しボキャブラリーを増やしたほうがいいということですね。ありがとうございました。