ドクターサロン

 池脇 妊娠を希望されている方に対して気をつけたほうがいい薬があるのか、という質問をいただきました。先生の妊娠と薬情報センターでもそういった問い合わせがあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
 村島 基本的に妊活中に使えない薬は、正直、そう多くはないのです。ですがもちろん、催奇形性のある薬はできれば妊活中には使ってほしくないと思います。催奇形性のある薬としては、皆さんご存じのサリドマイドがありますが、現在はしっかり安全対策がされていますので、のむことはまずないと思います。最近個人輸入で、ニキビの薬としてビタミンA誘導体を使われる方がいて、むしろそのほうが危ないくらいです。あとは慢性疾患で使うワルファリンや、私の専門領域である膠原病や臓器移植後の患者さんで使う免疫抑制剤のミコフェノール酸モフェチルや、リウマチのメトトレキサートなどです。てんかんの薬で、量にもよりますが、バルプロ酸などもあります。
 このような催奇形性のある薬は妊活中にはほかの安全な薬に変えるべきだと思いますが、例外もあります。例えば血栓の既往のある方などに使われるワルファリンは催奇形性がありますが、妊娠がわかるまで使わざるをえないのです。なぜならば代替薬としては注射薬であるヘパリンしかないからです。いつ妊娠するかわからない状況で自己注射をするのは合理的ではないので、妊娠がわかったらすぐにワルファリンをやめてヘパリンにしましょうという使い方をします。このような使い方をしても大丈夫である根拠はあとでお話しする「全か無の時期」の存在です。繰り返しになりますが、このような場合を除いて催奇形性のある薬は妊娠前からほかの安全な代替薬に変えるべきです。
 池脇 健康な方でも、風邪を引いたり、ちょっと頭痛があって一時的にそういった薬を使うのは、基本的に問題ないのでしょうか。
 村島 先ほどは催奇形性のある薬の主なものを羅列したのですが、急性期疾患で使う可能性がある薬で2つ、注意が必要なものがあります。一つはミソプロストールという非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の胃粘膜障害を予防するために使う薬です。これは子宮収縮作用があるので、海外ではメトトレキサートと併用して中絶目的に使われるような薬です。この薬を妊娠初期にのむことで流産を引き起こしますし、流産に至らなくても血行障害を起こして、赤ちゃんに形態異常、いわゆる奇形をもたらす可能性があります。したがって、ミソプロストールは妊活中や、妊娠する可能性のある女性には処方してはいけない薬として一番注意していただきたいです。
 もう一つ注意が必要なのはNSAIDsです。これは動物実験で排卵障害や着床障害を引き起こす可能性が従来から示されています。ヒトでは証明されてはいないのですが、妊活中でなかなか妊娠しにくい方に常用するのはやめたほうがいいと思います。催奇形性に関しては心配は無用と考えます。
 池脇 わかりました。そんなに多くはなくても、この2つに関しては要注意ということだけはきちんと説明したほうがいいのですね。
 村島 はい。
 池脇 何か薬を使った後、妊娠していることがわかって、「その薬、大丈夫なんでしょうか」と受診、あるいは問い合わせもあると思うのですが、偶発的な場合はどうなのでしょうか。
 村島 そういう相談が一番多いですね。慢性疾患では精神科系の薬剤が多いのですが、それ以外ですと、やはり偶発的に薬をのんでしまったという方が多いです。我々が全く心配していないような薬でも心配されて相談にいらっしゃいます。
 池脇 その中で、先生も心配されるような薬はあるのでしょうか。
 村島 急性期に使う薬の中で心配するのは先ほどの薬だけで、むしろ慢性疾患で使っている薬で少し注意が必要なものはあります。それはてんかんや片頭痛の予防や双極性障害などでも使われるバルプロ酸です。これは量にもよりますが、奇形の頻度が上がるとか、赤ちゃんのIQにも影響するのではというデータもあります。したがって、妊娠の可能性のある女性はできるだけほかの安全な薬に変えたほうがいいと思います。最近は効果や安全性の面で使いやすいてんかんの薬も出てきています。
 あとは関節リウマチも患者数としてはけっこう多いので触れておきたいと思います。関節リウマチのアンカードラッグであるメトトレキサートを服用したまま妊娠すると流産につながりますし、妊娠と気づかずにけっこうな時期までのんでしまうと、奇形の頻度が少し上がるという報告がありますので、妊娠を考える女性は控えたり、妊娠を希望した段階でほかの薬に変えられたほうがいいと思います。
 あとは、最近時々相談があるのがニキビの治療薬であるビタミンA誘導体の一つであるイソトレチノイン酸です。個人輸入や皮膚科関係のクリニックで自費で購入してのまれているようですが、この薬は催奇形性がありますので注意していただきたいと思います。
 池脇 ビタミンA、レチノールは体に必要だけれども、大量というのがよくないのですね。
 村島 ビタミンAについてはそのとおりです。しかし、ビタミンA誘導体であるイソトレチノイン酸は催奇形性がある薬ですので量に関係なく注意が必要です。
 池脇 何かの薬を使って、そろそろ生理が来るタイミングで来なくて、1週間ぐらいたって妊娠反応をチェックしたら陽性だったというときは妊娠4週、5週ぐらいです。そういう時期は基本的に奇形のリスクは高い時期と考えてよいのですか。
 村島 妊娠週数は最終月経から数えますので、受精するのがだいたい2週、生理がそろそろ来るのに来ないので妊娠したかもというのはちょうど4週ということになります。その4週からプラス数日間は「全か無の時期」といって、この時期に薬や放射線に曝露された場合、影響が大きいと妊娠が継続しない、そうでない場合は、奇形というかたちで影響は残らないと考えられています。どうしてかといいますと、まだその時期はお母さんの血管と受精卵が直接連絡し合わない時期ということ、またこの時期は赤ちゃんの体ができ始める直前の段階なので、奇形としては残らない時期とされています。
 ですので、妊娠と知らずにのんでしまったのが4週プラス数日ぐらいまでの時期であれば、これは「全か無の時期」だから、安心してくださいと言ってください。さらに、その薬自体も、ヒトでの経験から催奇形性はなさそうといわれている薬だから、二重の安心ができますと言ってあげていただきたいと思っています。ただ、安心してくださいとか大丈夫ですというと100%先天異常がない赤ちゃんが生まれると思いがちですが、先天異常の自然発生率は2~3%ありますので、言葉を選んでお伝えください。
 池脇 妊娠反応でわかる早期の段階でそういったことがあったときには、基本的にはそう心配しなくてもいいのですね。
 村島 そう言ってあげていただきたいと思います。
 池脇 あとは、パートナーの男性が何か薬をのんで、それを心配されて来られる方というのはいらっしゃいますか。
 村島 そうですね。一時的な薬にしても、慢性疾患でのんでいる薬にしてもパートナーの薬で心配される方はけっこういらっしゃいます。今まで、それこそサリドマイドのような薬でも、男性側が使った薬で赤ちゃんに何らかの影響があったという報告はないのです。どういうことかといいますと、パートナーの薬が赤ちゃんに影響するとしたら、一つは精液を介して胎児へ影響するか、もう一つは遺伝毒性という少し複雑で難しい話になってしまうのですが、精子へ遺伝的な影響を与えて、それが赤ちゃんにも何らかの影響をする、大きく分けると2つです。
 なお一つ目の精液を介しての胎児への影響についてですが、精液の中の薬の濃度は非常に低く、それが経腟的に吸収されて、お母さんの全身を回って、子宮動脈から胎盤に血液が流れて、そこで初めて赤ちゃんに行くので、その量は天文学的に非常に低い濃度になります。したがってパートナーの薬を心配しないでいいですよと私たちは言っているのですが、添付文書に書かれてしまうと、それを否定するのはなかなか難しいと感じています。
 池脇 妊活中の気をつけたほうがいい薬ということで、基本的にはそう心配することはないものの、慢性疾患で使われている薬、あるいはミソプロストール、あと一部のNSAIDsでしょうか、それに関しては少し気をつけてくださいという話をうかがいました。
 村島 妊娠と薬情報センターの申し込みがオンライン化できました。ただ、直接女性から申し込んでもらわなければいけないので、妊娠と薬で困った場合にはぜひ患者さんに「妊娠と薬情報センターで相談できますよ」とご案内いただければと思います。
 池脇 どうもありがとうございました。